93 こいつぁ、かなりヤバそうだ
(…………さて)
気を取り直して、さっそくスロースコクーンを展開する。直後にいろんな反応があったが割愛だ。
スロースコクーンの中に入ってパネルを操作すると、たしかに邪神の言った二つの項目が並んでいた。
まずは『追跡』をタップ。すると、スロースコクーンから全方位に青い光が照射され、この場にいる全員ごと、室内をくまなくスキャンしていく。
なお、みんなごとスキャンしたのは、個々で微妙に質の異なる、全員の魔力とも照合するためらしい。
「……うん?」
なぜかシグマから、本人のものではない別の魔力反応が検出された。
「なんだろ、これ。――ねぇ、シグマ。あなたの中にもう一つ別の魔力反応があるんだけど、体に何か異常とかはない?」
「俺の中に? ……いや、特になんもねぇな。問題ねぇぞ?」
「そっか。ならいいんだ」
「別の魔力反応か……なんだろうね。吸血鬼の呪印ではないようだし、まぁ、本人に問題がないって言うなら、たぶん大丈夫だと思うけど」
ミルミトがやや難しい顔をしながら言う。
「にしても、僕もけっこう魔力感知は得意なんだけどな、シグマの魔力以外、何も感知できないや。スロースコクーンってすごいんだねぇ」
「ね」
ミルミトと一緒になって感心していると、ややあって、よくわからないやつにみんなの魔力痕を除いたものが、ホログラムモニターに色付きで表示される。
床についているのは足跡で、ほかにも室内の物品に三か所。足跡は、その三か所をたどり、暖炉のほうへ向かっている。
それから『精密解析』をタップ。しばらく待っていると、やがてホログラムモニターに動きの予測が表示された。
時計は六時六分に合わせ、燭台は右に三回、左に六回まわしたあとで押し込み、本も予測の順番どおりに並べ替えていく。
すると、カチンという小さな音がした。
出所は、足跡の痕跡が続いていた暖炉だ。
作りつけでなく置き型の暖炉だったらしく、それが音もなく横にスライドし、地下へ伸びる階段が現れた。
「おぉ! やったのですよ!」
セルカたちは無邪気に喜んでいるが、私は思う。
「めんどくさ。吸血鬼、いつもこんな面倒なことして出入りしてんの?」
「めったに外には出ないんじゃない? そのための呪印なんだろうし」
「あぁ、なるほど」
ミルミトの言に納得。
吸血鬼はヒキコモリなんだな。
なんてうらやましい。
◇
ともあれ、その階段を降っていく。
感覚からして、やはり地下まで降りてきたようだ。
その先には、簡素だが丈夫そうな両開きの扉があった。
「……ここに、吸血鬼がいるのか」
「本当にいるのなら、ここしかないでしょう」
ヴィレムの呟きに、ミリーが感情を抑えたような声音で返す。
私はまったくの部外者だが、彼らは仲間を苦しめられていて、彼ら自身もまた相当に苦しんでいるのだ。
その憤懣はいかほどのものか。抑えるのも大変だろうが、怒りの感情というのは大抵の場合、戦いでは足を引っ張るものだ。
前衛ポジションであり戦闘力の高い私とシグマが必然的に前に立ち、扉を両サイドから押し開く。
そこは、存外にも広く立派な部屋だった。
家具や調度品がそろっていて豪奢な室内を、頭上にぶら下がったシャンデリアの輝きが煌びやかに照らしている。
趣味は悪くないと思うが、部屋主の性格が浮かび上がってくるようだ。
「――これは、とんだ不躾な客もいたものだな」
部屋の奥、高級そうな椅子に男が一人、足を組んで座っていた。
長い金髪に血のような赤い瞳。先っぽがわずかに尖った耳。女性と見紛う、中性的で彫刻のごとく整った面貌。均整の取れた体躯を包む上品な衣装――まさしくステレオタイプ。
状況的にもそれ以外の可能性は低いが、その風貌から、一目見てそいつが吸血鬼であると確信できた。
「これだから下等な猿どもは嫌になる。野蛮で低俗で、道理を知らず、身のほどを弁えない愚か者どもめ」
いかにもプライドが高く傲慢そうな面をしていると思ったが、実際にそのとおりだった。
こちらへ向けられる眼差しは不快さを隠しもせず、蔑みの色が前面に押し出されていて、吐き捨てるようなそのセリフもまた、他者を――人という種を見下す典型的なものだ。
「いやぁ……こいつぁ、かなりヤバそうだ」
隣に立つシグマが呟く。口元こそ不敵な笑みを作っているが、こめかみから汗が一筋、伝い落ちていった。
彼はその魔眼で吸血鬼の強さを、存在位階や能力値を視たのだ。
「こいつ、おまえさんより上だぜ、トア。それも、圧倒的に」
たしかにそいつはヤバい。
レイドを組んで共闘するにあたり、互いの戦力を把握するため、事前に各々の存在位階は聞いている。
私が一番高くて『122』、次いでシグマが『78』、それから高い順に、ミルミトが『71』、ギデオンが『59』、ヴィレムが『55』、ミリーが『42』、最後にセルカが『38』だ。
ちなみにギンは『81』らしい。エリーはわからないが、ギデオンの『59』より高いことはたしかだ。
「参考までに、いくつ?」
まぁ、本当に参考までだ。
さっきシグマが圧倒的にと言っていたし、最初に相対した瞬間に自分との差がいかほどかは、なんとなく理解しているから。
「184だ」




