エピソード14 力強さ
1回戦が終わり、父と母の元へ向かう。
「お母さん!勝ったよー」
自分は甘えたくて母の腰に抱きつく。
「ふふ、今まで練習頑張ってきたものね、本当に偉いわ、ふふふ」
母は涙を拭き取りながらラインの頭を撫でる。
「次も頑張るよ!」
「無理はしないでね、ふふ」
母は勝って嬉しそうだった。
涙目なのが気になるけど。
「ライン、頑張ったな、次も程々に怪我だけ気おつけなさい」
父にも頭を撫でられた、しかし…
(またかよ、何で?)
父は勝ったのに複雑そうな顔をする。
初めて街に出掛けた時もそうだった。
父も母も何かを隠しているような気がしてならない。
「7番、そろそろ準備して」
係の人に呼ばれ違和感を抱えたまま次の試合に臨んだ。
正直余裕だった。
相手はまだ子供なだけあって攻撃が単調だったり、ラインの放つ魔法の処理に苦戦していた。
ラインは基本右手で剣を持ち、左手で魔法を放つ。特に魔法を使った絡め手は有効だった。
力は強くないので剣で押し切る時は両手持ちに素早く切り替える。
ラインはこの切り替えが他の人とは段違いで速く、剣と魔法を上手く組み合わせる事で準決勝まで勝ち上がった。
(次の相手正直キツイな、どうしよう…)
名前はバイベル・ルーニー
父がルーラ教会の役員で優勝候補という話をローザ先生から聞いていた。
8歳の子供にしてはもう既に体つきがゴツく、試合を見ていると圧倒的な強さで勝ち上がっていた。
ラインは次の試合を頭の中で組み立てる。
「7番、次の試合終わったら君の番だよ」
試合のシミュレーションをしてる間に準決勝が始まった。
バイベルとラインが向かい合う。
ラインは試合前の緊張はなくリラックスしていた。
(勝手な偏見だけど、顔的に性格が悪そうだな)
ツリ目で狐顔のバイベルを見てそう思う。
「両者はじめ」
「おりゃああああ!」
審判が掛け声をして1、2秒バイベルがいきなり仕掛けてきた。
いきなり両者激しい剣の打ち合いが始まる。
(いやまじ!力強すぎ!反動で体が押されるわ)
ラインは打ち合いから避けることにシフトチェンジして距離を取ろうとする。
バイベルはそれを許さずに右に左に剣を振って逃がそうとしない。
一発、一発が重く、手が痺れる。
「くっそ…ん?」
(右、左、右、左、次も右か…さっきからワンパターンだな)
バイベルは分かりやすく左右交互に剣を振っていた。いわゆる脳筋である。
(右、左、右、ここだッ!)
ラインは左に剣を振るタイミングで地面スレスレまで重心を下げてバイベルの攻撃を避ける事に成功。
バイベルは振りが大きいので隙が大きく、ラインは下から上に剣を振り上げ首を狙う。
「まじか!コイツッ!」
バイベルが完璧に動きを読まれて動揺する。
バイベルは一瞬対応が遅れるが流石の反応を見せてラインの攻撃を思いっきり弾き両者反動で体が押された。
「危ねえぇ、いつもの悪い癖が出ちまったぜ」
(気づく前に勝負決めたかったな)
流石にここまで勝ち上がってるだけあって一筋縄ではいかない。
今度はラインから仕掛ける。
距離を詰められる前に火球、水球、岩柱を連続でバイベルに放ち、それをバイベルが剣で切り裂く。
バイベルが魔法の対応してる間に、ラインは後ろに回り込み胴体を狙って剣を振るが、バイベルは地面に倒れ込むような形で避けた。
「崩した!!」
バイベルが仰向けになったのでラインは上から下に剣を突き刺そうとする。
ラインが突き刺そうと剣を振るがバイベルは剣先で受け止めた。
数cmズレていれば勝負が決まっていた状況。
下馬評ではバイベルは優勝候補だったが、予想外の展開に観客は息を呑む。
誰もがラインは優勢であり、バイベルは劣勢だと思った、しかし。
(その体勢じゃ力が出ないだろ、いける!)
剣の先を少しズラし自分の全体重をかけてラインは斬りつけ押し切ろうとする。
「嘘!!なんで!!」
バイベルは、すかさず剣身で完全に受け止めピタッと止まり押し切れない。そしてみるみるバイベルの剣身が逆にラインに近付いてくる。
「うおおおりゃぁああああ!!どきやがれー」
ラインの全体重ごとバイベルは押し返した。
ラインは人間以上の力で弾き飛ばされ空中を舞った。
「おおおおお、流石、ルーニー家の子供だ、でも相手の子供もなかなかやるな」
武道館の熱気で体温が上がる。観客の声援が増すがラインには届かない。
「いったッ!」
地面に頭から着地した。
意識が朦朧とするがそれでも確かな足取りで立つ。
頭がグワングワンいってうるさい…
(頭ふらつくけどまだ負けてない!)
バイベルも同じタイミングで立ち上がる。互いに体力の消耗が激しく息が荒れる。
「ハァ、ハァ、ヒカイト人なのによくやるな、お前」
バイベルがラインの眼を見て言った。
「なんだよ、ヒカイト人って」
「ふ、まさか知らないのかよ」
(大丈夫だ、落ち着け、自分を焦らせようとしてるだけだ)
「お前は俺に一生勝てねぇよ」
バイベルがニヤッと笑う。
(やっばくそ腹立つわ、でもやっぱり決定打に欠くな、やっぱりアレを使うしかないか)
ラインはこの大会の為に練習してきた必殺技を使う。本音としては決勝まで取っておきたかった。
バイベルと距離をさらに取り、ラインは地面を触る。
それを見たバイベルは魔法を使わせないように距離を詰めるがラインは下から人が1人座れるくらいの岩柱を出してラインを乗せる。
バイベルはジャンプして攻撃しようとするが岩柱はラインを乗せてぐんぐん上がり、10メートルくらい地上から高くなった。
(もうこれ以上地面に干渉出来ないな)
そう思い、ラインはバイベルを見下ろして狙いを定めた。
ラインは岩柱から鳥の様に飛び降り滑空する。
その姿は美しく、神も惚れ惚れする様な身体操作能力に観客を釘付けにさせた。
ラインは空中で1回転して攻撃に鋭さと速度を上乗せさせる。
全てを乗せた剣でバイベルを叩きつけるが、又してもバイベルは剣で受け止め弾き飛ばそうとする。
(このまま押して地面に叩き潰す!)
激しい力がぶつかると共に互いの怒号が武道館に響き渡る、そして…
ふと気づいた時、ラインは空中だった。
重力を無視した様に空中をぐんぐん進む。
経った数秒なのに体感は長くゆったり時間が進む。
腕全体が痺れ、麻痺し、力が一切入らない。
又しても、ラインは力勝負に負け弾き飛ばされた。
上を見るとバイベルが更に上にジャンプしており自分を見下ろす。
今、無力な自分が憎い。
「これで終わりだ、地の底に落ちろ」
ラインは避けようとするが体が1ミリも動かず、バイベルが自分の腹に剣を突き立てるのを見てるしかなかった。
剣が当たる瞬間、ジェットコースターに乗るような感覚で臓器が動くのが分かる。
激しい音と共にラインは地面に叩きつけられた。




