87 なんと、リアル狼少年とは
「え、ミルミトが、男? 男の子じゃなくて、男の娘? え、嘘でしょう?」
「仲間の俺が言うんだ、嘘ってこたぁねぇよ。にしても、この瞬間はいっつも面白ぇなぁ。だいたいみんな、同じ顔して同じこと言うんだよ」
ケラケラと笑うシグマを、ミルミトが頬をふくらませながら小突く。
「もう、いきなりバラさないでよね」
「これから協力を仰ぐ相手なんだ、誠意を欠いちゃあならんだろ?」
「まぁ、別に隠してるわけじゃないからいいんだけどさー」
トップアイドルも裸足で逃げ出しそうなトンデモ美少女が、まさか男の娘だったなんて……この世界のファンタジーが神秘にすぎる。
「ちなみに、ミルはこんなナリしてるが、歳は俺と同じで二十九だ」
「に、二十九!?」
嘘でしょ? どこからどう見たって中学生くらいにしか見えないよ。
「僕、ホビットとのハーフなんだよ。だからこれ以上成長しないし、エルフなんかと一緒で、老化は寿命近くまでしないんだ」
通常、純血のホビットは小学生くらいの大きさだが、ミルミトは人間との混血ゆえにそれよりは大きくなってこれらしい。
ついでに、妖精の因子を持つとされるエルフやホビットはかなりの長命らしい。
それを聞いて、ふと気になった。
(そういえば、私ってこれ以上、成長するの? 老化は? 寿命は?)
『ふム……俺の力で無理やり捻じ曲げタからナ。容姿は変わランだろうが、寿命はどうダろうナ?』
適当か。
『俺としテも、初めテの試みだッタからナ』
実験体かよ。……まぁいいや。
死にたくない私だけど、寿命が延びてほしいとか、不老不死とかを望んでいるわけではない。でも、延びたら延びたで、寿命まで生きるだけだ。
短くなっても、それはそれ。特に思うところはない。毎日を全力でぐーたらして生きるのみ。……ぐーたら、全然できてないけどね。
「それより、仕事の相談って?」
「あぁ。おまえさんに、吸血鬼の討伐を手伝ってもらいてぇんだ」
「吸血鬼?」
「知らねぇか。まぁ、そうだよなぁ。めったに現れるもんじゃねぇし。吸血鬼ってぇのは、ヴァンパイアの進化生命体だ」
「悪魔とか竜とかと同じやつ?」
「うん? なんだ、そっちは知ってんのか。あぁ、そうだ。ヴァンパイアとは強さの桁が違う。知能も人とそう変わらねぇからな、厄介な手合いなんだ。俺らでも厳しい。ってことで、強力な戦力がほしい」
種族が異なるので、単純な強さの指標にはならないだろうが、悪魔や竜と同格の存在というなら、そりゃあ厄介だ。
その厄介さは私自身、身をもって深く理解している。
というか、シグマがさっき、進化生命体はめったに現れるものじゃないとか言ってたけど……百単位で存在している竜はどうなるんだろうね?
「その吸血鬼が現れたってことだね。討伐はギルドの依頼?」
「いんや、俺らの個人的なもんだ。一応、話は通してるがな」
「君はいつも性急すぎるんだよ、シグマ。ちゃんと最初から話さないと、トアも何がなんだかわかんないでしょ」
「あぁ、そうだな。そうだった。いやぁ、悪ぃなぁ」
へらりと笑うシグマに嘆息しつつ、代わってミルミトが話してくれた。
「まず大前提として、僕らにはもう一人、仲間がいる。三人そろってのAランクパーティなのさ」
そのもう一人の仲間の名前はギン。二匹の狼を連れていて、彼らは男三人と二匹のパーティなのだった。
そんなギンは現在、衰弱して動けない状態にあるという。いまのところ命に別状はないとのことだが、ほとんど寝たきりで、日常生活もままならないそうだ。
「ギンはちょっと特殊な出自でね、ほんの数年前までずっと野生の中にあって、狼を親として育てられてきたんだ。だからなのか人間にしては体がすごく丈夫で、身体能力も驚くほど高い」
なんと、リアル狼少年とは。
「だからね、病気というのは考えにくかったんだけど、一応、診てもらったら、やっぱり違った。というか、わからなかった。でもね、そのあとで、ギンの体に小さな痣があるのを見つけたんだ。というより、浮かび上がったところを偶然見た、といったほうが正しいかな」
その痣は数秒ほどで消えたそうだが、また次の日に浮かび上がり、再び数秒ほどして消えたという。
「ギンが衰弱した原因は、病気じゃなくて〝呪い〟だった」
「その呪いの正体は、吸血鬼が使える固有の呪印『血捧げ』だ」
ヴァンパイアも吸血鬼も、主食となるのは血液だ。
通常は生物から直接、血を吸い取るが、進化生命体である吸血鬼は、その『血捧げ』により、対象につけた呪印を通して吸血することが可能となる。
わざわざ自分の足で獲物を探しにいかずとも、呪印さえつけておけば、生かさず殺さず、いつでも何度でも、その対象から血を奪い続けられるということだ。
「元凶であるその吸血鬼を討てば、必然的に呪いも解ける」
だが、吸血鬼とヴァンパイアでは格が違う。強いとわかっている敵に対し、半端な戦力では死ににいくようなもの。ゆえに彼らは、自分たちに匹敵する強い戦力を求めていた。
しかし、このロウデンを拠点に活動しているAランクの冒険者は、パーティを含めても数えるほどしかおらず、断られるか、遠征で出払ってしまっているかで……どうしたものかと頭を悩ませていたところに、ちょうど私が現れた、というわけだった。
「いや、でもさ、なんで私だったの? たしかにイラッときて投げ飛ばそうとした男を誤って天井に刺しちゃったけど、それだけじゃ、あなたたちが求める強力な戦力だとはわからないでしょ」
たぶんあの程度なら、シグマたちも余裕でできるだろう。彼らも強いのは、ランク付けなどなくても見ればわかる。あれだけでは、彼らに匹敵する実力とはならないはずだ。
「やっぱりアレ、狙ってやったわけじゃなかったんだね。どうりで、ちょっと動きが変だと思ったんだ。君自身も予定外って顔してたし」
謎が解けてすっきりした、とばかりに何度もうなずくミルミト。
実際、しまったと思って、微妙に焦ったりもしてたしね、あのとき。




