エピソード13 1回戦
少年期剣士大会と呼ばれているものの、絶対に剣で戦う事を義務付けられてるわけではないし、別に少年だけではなく少女も参加していいことになっている。
勝利条件は、三つある。
一つ目は、自分が使っている武器や魔法を相手の胴体又は首に当てること。
一応女の子も参加する時があるので、顔や頭は無効判定になる。
ここで気をつけたいのは、魔法や剣を当てるだけでは有効打にならず勝利にはならないこと。
例えば剣が首に掠ったとしても試合は続行されるので勝つにはしっかりミートさせなければならない。
有効打の判定は審判が判断するらしい。
二つ目は、決められた範囲内に相手を追い出す、もしくは自分で範囲内から出ると失格になる。
これは互いに逃げすぎると試合が終わらないため設けられたルールで相手の攻撃を躱すのではなく最初から逃げたりすると審判から注意を受け、2回注意を受けた時点で失格になる。
三つ目は、相手を降参させるとその時点で勝ちが決まる。
ローザ先生に教えられたルールは、こんなもので至ってシンプルである。
「ローザ先生ってこの大会に出たことあるんですか?」
「ふふーん、珍しくいい質問だね、ライン君」
(おっと、これはこれは、面倒な質問してしまったな、長くなるぞ)
「なんと言っても私は11歳の部門で4位を取ったことがあるのだ!」
控えめな胸を張って自慢されたがどれくらい好成績なのかイマイチ分からない。
「4位ってそんなに好成績ですか?」
「確か50人参加の4位だから結構凄いから!あの時のアタシって優秀だったなぁ…」
それからローザ先生が学生だった時の長い自分語りが始まった。
今の状況にとても既視感を感じる。
前世で中学のサッカー部の先輩がよく言っていた。
(俺が1年の時は今より強かったんだけどなー)である。
対して上手くもない先輩は口だけ立派で嫌われていた。
それに対してローザ先生は確かに強いのでその時よりはマシだと思う、話長いけど…
「へぇーローザ先生ってすご〜い、天才じゃん」
ラインは気持ちが入らず棒読みである。
一応褒めておく事でこのあとの練習を少しでも楽にしてもらう為である。
「ラインは私の成績を越えはしないと思うけど良いところまでは行くんじゃない」
上から目線で少し腹が立つ。
「今のままなら無理だろうけど、もし私を超える事があれば剣士育成科に行けるかもね」
「ホント!」
名前は剣士育成科となっているが、主な目的は強い人材を輩出する為なので卒業してから剣士になるかどうかは自由で変な縛りがなく興味があった。
「私はこれでも剣士育成科に入れるぐらいには強いからね、その後伸び悩んだけど…」
「仮に推薦貰えたら剣士育成科に入っても良いの?」
「…ハルトさんに説得ぐらいはしてあげる、でもラインが3位以上取れたらの話だからね」
その言葉でラインは希望を持つ。
ローザ先生は確かに強いが絶対勝てないとは思ってはいない。
これから大人になれば身体能力も上がり、技術的な部分もさらに向上すると思うので勝てるチャンスがあると思っていた。
そして今回の相手は同年代である。
ローザ先生より技術も身体能力も未熟なはずだ。
胸は分かんないけど。
ローザ先生の言葉を聞いて来月の少年期剣士大会に向けてより一層練習に励んだ。
少年期剣士大会、当日。
会場はクリスタル学校の武道館で行われる。
この街の一番のビッグイベントなだけあって多くの人が会場に詰めかけていた。
外には屋台や歌を披露する人もいてお祭りの様な雰囲気になっている。
ガクガクブルブルガクガクブルブル
そんな雰囲気にやられラインは緊張していた。
(やっば、手の震え止まらないんだけど…)
前世はあがり症だった。
それは前世も現世でも変わらない。転生したとしても中身は同じ人間である、メンタル面は特に。
サッカーの試合でもよく緊張していたが、試合さえ始まってしまえば後は、アドレナリンが出て解決する。
(とにかく初戦が大事、初戦さえ乗り切ってしまえば何とかなる)
そう自分に言い聞かせて、昂る気持ちを落ち着かせる。
朝に、父と母に激励の言葉を貰ったが何を言われていたのか正直覚えてない、自分の事で精一杯だった。
形式としては負けたら終わりの一発トーナメントになっており、9歳の部門は30人参加になっている。一応三位決定戦もあるらしい。でも勿論狙うは優勝だぁ!!
「うわぁ、多いな」
隣のトーナメント表には16歳の部門があり、150人以上参加していた。
年齢を重ねるごとに参加人数が多くなっている。
係の人に「試合始まるから来なさい」と言われ対戦相手と並ぶ。
相手は自分より少し大きく緑色の髪の子だった。
「ふぅー、大丈夫、だいじょ?アレ俺の剣どこに置いたっけ?」
手に持っていたはずの木の剣が見当たらない、焦って、周囲を探す。
「ライン、これ忘れてるよ」
声をした方向を見るとローザが剣を持っていた。練習の時は悪魔に見えていたが今は天使に見える。
「家の玄関に置いてあったぞ、全く大丈夫か?」
「朝から気が張ってて…今日駄目かも…」
口に出すつもりのなかった弱音が出た。
「何?もしかして緊張してるの?」
「多分…」
ラインは俯きながら言った。不意に弱音を吐いてしまい恥ずかしくてローザの目を見れない。
「あのさぁ〜別に負けてもしょうがないし、逆に勝ったら儲けものだよ!」
ローザが珍しく緊張しているラインを励ますが
「・・・」
ラインから反応はない、思い詰めた顔をしている。
「よし分かった!もし優勝したらキスしてあげるよ、優勝が絶対条件だからね!」
唐突のキス宣言で驚き顔を上げると、ローザは自分の唇に人差し指を当ててそれをラインの口に優しく受け渡す。
「負けんなよ!」
そう言ってローザは客席に戻っていった。
ラインは思った…
(これって…間接キスじゃん!)
