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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
6章 血捧げの呪印
84/140

84 雑だって自覚はちゃんとあったんだね

 

「仕事? 冒険者の?」

「あぁ、冒険者の、仕事の話。にしても、勘違いのうえで袖にされんのぁ、ずいぶんと新鮮だなぁ」


 カラカラと笑う和装色男に、魔法少女がジト目を向ける。


「何それ自慢? 自分が声をかければ誰でも目をハートにしてついてくるって?」

「まぁ、事実だろ?」

「そもそも君、女の子になんてめったに声かけないじゃない」

「まぁ、そうだな。基本、面倒だしなぁ」


 すると今度は、魔法少女のほうが私を見て言った。


「彼ね、こんなだけど、いやこんなだからこそ、女の子が嫌いなんだよね。この町じゃけっこう有名な話なんだよ、彼の女嫌いは。まぁ、それでも寄ってくる猛者は多いんだけどねー」

「女嫌いなのに声かけてきたんだ。中身はともかく、私も一応、性別は女だけど」


 まぁ、いかにガワが美少女とて、がたいのいい男を片手でぶん投げて天井に突き刺すような奴を、世間一般では性別女とは言わないか。


 どちらかと言えば、性別メスだ。そっちのがしっくりくる。


「彼が嫌いなのは、あくまで色目を使ってきたり、特有の醜態をさらしてくる子だからね。君はほら、さっきのやり取りを見てても、面倒なタイプって感じがしなかったし」


 あぁ、なるほどね。もう存在自体がチャームみたいな人だし、相当、女性で苦労してるんだろうなぁ。


 いまも視界の中に入っている女性はみんな、目をハートにして彼に熱い視線を送っている。……ほんとにチャームかかってない?


「それに君、彼に声かけられて、目をハートにしないどころか、害虫か汚物扱いだったしねぇ」

「あぁ。あれは、新感覚だったなぁ」


 どうしよう。もとからそういう趣味の人なんじゃなくて、私が新たな扉を開けてしまったのかもしれない。……いや、私は悪くないよね? 不本意も甚だしい。


「そういえば昔、一方的に執着してきた子が、一緒になれないなら一緒に死んでーって毒殺してこようとしたこともあったよねー」

「あぁ、あったなぁそんなこと」

「うわっ。なにそれこわっ」


 それはたしかに、苦手を越えて嫌いになってしまうのも当然だ。

 実力のある冒険者を相手に、刺殺でなく毒殺を選んでいるのが、本気度が見えて余計に恐ろしい。

 そこまでいくと、世のモテない男子たちだってさすがに同情するだろう。


 現に、そのことを知っているからか、遠巻きにこちらを見ている男性冒険者たちから注がれているのは、ひたすらに同情の視線だ。モテる男に対するやっかみなど皆無だった。……それほどか。


 気の毒になぁ。根っからの女好きで、それすら許してしまえるような人ならいいけど、そうでないならひたすら嫌悪の対象だろう。


「ま、それもだし、僕もいるからね。男としての心配はまったくしなくて大丈夫だよ。ナンパとかじゃなくて、ほんとに仕事の話。どうかな? 話を聞くだけでも、聞いてもらえないかな? お願いだよ」


 と顔の前で両手を合わせ、片目をつむりつつ小首をかしげる魔法少女。


 僕っ子なうえにその仕草はあざとすぎるが、満天の星を浮かべたような彼女の瞳には、心からの切実さが宿っていた。


(うーん、どうしたもんかなぁ……面倒事や厄介事の予感しかしないんだよねぇ)


 赤の他人だから応える義理もないし、普通に断ってもいいんだけど……なんかしつこそうな気がするんだよなぁ、特に和装色男のほうが。しつこいというか、こっちの話を聞かない感じでまとわりつかれそうな気がする。


 それもそれで面倒だし……しょうがないか。


「わかったよ。あくまでも、話を聞くだけだからね」

「おぉっ、ありがとうな。んじゃ、向こうで待ってっから」


 カラコロと下駄を鳴らし、手を振りながら酒場のほうへと去っていく二人の背を見て小さく息を吐く。

 それから待たせてしまっていたレーナたちを促し、再び手に持った男を引きずりながら出入口へと向かった。――と、


「あれ? もしかして、トアさん、なのです?」


 正面に、ちょうどギルドへ入ってくる見知った顔があった。


「えーっと、セルカ、だっけ?」

「そうなのです。あんな雑な自己紹介でよく覚えてたのですよ」


 グラトニア・スライムから助けた冒険者パーティだ。


 あのときは、彼女らが一方的に慌ただしくて、簡単に名乗って再来を約束するくらいだったけど、当人たちにも雑だって自覚はちゃんとあったんだね。


「あんときゃ悪かったな、トア。そのあとの礼もまだ行けてなかったしよ」


 彼女の横に並び立ち、ばつが悪そうな面持ちでそう言った茶髪の青年は、たしかパーティリーダーのヴィレム、だったかな。


 そしてその後ろ、目礼してくるアッシュパープルの髪に金眼の大男は、ギデオンという名前だったと記憶している。


 あのときはもう一人、ハーフエルフのミリーという少女がいたはずだけど、いまは三人だけのようだ。


「いいよ、気にしなくて」

「せっかくここで会えたんだ、そのあたりのことを少し話したい、というか言い訳させてほしいんだが……って、なんだそれ?」


 そこでヴィレムが、私が引きずっているモノに気づいたようだ。


「私の大事な友人と妹分に、聞くに堪えない最低な暴言を吐いた汚物。これから肥溜めに捨てにいくところなんだ」

「ふむ。ギルドの天井が壊れているな」


 上を見て、ギデオンが淡々と言う。


「もしかして、この人が刺さったあと、なのです?」

「いや、強いのは知ってたし、事情もなんとなく察せたが……容赦ねぇな」

「違うんだよ。刺さったのは不幸な事故だったんだよ」


 と弁明してみるが、なんとも言えない二人の視線は変わらない。

 まぁいいや。それより、ここで彼らに会ったことで思い出したことがあった。


「ちょうどよかった。私も、あなたたちに話したいことがあったんだ。これ、捨ててきてからでもいい? あと先約もあるし、やらなきゃいけないことがほかにもあるんだけど」

「あぁ。全部、終わってからでかまわねぇよ」


 彼らもそのあいだにやることをやって、やっぱり併設の酒場で待つとのことだ。


 いったん彼らとも別れ、再び歩き出そうとした足を――私は止めた。

 くるりと振り返ると、まだそこにいたヴィレムたちが首をかしげる。


「ねぇ」

「どうした?」

「肥溜めって、どこにあるかわかる?」

「知らないで行こうとしてたのか……」

「えーっと、町には、たぶんないと思うのですよ」

「ふむ。村なら、あるところもあるだろう」


 肥溜めのある村を探しにいくのは面倒だし、そんな時間をコレにかけるのも嫌なので、仕方なくその辺にあったゴミ捨て場に放っておいた。



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