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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
6章 血捧げの呪印
89/140

89 シンプルかつ切実な理由

 

「こっちの準備はとっくに済んでる。トアさえよければ、明日にでも討伐に向かいたいんだが、どうだ?」

「いいよ、それで」


 一応、ポーションは用意しておきたいところだけど、それはこのあとの時間で準備できる。それ以外には特に必要ないし、私としても早いほうがいい。


「んじゃあ、明日の朝七時に門に集合ってことで」


 うっ……早い。

 いや、たしかに早いほうがいいとは言ったけど、六時台起きかぁ……スロースコクーンに目覚まし機能がなければ、絶対に無理だったな。


「一応訊くが、おまえさん『メッセージ』の魔法は使えるか?」

「『メッセージ』の魔法? 何それ」

「知らない? まぁ、そこまでメジャーな魔法ってわけでもないしねー。こうやってね、宙に魔力で文字を書いて――」


 ミルミトが使えるようで、実演して見せてくれるようだ。


 彼の指先が、光のラインで文字を綴っていく。

 ややあって『僕はミルミト』と書き上がった。


「書き終わったら、頭の中にその文字を送りたい相手の顔を思い浮かべて、飛ばすんだ」


 指先をタクトのように軽く振るう。すると文字が細かな光の粒子と化し、私の目の前へと飛んできて、再び先の文章を作った。


「おー」


 こんな魔法もあるんだなぁ。便利だし、いかにもファンタジーだ。

 でも、残念ながら、私は使えないし、使えるようにもなれない。なにせ魔力がないので。


「それ、使える人ってけっこういるの?」

「ううん。そんなにはいないと思う。簡単そうに見えるかもだけど、意外と高度な魔法なんだよね。文字数が増えるほど難しくなっていくし。僕は便せん一枚分くらいの長文でもいけるよ」


 ふふんと得意げに、平らな胸を張るミルミト。

 容姿が容姿なので、たいへん微笑ましい。


「あらためて言うまでもないと思うけど、私は使えないよ」

「ま、近接職で使えるほうが珍しいしなぁ。俺も使えねぇし」

「使えないと何かまずい?」

「いんや。連絡手段を持ってんなら、それでいいと思って確認しただけだ。念のために、こいつをおまえさんに渡しとく」


 そう言ってシグマに手渡されたのは、大玉サイズのビー玉みたいな水晶だった。


「これが連絡手段?」

「あぁ。ダンジョン産の〈通信オーブ〉だ。俺の持ってる対のオーブと通信ができる。少し魔力を込めるだけで使えるから、何かあれば連絡してくれ」


 ……いや、こっちも使えないんだけど。


 まぁ、この世界で魔力がないのは異端だし、説明も面倒なので、とりあえず受け取っておく。明日までに連絡するようなことになんて、ならないだろうし。


 そうしてシグマたちと別れ、その足でヴィレムたちのほうへ向かう。


 場所は把握している。入口側の一番奥、隅の席だ。


「ごめん、遅くなって」

「いや、こっちこそ、忙しいのに無理言って悪かったな」


 飲み物はと聞かれたが、シグマに奢ってもらったのが残っていて、それを持参しているから遠慮する。


 席に座ると、一斉に頭を下げられた。


「礼が遅くなって、本当にすまないっ」

「えーっと、それは本当に気にしなくていいんだけど……何かあるの?」


 こんなにも誠実な彼らが、苦しそうに謝罪しつつも礼をすることが叶わない、何かのっぴきならないような理由が。


「単純に、礼として渡せるもの、支払えるものが、いまはない」


 あまりにもシンプルかつ切実な理由に、思わずポカンとしてしまった。

 だがそれにもいろいろ事情があるらしく、最初から経緯を話してくれた。


 発端は、もう一人のパーティメンバーで、ミリーの双子の姉であるエリーの、原因不明の衰弱だ。

 魔法の治癒も解呪も効果はなく、どうにかして彼女を救う方法がないかと奔走する彼らは、とある古い文献で錫杖のことを知った。


 そうして、実在するらしい伝説の錫杖〈慈癒の聖錫〉を入手すべく、彼らは記述されていた古代遺跡へと赴いたのだが、最下階まで行っても、件の錫杖は見つからなかった。

 けれども、代わりに隠しダンジョンの存在を知り、どうにか挑戦権を獲得。そして攻略し、最奥まで行ったところで、ついに伝説の錫杖を発見したのだ。


 しかし……それが偽物だったのか、そもそも情報自体がガセだったのか。錫杖はなんの効果も発揮することはなかった。


 と、それが彼らのこれまでの経緯であり、その過程でパーティの共有資産も個人資産もほぼ投入している。借金もあるらしい。

 方法を探しているときには、なりふりかまわずで詐欺の被害にもあっているそうだ。そっちは力尽くで取り戻したそうだが。


 けれども、彼らはBランクも上位のパーティ。相応の実力がある。その気になれば金の用意はそこまで難しくはない。


 いま、エリーはまた別の方法を探している。そしてヴィレムたちが、私への礼をするため必死に魔物を狩ったりして稼いでいるところ、という話だった。



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