「よし、イケる」
何故か緊張しなくなり、とてつもない気合がメラメラと燃え上がる。
その姿を見ていた隣の対戦相手が
「ダッサ」
カッチーン
頭の中で何かがキレた。
(はい、もうキレました、それだけは言ってはいけないよ、まじで、子供だからってもう容赦しないからね、謝るなら今のうちだよ、あー謝らないんだ、だったらもうしょうがないわ、ボコボコにぶっ倒してしてやるよ)
緊張から怒りに変わり頭を支配する。
それと同時に自分達の試合の番がとうとう回ってきた。
武道館は、ステージを囲む様に観客席が配置されていた。
観客の熱気で蒸し暑く、登場時の歓声で地面が縦に揺れる。
普通の子供なら緊張するがラインは怒りで手の震えが消えていた。
ラインと対戦相手は向かい合って審判の合図を待つ。
「はじめ」
審判が声と同時に手を下ろした。
(先手必勝!一発でキメる)
ラインは怒りに身を任せ距離を一気に詰める。それを予想していたのか否か、相手は左に躱してカウンターをすかさず入れる。
「しまった!」
相手が振り下ろした剣は自分の首筋を通るがギリギリの所で、後ろに避けて体勢を立て直す。
「惜っしい」
相手は悔しいそうな顔をする。
ラインが試合開始と同時に攻めてくる事を読んでのカウンターだった。
ラインは間合いを保ちながら水球で牽制を入れるが相手は火球で相殺する。
相殺した時の煙に紛れそのタイミングで ラインが前傾姿勢をとり剣を相手の首元に突き刺すが、相手がギリギリ剣で受け止めて、逆に剣で押し返す。
押し返された反動でラインの後ろに重心がいき大きく体勢が崩れた。
「うわぁぁ!」
その隙を見逃さず逆に相手がラインの首元を狙うがラインが後ろに倒れるのを利用して足で相手の剣を横に弾いた。
一進一退の攻防に観客がどよめく。
「今年は例年に比べてレベルが高いですね」
観客席にいた学校関係者が目を光らせる。少年期剣士大会は優れた才能を発掘する役割も担っていた。
ラインはすぐ立ち上がり、剣を取ろうとしていた相手に追撃を加えようとする、だが。
「ん?」
(何か、来る)
ラインが追撃を加えようとしてるのを見て、相手は判断を変え剣を取らずに地面を触る。
地面を触った直後に岩柱が出てラインの追撃を阻んだ。
(危ねぇ、あのまま突っ込んでたら完璧に直撃してたな)
ラインは状況を整理する。
「ふぅー1回落ち着いて」
怒りで支配されていた頭をリセットさせる。
「ビビってんの?来いよ」
相手は憎たらしいほどに挑発してくるが、ラインはもうその手には乗らない。
(予想だが相手はカウンターが得意もしくはカウンター攻撃で仕留めたいのかも、それなら…)
カウンター主体の戦い方はローザのおかげで知っている。
「お前がそう来るんだったら」
今度はラインが地面を触り相手の足元を泥沼に変えて動きを鈍くする。
泥沼に変えた後、両サイドに水球を放ち、泥沼から横に避ける事を防ぎ、距離を一気に詰める。
ラインは相手の剣の間合いに立ち入り、急に止まった。
100の勢いで来たラインが相手の攻撃範囲で勢いを0にしたのだ。
(頼む、攻撃してこい!)
距離を詰めた後、相手が慌てて剣を振るのを待った。ラインの狙いは相手から攻撃を引き出す事だった。
「うおぉぉーーー来るなぁー!!」
ラインの計画通り、相手はラインの腹めがけて剣を横に振る。
ラインはその攻撃を上にジャンプして相手の首に剣を振るった。
インパクトある音と一瞬の静寂
「勝者、ラインハルト・マーチ」
「うおおおおッッ!!」
「今年も見応えある試合ばかりだな」
1回戦とは思えない大歓声が会場を包む…
「はぁはぁ、よ、よっしゃーー」
頭が沸騰するほどの興奮が訪れた。
ゴールを決めた時に近い。
相手より優れているという証明が脳を快楽へ導く。
「負けたよ、君を挑発するような発言ばかり言ってすまない」
緑髪の子供から握手を求められそれに応じる。
(意外にいい奴かよ)
心の中で呟いた。
二人は熱い握手を交わした後に今度は観客席から拍手された。
観客席では…
「あの黒髪の子は何番?」
「7番です」
「あの子も候補の一人にするわ」




