エピソード15 現実と限界
初めて見た。
回復魔法を。
便利だとは思う。
今はそれ以上の感想が出てこない。
負けた、はっきり言って完敗だった。
自分とバイベルでは力自体の差が大きかったと思う。
自分のありとあらゆる全力を完璧に弾き返され決定打を叩き込まれた。
「もう無理して出なくてもいいぞ」
父が自分を心配する。
まだ3位決定戦があるのだ。
「こんなに怪我したのだから出なくてもいいわ、ラインは本当に頑張ったんだから」
「お母さん、大丈夫だよ、次も出る」
「そこまで無理しなくても、来年もあるッ」
「無理、絶対に嫌だ」
フラつきながらそう言い残し、ラインは三位決定戦に向かった…
最後の相手は女の子だった。
名前はアーテリー・ロベルト。
二刀流なのだろう、短剣を2本持っている。
(癖強いな)
持ち方も独特で短剣を逆手持ちで持っていた。
時代劇で出てくるような忍者のように見える。
「はじめ」
審判が合図してから数秒、間が空き両者同時に仕掛ける。
ラインが爆破魔法のブラストバーンを足元と腹に目掛けて放つがアーテリーが軽やかに避けて首元にカウンターを入れる。
ラインはそれを剣で受け流し、逆に反撃するがアーテリーを捉えきれず苦戦する。
(速すぎて動きが掴めきれねぇ)
互いに眼と眼が合うぐらいの至近距離で斬り合いになる。
バイベルとは一発、一発が重く、大味な試合だったがアーテリーとは手数勝負になる。
ラインはアーテリーのスピードについていけず斬り合いに押されて防戦一方になった。
(このままだとスピードで負ける!)
そう思いラインは斬り合いから攻撃を避ける事に全力を注ぐ。
「逃がさないから!」
アーテリーはそう言うと更にギアを上げ、目にも止まらないほどの斬撃がラインを襲う。
5連続ある内の3発はギリギリ避けたが最後の2発は頭に入る。
頭は有効打にはならないが浴びたことのない衝撃が脳に走る。
「隙だらけよ」
アーテリーはラインがフラつく間に空中で魔力を溜め始めた。
2秒間しっかり溜めた魔力は、大きな岩石に変わる。
「岩落とし・ロックダウン!!」
アーテリーはそう言うと手の合図により、巨大な岩石をラインに落とした。
(ヤバイ、死ぬ)
ラインは死を悟った。
目を開け状況を確認する。
武道館の治癒室に居ることは天井を見れば分かる、さっきも見た。
良い目覚めではないのは確かだが体に痛みはない。多分、治癒師のヒールが効いたのだろう。改めて凄い魔法だと思う。
「ライン!大丈夫か、痛む所はないか」
父が心配そうにラインの背中を支える。
「やっぱり負けたの?」
負けたという事実を理解したくない。
「それよりライン!体は大丈夫なの?」
母は珍しく怒った表情で言った。
「お母さん、心配しないで、大丈夫だよ、ほら」
ベッドから降りて手を上下にバンザイして大丈夫だという事をアピールする。
それを見た母は
「勝てなくてもいいの、無事ならそれで良いの」
母が自分に抱きつく、少し痛い。
今日初めて母にワガママを言った気がする…いやそれは無いか。
「失礼しますよ」
髭を生やした60代くらいのお爺さんが治療室に入ってきた。
「見た感じもう大丈夫そうだね、うんうん」
(誰?治癒師には見えないな…)
「君、我が校の剣士育成科に興味はないかね?」
長い髭を撫でながら言った。
「え!ぜひぜひ行きたいです!」
負けた事を忘れるくらい嬉しく自分の今までの努力が報われた気がした、即答だった。
「それは良かった、我が校でも良い人材は確保しなければならないからな、うんうん」
「すみません、ありがたい話なんですが、うちの息子はヒカイト人でしてこの話はちょっと…」
お父さんが申し訳なさそうに断る。
(は、なんて?)
「なんと!まさかヒカイト人の血を引いていながらここまでとは、惜しい人材だ、実にもったいない」
「もったいないって何だよ!!」
ラインは生まれて初めて声を荒げた。
「ヒカイト人なら話は別だな、この話は無かったということで」
そう言うと髭を生やしたお爺さんは去っていた。
「どうゆう事だよ、意味が分かんないよ、なんだよヒカイト人って!」
「お父さんも早く言えば良かった、でもお前が頑張る姿を見るたび伝えるタイミングが無くて、すまない」
父が頭を下げるがラインの理解は追いつかず怒りは沸点を超えた。
「もう何も知らない、お父さんなんて大嫌いだ!!」
ラインはそう言って治療室を飛び出し武道館の廊下を走った。
「ライン!待ってくれ」
自分は全速力で走った、足が回らない、でも走った。
(何故?何?何が言いたい?ヒカイト人って何だ!!)
頭から疑問と怒りが沸き立つ。そして、
ドッサー
「痛ったーー!」
足が絡まり、倒れてしまう。
「あら、君はまさかライン君、大丈夫ですか?」
目がキリッとしたおばさんに手を差し伸ばされる。
「誰?」
「7番のライン君で合ってるわよね、先ほどは素晴らしい試合でした」
(は?どこが?)
「はぁ、あの、ありがとうございます」
言いたい事はあるがグッと堪えてラインは、おばさんの手を受け取り立ち上がった。
「私はライブプレスト王国に位置する学校、クライフ学校の副校長をやっていまして」
「はぁ…」
いきなり言われてもピンと来ない。
それに今は一人にさせて欲しい、今まで無い以上にイライラが止まらない。
「ぜひ我が校の兵士育成科に入らないですか?」
(行きたい、でも…)
「それってヒカイト人でも入れる?」
副校長は口を開けて唖然とした。
得体の知れないモノを見た顔をしている。
「君はもしかしてヒカイト人なのですか?」
「ヒカイト人の何が駄目なんだよ!」
また怒鳴ってしまった。
ラインは黒い感情が喉から出そうになる。
(ウザい、ウザい、何もかもウザい、キモい、誰だよこのおばさん、もう話し掛けんな!これ以上は聞きたくない!!)
「失礼な事言ってしまうけどヒカイト人には戦う才能がないのよ、非情に聞こえるかもしれないけど今の君には才能がないわ、期待させてごめんなさいね」
絶望の音が聞こえる。
前世でも聞いた。
自分は崖から突き落とされた。
耳にはゴミ共の声が聞こえる。
「あの子、ヒカイト人らしいよ」
(ヒカイト人って何だよ)
「あんなに強かったのに、才能がないのか」
(はぁ?才能って何だ?)
「運が無いな」
(うるせーよ)
「なんでよりによってヒカイト人の血を引いちゃうかな」
(黙れ)
「俺だった恥ずかしくて自殺するね」
(だったらお前が死ね)
「おい、やめろよ、聞こえるかも知れないだろ」
(とっくに聞こえてるわ、ワザとだろ)
「君には才能が無い」
この言葉が頭の中で繰り返され、今までの違和感が一本線のように繋がった。
世界から音が消えた。全てが無音になった。
ラインが膝をつき項垂れる。
母が駆け寄って抱きつかれたが感触はない。
(この世界でもまた嫌われるのか)
ラインはこの後苦しく辛い現実を目の当たりにする事になった。




