エピソード9 剣術
最近、魔法に関しては躓いている。
いわゆる壁だ。
今まですんなり上手く行きすぎた分、不安を感じる。
でもあまり焦らずに取り組むことが出来ているのは、いずれ習得出来るという自信があるからだ、なんとかなる気がする。
今習得しようとしているのは土魔法の派生だ。
土の魔法の土は手から出すことが出来るがそこから派生する岩魔法が出来ない。
水魔法が出来た後の氷魔法もついでに覚える事が出来たように、土魔法の派生で土を固めた陶器や岩石を出そうとしたが上手くいかない。
母に教えて貰おうとしたが母は土魔法を一切使えないらしくあえなく断念。
(1回で良い、1回だけでも岩魔法を直接見れたらイメージが固まって習得出来る気がするんだけどなぁ)
今日も庭で試行錯誤しながら自分は悩みに悩んでいた。
そこへ剣を振っていた父が近づいてくる。
今日父は休みである。
「頭をクネクネさせてどうした?」
「岩魔法が覚えられないんだけど、お父さんって岩魔法出来る?」
「お父さんはお母さんほど魔法が得意じゃないんだ、ごめんな」
お父さんが悲しそうな顔をする。
自分は期待の眼差しから相当ゲンナリした顔をしてしまったらしい。父が俯いてしまった。
「だよね、一回でも見れば出来ると思うけどなぁ〜」
後少しで掴める感覚がある、父を励ましたいが構ってる暇はない、ごめん、パパ!
自分はまた頭をクネクネし始める。端から見れば実に変な動きだ。
「剣術ならお父さん教えれるけど興味あるか?」
変な頭の動きをしていた息子を不憫に思ったのか、父が別の提案をした。
(う〜ん、このままずっと行き詰まるよりは、前から興味があった剣術やってみるか、出来たらカッコいいし)
「うん、やってみるよ、お父さん教えて!」
父も息子に対して何かを教えたいと思っていたのか凄く上機嫌になった。
「まずお父さんの動きを見てみなさい」
(おぉー、今日のお父さんめちゃ張り切ってるな)
剣の素振りで分かった、いつもより鋭く見える。父が一通り型をやった後自分も真似する。
「理想は自分の体に一本の芯を通して芯を曲げずに剣を振ってみなさい」
(つまり体幹をブレずにやれってことか、なるほどね)
言われた意味を自分なりに理解して実践する。
まず初歩として剣を自分の頭に上げ、真下に振り降ろす。
(う…意外と木の剣って重いな)
そのままの流れで自分の左脇腹から右肩にかけて振り上げ、最後に右から左へ真横に振り抜く。
「ふぅー…お父さんどう、出来てる?」
「剣を振った時に頭も一緒に流れてるのが気になるが最初にしては上出来だな」
「よし!」
久しぶりの成功体験が素直に嬉しい。実際凄く手応えを感じることが出来た。
(もしかして、剣術のセンスあるかも!)
「お父さん、もう1回やるから見てて」
「おう、何回も何回もやってみなさい」
父は、最近母ばかり頼られていたので、今日は頼ってもらえて嬉しくなっていた。
剣術の練習を始めてから1年経っていた。
もう6歳である。
岩魔法に関してまだ上手くいくコツが掴みきれずにいたが剣術の方はお父さんとの練習含めて自主練していたので、ある程度の形になっていた。
「なぁライン、お前に家庭教師をつけようと思っているんだがどう思う?」
振っていた剣を止め父の方に体を向ける。
「勉強の方はククルおばさんで大丈夫だと思うけど他の分野のこと?」
「違う、違う、剣術と魔術の先生だよ、前から魔法の方も行き詰まってるって言ってたし、何よりお父さんが居ない時でも誰かに剣術を見てもらいたいだろ」
「え、いいの、本当に!?」
「近頃街の方が物騒になってきたから家に兵士を雇う予定なんだがついでに昼はお前の講師も頼んでおいたんだ」
(前に言ってた岩魔法の話を覚えてくれたんだ!)
