86 さっそくの話で……
「位階もそこそこで体格のいい冒険者の男ひとりを天井に突き刺せる力があって、ゴブリン一匹倒せないなんてこと、ないでしょう?」
「ゴブリンとは直接、戦ったことないけど、コボルトなら瞬殺できるよ」
「なら問題ないわ」
なお、その戦闘試験で定められた基準に満たない場合は、登録こそできるが、魔物の討伐依頼は受けられないとのことだ。
冒険者の依頼には、街中での安全な依頼もけっこうな数があるらしい。
戦闘試験に落ちた者は最下位のGランクとされ、魔物の絡まない依頼を受けながら戦闘技術を磨き、また試験を受け、それで合格すればFランクへと上がれて、魔物の討伐依頼を受けられるようになる――といった具合だ。
「私の権限で、Dランクにしておいたわ。残念ながら、それ以上は上げられないのだけど」
ここでも、まさかのテンプレ展開である。
「さっきの一件だけで? それはさすがに評価が過大すぎじゃない?」
「まったく過大じゃないわよ。人柄や信用に関しては、ウルグレン侯爵家のご令嬢と一緒にいた時点で疑う余地もないし、強さに関しても、あなたとすでに接触した彼にちゃんと確認しているからね。むしろ過少すぎるくらいだと思うわ」
「うん? 彼?」
「まぁ、会う予定があるのなら、本人に直接聞きなさい。登録はこれで完了よ。このタグが冒険者証ね。身分証にもなるから、常に見えるように身につけておいて。再発行に手数料がかかるから、失くさないように」
渡されたのは、ドッグタグみたいな赤いプレートだ。
ランクによって材質が違うらしい。FからDまでは鉄だそうで、これも赤鉄という鉄の一種なのだとか。この世界特有の鉱物だ。
すでに紐が通されているので、そのまま首にかけておく。
そう言えば、ヴィレムたちは全員が銀のタグを、和装色男と魔法少女は金のタグを下げてたな。
「銀と金のランクは?」
「銀はBランク、金はAランクよ」
なるほど、納得だ。あの二人組、強そうだったもんなぁ。
ちなみにランクはSSまであるそうだが、現在ではSが最高ランクらしい。
その後、依頼の受け方や素材の売却の仕方、施設の利用方法に諸注意など、簡単な説明を受けた。
「――と、こんなところかしらね。細かい規約はこの冊子に書いてあるから、あとで目を通しておいてちょうだい。何か質問はあるかしら?」
「ううん、いまは大丈夫」
「そう。もしわからないことがあれば、彼らかギルド職員にでも聞いて。手続きはこれで終わりよ。今後のあなたの活躍を期待しているわ」
「ありがとう」
彼に、彼らか……思い当たるのなんて二組しかいない。
会う予定があるのなら、とかギルマスも言ってたし。
まぁ、たぶん、二人組のほうだろうな。
◇
ギルドマスターの部屋を出たあと、ちょっとだけ先に魔物素材を換金しておくことにした。
これからいつでもできるのだけど、やっぱり手元に自由に使えるお金がないと落ち着かないというもので。
これも貨幣経済に生きる者の宿命というものか……なんて。
というわけで、階段を降りて買取専用のカウンターへと向かう。
周りの冒険者の一部が、私を見てちょっと引いた感じなのは無視だ無視。
カウンターには数人ほどの冒険者が並んでいたが、すぐに順番がきたので、召喚したスゥの『無限胃袋』からいくつかの素材を出す。
職員の目玉が飛び出しそうだったし、周囲がどよめいていて、スゥのことも含めちょっとやっちゃった感はあったけれど……いいや、もう。どうせすでにやらかしたあとなのだ。
それに、私はこの町の住人ではない。すぐにいなくなるのだし、これからちょいちょい来ることになるといっても、別に悪いことをしたわけでもない。
唯一の懸念は、目をつけられてリューリたちにも飛び火することだが、私が全力で守るから問題ない。
少しして査定が終わったので、買取金を受け取ってカウンターを離れる。けっこういいお金になったな。
それから、併設の酒場へと向かった。
まずは和装色男と魔法少女のほうに行く。
「お、来たな。おまえさんも、なんか飲むか? 奢るぞ」
「いいの?」
「あぁ。無理やり付き合わせちまってんだからな。ジュースでも酒でも食いもんでも、なんでも好きに頼んでくれ」
「これでもけっこう稼いでるからね、遠慮しなくていいよ」
さすがAランク冒険者。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
無理やり付き合わされているのはたしかなので、遠慮なく奢られることにした。
渡されたメニューに目を通す。別にお腹は空いてないし、お酒を飲む場面でもないだろうから、無難に果実のジュースを選んで注文する。
「というか君、冒険者じゃなかったんだねぇ。すごく強いのに」
すぐに運ばれてきたジュースを飲んでいると、魔法少女が言った。……その言い方に少し違和感を覚える。
「うん、まぁ。私は獣人たちの村に住んでるから。別に冒険者になりたかったわけじゃないんだけど、魔物の素材を換金したくて。だから登録しにきたの」
「へぇ、獣人の村か。それで獣人の嬢ちゃんたちと一緒だったんだなぁ。まぁ、その話も興味深くはあるが、まずはこっちの話だ」
「ちょっとシグマ、まずは自己紹介でしょ」
「おっと、うっかりしてたぜ」
魔法少女の指摘に頭をかいてへらりと笑う和装色男は、やっぱりというか、どうにも捉えどころのない感じだ。
「俺ぁシグマってんだ。このパーティのリーダーで、見てのとおりの剣士だな。こっちはパーティメンバーのミルミト、魔法使いだ」
「よろしくー。君は?」
「私はトア。一応、剣士だね」
「そうか。トア、さっそくだがな――こいつぁ男だぜ」
「えっ」
さっそくの話で一瞬、何を言われたかわからなかった。
こいつ、とシグマが親指で差し示しているのは、隣のミルミトだ。魔法少女な、ミルミトだ。薄桃色のツインドリルで満天の星空みたいな瞳をした美少女、ミルミトだっ……!




