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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
6章 血捧げの呪印
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88 難儀な奴ダ

 

「とまぁそれはいいとして。シグマにはね、相手の強さが〝視える〟んだ。それも正確に」

「俺ぁ魔人との混血でなぁ。この眼は『能視』の魔眼なんだよ」


 シグマの赤い瞳に、淡い光を帯びた紋様が浮かび上がる。

 おぉ、なんか格好いい。


 にしても、魔人か。

 また新しいファンタジー種族が出てきたな。


『へェ、魔人とハ。珍しいナ』


 と訳知り顔な邪神いわく、魔人は人類種における上位の種族らしい。

 あらゆるスペックが高いうえに、もう一つの魔力タンクであり固有能力を宿した角と、相手の強さを視ることのできる魔眼を持つという。


 なんだそのチート種族。上位種族っていうか、もうちょっとした存在兵器じゃない?

 しかし、もとより強力な種族ゆえか、繫殖能力が低いために増えにくく、数は少ないのだという話だった。


 ハーフのシグマは、魔人の特性のうち魔眼だけを持って生まれたようだ。

 相手の強さを視る――すなわち、相手の存在位階を視ることができる。


「あー、そういうことか」


 いろいろと納得した。ギルマスが意味深な感じで言ってたのは、シグマと彼の持つ魔眼のことだったのだ。


 ちなみに、存在位階だけでなく、各能力も数値化されて視えるらしい。

 つまりは、いわゆるステータス鑑定のようなものだ。


「いやぁ、最初に視たときは、俺も眼を疑っちまったよ」


 そう言ったシグマが、ふいに真面目な雰囲気になる。


「おまえさん、これまで相当、無茶な修羅場くぐってきただろ」


 鋭くも静かな眼差しが、まっすぐに私を見据えていた。

 その感心するような、呆れたような、されど咎めるような、なんとも言えない感情を宿した瞳を見返して、私は軽く肩をすくめる。


「まぁ、それなりには」

「それなり、なんてレベルじゃあねぇと思うがなぁ」


 存在位階というのは、人であれば、主に魔物を倒さなければ上がらない。

 そして位階が高くなるほど、同格の相手ではおそろしく数が必要になってくる。

 つまりは、より強い者を倒してこそ、位階は上がっていくものなのだ。


 私の存在位階が視えるなら、彼はすべてを察したのだろう。


「とりあえず、私を戦力に選んだ理由はよくわかったよ」

「協力、してくれるか? もちろん相応の報酬は支払う」


 悠然としているシグマだが、こちらをまっすぐと見る瞳の奥には、必死さと切実さが見て取れる。

 心から仲間を案じ、絶対に、それこそ死んでも助けるという強い意志が、燃える炎のように宿っていた。


 そんな彼の眼差しを受けながら、私は胸中でそっと息を吐く。


 どうしてこうも、次から次へとトラブルが舞い込んでくるのだろうか。もはや何かの呪いなんじゃないかとすら思うレベルだ。


 いや、まぁ。今回のことに関しては、断れば済む話ではある。

 けれど……事が人命にかかわると知ってしまったら、こんな目を見せられてしまったら、やっぱり私は、それでもノーとは言えないのだ。


『ノーと言ウくらい、簡単ダロウに。オマエが至上とスルのは、怠惰で自堕落な暮らシなのダロウ?』

(そりゃ、そういう人間だったらよかったのにって思うよ。罪悪感を持つこともなく断ることができる性格だったらって。でも、そうじゃないから。本当に残念なことにね。私の愛する至上のぐーたら生活には、罪悪感や後悔なんて不純物は混ぜたら駄目なんだよ)

『難儀な奴ダ』


 ほっとけ。仕方ないんだ。こういうのは、変えようと思って変えられるものでもない。生来のものだから、どうしようもないんだ。


「いいよ。事情が事情だし、協力する。ただ、私がいて絶対に勝てるって保証はできないし、仮に駄目だったとしても報酬はきっちりもらう。それでもいいなら」

「あぁ、もちろんだ。ありがとうな」

「ありがとね、トア。君が一緒なら百人力だ」


 吸血鬼が、スロウス・アーマファオルや悪魔より強くないことを願うよ。


 ◇


 その吸血鬼は、ロウデンの町から少し行ったところにある古城にいる――だろうとのことだ。


 その古城には、いまは誰も住んではいない。だが、それをいいことに周囲の魔物たちが入り込み、住み着いた。そして現在では、その魔物たちを狙う、中堅冒険者たちのいい狩場となっているそうだ。


「ダンジョンになってるわけじゃあねぇんだが、外から入ってくる魔物以外にも、中でよく湧出が起こってるようでなぁ。狩り尽くしても、またすぐに魔物だらけになんだ」

「魔物の強さも、だいたい同じくらいだしね。そのランク帯の冒険者にはいい稼ぎになるんだよ。けど――」


 そこへ、ランク帯を大きく外れた、かなり格上の魔物が居着いてしまった。


 そのせいで、これまで古城を狩場としていた冒険者たちが入れなくなり、伴ってその分の素材売却がなくなり、結果としてギルド側の利益も減ってしまった。


「そこで稼いでた冒険者たちもギルドも、それが居着いたままじゃ困るっつうわけで、ギルマスから依頼されて、俺らがその魔物の討伐に向かったんだ。まぁまぁ強敵だったな。ちと物足りなかったが」

「そう思ってるのは君だけだよ。ほんとバトルジャンキーはこれだから」


 処置なしとばかりに首を振るミルミト。

 そうか、シグマはバトルジャンキーなのか。

 まぁ、なんとなくそんな気はしていたけど。


 ともかく、彼らはその魔物をなんなく討伐し、依頼は完遂した。

 しかし、町へ戻ったその翌日から、ギンの衰弱が始まったのだ。


「呪印を刻むには、対象との接触が必要不可欠だ。となれば、その古城でつけられたと考えるのが自然だろう」

「そのときに古城の中はひととおり探索してて、吸血鬼の姿は見なかった。けど、絶対にそこにいる」


 吸血鬼は、向こうの伝承と同じく日光に弱い。ヴァンパイアと違って苦手な程度ではあるが、拠点は必ず持っているはず。それが件の古城であり、城内のどこかに隠れ潜んでいるのだろうと。



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