「お父さん、ありがとう」
まだ小さい体を丸めてお辞儀をする。
「ライン、ゆくゆくはこの家をお前が継ぐことになる、もし出来なくてもいいから頑張りなさい」
父の真剣な眼差しで期待が伝わった。
「分かった、頑張るよ!」
正直に言って感謝しかない、自分は改めて環境に恵まれていると感じた。
1週間経って講師の人が来た。
講師と言っていたので50代くらいのオジサンをイメージしていたが予想に反して20代中盤くらいの女性が来た。
ショートヘアに分かりやすいくらいのピンクの髪で腰には剣を刺している。
母を美人系に例えると可愛い系に近い。
(今、前世と同じ年齢だったら危なかったな…)
何が?とはあえて言わない。
「君がハルトさんが言っていたラインハルト君だよね、私はローザ、よろしく」
「ローザ先生よろしくお願いします、ラインって呼んで下さい」
最近は、6歳になったので出来るだけ敬語を使うようにしている。
「ライン君は土魔法で躓いてるんだよね?」
「そうです、土魔法の派生で岩の魔法がまだ出来ないから見せてくれませんか?」
「なら、早速今やるから見てて」
そう言うとローザ先生の右手から5つの土の塊が泥団子の様に形作りながら最終的に一つに吸収されて岩が出来た。
「私がイメージするのは、土に水を加えて石と一緒に固めていく感じかな」
(なるほど、いつもは土からいきなり岩をイメージしたけど、土から泥に変換して泥と石を固めるイメージすれば出来るかもな)
言われたアドバイスをすぐ試す。
すると右手で出した土から泥に変わり、泥と石を掻き集めるイメージで岩にすることが出来た。
「おおぉ…やっとだ」
前までの苦戦が嘘のように出来た。考え方が凝り固まっていたかも知れない。
「君、筋が良いね、聞いてた通りだ」
「ありがとうございます、ローザ先生!」
「魔法はまた今度で、次は剣術を見てあげるよ」
魔法についてもっとやりたかった気持ちがあるが、ローザ先生に言われたので剣を持つ。
「まずは剣を持ってお父さんとのいつもの練習を見せてくれるかな?」
「はい!」
父以外の人に剣術を見せるのは気恥ずかしさもあるが教えてもらった剣術の型を全部やって見せた。
「はぁ、はぁ、どうですか?」
「うーん、悪くないよ、悪くはね」
「というと?」
「ライン君は全体的に筋力が足りてないね、動きに男らしさが全く無い」
ガーン
頭から樽が落とされた気がした。
「筋力が足りてないから、力強さがないし、体力も持たない、何もかもが弱すぎる、もしかすると…まぁこの話はいいや」
1年間父と練習してコツコツ積上げた自信が今、粉々に砕け散った。
(そんなガッツリ言わなくても…自分で言うのもなんだけどまだ6歳児だよ!普通だったら小学1年生だよ!もっと褒めても良くない?)
可愛いお姉さんに言われたので、余計悔しいし、悲しい、しかも初対面でまだ会ってから30分も経っていない。
「まずは、体力作りからだね、その後筋肉をつけよう」
その時悪魔が自分に囁く。
「お姉さんは筋肉ついてますけど、胸周りは寂しいですね」
(あ、やべ)
とてつもない力で殴られた、勿論グーパンチで。
右の頬がヒリヒリして痛い、前世では即体罰になり大問題になるがこの世界に体罰という言葉はない。
「ライン君は聞いてた以上に、鍛えがいがありそうだね」
顔は怖いくらい笑顔だがローザ先生の目は笑っていない。自分はローザに対して下手な事を言わないと誓った。
ローザ先生が来て1カ月が経った。
まずは体力作りが必要と言われ、ものすごい量を走らされた。そう、ただ走るだけである。それ以外は何も無い。
地味で辛く吐きそう、時折血の味がして気持ち悪くなり、前世でのサッカーを思いだす。
あの時と明確に違うのは、ボールを追いかけてゴールがある事。
チーム皆で戦う一体感と勝利した時の達成感が自分を包み込み讃える。
特に自分がゴールを決めた時の脳汁はヤバイ。
ゴールが決まった時の観客の歓声が聞こえ、ゴールを決めたという事実が自分は相手より優れているという証明に置き換わる。
世界の中心がまるで自分中心であった様に錯覚して、頭が麻痺し、スポーツ特有の快感が脳を支配する。
でも今は何も無い、ただ辛いだけ。
(しんどい、いつまで続くのコレ?)
