98 なんだかちぐはぐだなぁ
その後、古城から少し離れた林の中でみんなと合流した。
まだみんなには見せていない『パワードスーツ』モードのスロースコクーンをまとったままだったので警戒されてしまったが、すぐに解除して事なきを得る。
それから来た道を取って返し、ロウデンの町へ戻ったあとは、冒険者ギルドの酒場にて、あらためて吸血鬼討伐の作戦会議だ。
まぁ会議といっても、これからすべきことはもう決まっている。ただそれをみんなに説明するだけだ。
あの吸血鬼が王格を得ていることから、錫杖とアークメタルの件、それを武器とすれば吸血鬼の硬い魔力鎧と超再生の対抗手段になる――ということを順を追って話す。
「なるほどな。話はわかった。だが……」
真っ先にそう言ったシグマは、しかし眇めた目で私を見る。
「おまえさんは、なんだかちぐはぐだなぁ」
彼の言うことは、たしかにそのとおりだった。
私はこの世界の人間ではなく、こちらに来て日も浅い。
交流があるのは、文明レベルの低い世間知らずな獣人たちのみ。
邪神はいろいろ教えてくれるけど、そのつどそのつどだから、いまだに常識的なことはあまり知らない。
そのことが、彼らとの交流を持ってからの短い時間の中でも、たびたび露呈している。だというのに、みんなが知らないようなことはやたらと知っていて、やたらと詳しい。
ちぐはぐ、というのは的確な評価だろう。
「おまえのその、情報源はなんだ?」
と怪訝に問うてくるヴィレム。
その質問ももっともだ。
どうしようかな、と一瞬、思ったけど、上手いごまかしなんて思いつかないし、その必要もなければ意味もない。別に、その情報源には、存在を秘匿してくれとも言われてないしね。ただ、信じてもらえるか怪しいだけで。
だから端的に、ありのままを伝える。
「えーっと、神サマ?」
「「「か、神様?」」」
思わずといった様子でおうむ返ししたのは、ヴィレムとセルカ、ミリーの三人だが、表情はみんな同じようなものだ。
「まぁ、邪神のたぐいだけど」
「「「邪神!?」」」
ありのまますぎたかな。
邪神にとりつかれてるのか、大丈夫なのか、と口々に心配された。
てっきり頭のほうを心配をされると思っていたのだけど、私とこの世界の人々とでは常識とか価値観が違うのだろう。
「……邪神といえば、神話で語られる存在よね」
とミリーが神妙な面持ちで言った。
なんでも、神話の時代に、眷属を生み出して世界をめちゃくちゃにした邪悪なる神がいたそうな。それを、主神の力を与えられた勇者が討ち滅ぼした。
余談ではあるが、その際に眷属がいくらか生き残り、それが魔族のルーツとされているらしい。
「一部では亜人も魔族にくくられてるみたいだけど、その魔族ってのは」
「異形の人類だね。中身は人と同じだけど、見た目は完全に魔物のそれ」
「要するに〝人に非ざるもの〟って、人間以外を魔族でくくろうとする人がいるってことよ。まぁ、戦争をしていたときは大半の人間がそうだったらしいけれど」
その昔、人間と亜人や魔族とで、種の存亡をかけた世界規模の大戦があったのだという。
「俺らも魔族には一度、会ったことがあるが、まぁ見た目だけならたしかにとっつきにくいが、中身は普通にいい奴だったぞ」
「最初は普通に殺し合いになったのですよ」
セルカが補足すると、ヴィレムはばつが悪そうに目を逸らす。
「ありゃ、仕方ねぇだろ。不可抗力だ。向こうも向こうで敵意むき出しで、聞く耳も持たなかったんだから」
「それはまぁ、しょうがないよね」
迫害されていればそうなる。
しかし、ルーツはともかく、いまでは無条件に人間と敵対する存在というわけではないようだ。
(その邪神があんた? 実は滅ぼされてなかったと?)
『別神ダ。そもそも俺は邪神デはナイ』
まぁ、そういうことにしておこう。
本人の証言だけでは判断できないし。
「別神らしいよ、本人が言うには」
そもそも、それが邪神のたぐいだと思っているのは、あくまで私の主観。本人は善い神を自称している。
いまのところ、間接的な害は受けていても直接的な害は与えられていない……という感じで一応のフォローはして、彼らを安心させておく。
まぁ「それは本当に大丈夫と言うのか?」と首をかしげられたけど。
(ねぇ邪神、あんた、直接みんなに語りかけられたりしないの? そしたらいろいろと楽なんだけど)
『その力がナイのデ無理ダ』
ほんとかなぁ。なんだかんだ、いろんな場面で力、使ってるよね。ただ面倒なだけなんじゃないの?
「けどまぁ、なんにせよ、だ。俺も、呪いのことはともかく、そこまで吸血鬼のことに詳しいわけじゃあねぇから、その情報はすげぇ助かる」
「胡散臭くない?」
情報ソースが神だとか邪神だとか、胡散臭すぎると私自身、思うのだけど。
「それでも、あてが一つもねぇよりゃ断然マシさ」
「だな。ソースはともかくとしても、トア、おまえのことは信用できる」
とヴィレムが言い、ほかの面々もそれに同調するようにうなずく。
私自身、すでに実績のある邪神の情報を疑っているわけではないので、みんなが信じてくれるというなら助かるというものだ。
「あの錫杖を武器に作り替えるのですよね? 鍛冶師さんに頼むのですか?」
「ううん。素材がかなり特殊だから、普通の鍛冶師には加工できないみたい」
「それじゃあどうするのよ?」
セルカの問いに答えると、今度はミリーが疑問の声を上げた。
「隠しダンジョン、封罪宮『強欲』の攻略報酬で加工できるそうだよ」
「隠しダンジョン……」
「挑戦権を得れば行けるってアレかー」
「そういや、まだ挑んだことねぇな、俺ら」
「まぁ、そうそう出会えるものでもないしね」
ヴィレムパーティは『暴食』を攻略して久しく、なんだか一様に苦い顔をしているが、シグマパーティは未経験の様子。
そもそもどこに入口がつながっているかわからないうえに、挑戦権が得られる確率の低さがえげつないらしい。
私は一発だったけど。いい迷惑だ。まぁ、あれは邪神の意図も絡んでいたから、通常とは違うのだろう。
ともあれ――そういうわけで、吸血鬼を倒すために、まずは封罪宮『強欲』の攻略をすることになったのだった。