ラインが立ち止まり、膝に手をつくとローザ先生から激が飛んだ。
「次止まったら10周追加な、走れ!」
ローザが鬼の形相でこちらを見つめて足が止まったラインのケツを叩く。
(アレ?ここは異世界ではなく昭和にタイムスリップしました?前世では虐待または体罰ですよね、もう前世に帰りたいんですけど…ってもう死んでるから異世界に転生して来たのか、なんかもう…)
ラインは自分と自分ではない誰かと、心の中で会話をする。走りすぎて頭がおかしくなったがそれでもローザが怖いのでがむしゃらに前を向いた。
その時窓から母が練習を覗いていた。
ラインは、すかさず泣きそうな顔を作るが母は笑っているだけだった。
母からは和気あいあい練習しているように見えたのだろう。
(母ってやっぱり天然なんだな…)
薄々気づいていたが今日の出来事で確信に変わった。
ローザ先生が来て3ヶ月経った。
最近は走るだけでは飽き足らず、筋トレをやれと言われて、腹筋、背筋、首、太ももが悲鳴を上げる。もう嫌になっちゃう。
(せっかく異世界に来たのに鍛え方地味すぎない?魔法で身体強化だーー!!とか言って楽して強くなりたいよ、はぁ…)
「あのローザ先生、メニュー辛すぎません?」
上下関係が決まり、すっかり敬語である。
当然、自分が下でローザが上である。
「多少はね、大変だけどハルトさんがしっかり鍛えくれって言われたし仕事だからね」
ローザはすまし顔で言った。
(絶対、最初の胸の事まだ根に持ってるだろ、初手の絡み方ミスったなぁ)
「でも最近は強くなっていると思うよ」
「えっ」
久しぶりの甘い言葉で口角が上がる。我ながらチョロい。
「剣を持ったら、前の自分と今の自分が全然違う姿に驚くと思うよ、多分ね」
そう言われ3ヶ月ぶりくらいに剣を持つ。練習でやっていた剣術の型を一通りやってみることにした。
ブゥンッブゥンッ
「本当だ、全然違うかも」
確かに前よりも息切れもなくキレが増したように感じる。そして何より木剣が軽い。
「前は、筋力が圧倒的に足りなかったからね、平均くらいにはなったんじゃない」
「ありがとうございます、ローザ先生!!強くなれた気がします!」
「私が教えたからには、成長しなきゃ困る」
そう言って全く成長していない胸を張る、性格とは違って控えめな胸だ。
(Bもないな、全然揺れないから見てて楽しくない、多分Aだろ…ん?)
その時、悪魔が又しても囁きラインに提案した。今のラインは思った事を全て口に出てしまう。
「ローザ先生!今なら先生とも良い勝負が出来る気がします、お手合わせお願いします」
「お、いいね、少しは男らしくなったじゃん」
自分は自信満々で勝負に挑んだ。
そして……もちろんボコボコにされた。
顔に凹凸が出来るほどボコボコである。
剣を振るがローザ先生に掠りもしなかった。
頬と腹がズキズキする。
(この人、全然手加減しないじゃん、自分はまだ子供だよ、3ヶ月も努力したんだからもう少し花を持たせてよ!)
勝負した事を後悔する。
「悪くはないけど、まだまだね、次からは実戦練習をメインにするから、もっと厳しくして、あ♡げ♡る♡」
片目をつぶり、ウィンクして言った。普通の男子高校生ならトキメイてしまうが
「ローザ先生、全然かわいくなッッ」
ガンッ!!
「はい、要らないことは言わない、言わない」
また、思っきり剣で殴られた。
(この人絶対ドSでしょ)
顔は好みだが胸と性格は合いそうになかった。
(恋人にするならお淑やかな人にしよう、なんなら力とか強くない人が良い、あと欲を言えば胸が大きい人なら最高だな、ムフフフ)
その日の夜
リビングでハルトとローザが集まる。ラインが寝静まる真夜中だった。
「ハルトさんはライン君にいつ話をするんですか?」
「やっぱり駄目なのか」
「毎日頑張ってはいますけど・・・ほぼ確定かと」
「そうか、うーん、まだ話をするには早い、だがいずれは私が直接話そう、ラインの事は引き続き頼む、少しでも強くなってもらいたい」
「分かりましたよ、仕事ですから、でもライン君に対してはしっかり手順を踏んで話をしたほうが良いですよ、多分聞いたら相当落ち込むと思うので」
「分かってはいるさ、私が一番、いやライナが一番か」




