83 すごい組み合わせだな
「あんたみたいなのに可愛いとか言われたくないんだけど。というか、え、なに頬とか染めちゃってんの? 普通に気持ち悪いからやめてくれない?」
「よ、容赦がないわ……」
レーナの戦慄したような呟きが聞こえた。
別にナルシストとかじゃないけど、美少女を作ろうと長時間かけて細部まで丹念に作り込んだアバターの姿なのだから、可愛いのは当然である。
「なっ!? こんのアマぁ、なめやがってぇぇ!! ぶっ殺してやるっっ!!」
ずいぶんと短気らしい男が激昂し、別の意味で顔を真っ赤にして胸倉を掴み上げてくる。
もちろん避けようと思えば簡単に避けられたのだが、その必要がないのでされるがままだ。
「トア!!」
大丈夫、と手でレーナたちを下がらせる。
「あんたこそ、自分が誰に何を言ったかわかってないでしょ。領主の娘以前に、私の大切な友人と家族への暴言……万死に値する」
胸倉を掴んでいる腕を掴み返し、そのまま投げ飛ば――あ、すっぽ抜けた。
ドゴンッと頭上からすごい音がして、細かい瓦礫がパラパラと降ってくる。
見上げると、天井に上半身を埋めた男がぶら下がっていた。
軽く床に叩きつけるだけのつもりだったのだが……どうやら手加減にも失敗していたらしい。ちゃんと思ったとおりの力なら、あんな風にきれいに刺さったりはしなかったから。
さすがに殺す気はなかったのだけど、死んだかもしれない。
というか人として普通に死んでないとおかしいのだが、この世界ではそうともかぎらないからね。
強化された聴覚をさらに集中させれば――うん、ちゃんと心臓は動いてる。
わりと虫の息な感じだけど、死んではいない。
存外、生命力の強い人間でよかった。
私はひとまず男から意識を外し、引きつった顔でこちらを見ているギルド職員のお姉さんに頭を下げる。
「すみません。修繕費はちゃんと払うので。ご迷惑をおかけしました」
「あ、い、いえ、はい……あの、抜いてあげたりは、できますか?」
もちろんこのままにしておくつもりはなかったので、軽くジャンプして男の足首を掴み、自重と腕力で男の体を引き抜いて、そのまま自然落下の着地。一応、本当に死なれても困るので、着地の際の男の扱いには気をつかった。
「これ、どうする? リューリたちとレーナへの侮辱。衛兵に突き出すか、肥溜めに沈めるか」
「たしかに腹は立ったけれど、いまのでスカッとしたし、わざわざ衛兵の仕事を増やすこともないわ。肥溜めに放り込んでおきましょ」
リューリたちも異論なしとうなずいて、満場一致。
伸びている男の足を掴んで引きずり、出入口へと向かう。
「――俺が入るまでもなかったか」
その途中、こちらへ向けたと思しき声がしたので、足を止めてそちらを見る。
そこには男が一人立っていた。いや、男はたしかに一人だが、その後ろに連れらしき少女の姿もある。
その二人組を見て、まず私が抱いた感想は「すごい組み合わせだな」だ。
濃ゆいというかなんというか……とにかくものすごいインパクトがあった。
「やっぱ強ぇなぁ、嬢ちゃん」
そう言って口端を持ち上げる男は、歳は二十代半ば、いや後半か。
実に端正な顔立ちは、精悍でありながら柔らかな雰囲気もあって、何より、匂い立つような大人の色気がある。純粋に人を惹きつけそう、という意味でも。
胸元をはだけさせた着流し風の装いもそれに拍車をかけているし、片側だけあらわとなった耳に揺れるピアスもセクシーだった。
足元とか下駄だし、武器は大太刀だ。
やっぱりこの世界、和風文化の国とかあるのかな。
「人って、あんなきれいに天井に刺されるんだねー」
そんな和装色男の陰からひょこりと顔を出し、本気なのか冗談なのか、感心するように言う少女もまた、存在感が半端なかった。
淡いピンク色のツインドリルに、星型の紋様と星空みたいなきらめきを浮かべた青い瞳。顔立ちは可愛らしいの一言で、ひらひらしたスカート衣装もあいまって、完全に魔法少女にしか見えない。
まぁ実際、腰にそれっぽい装飾の短い杖を差しているので、魔法使いではあるのだろう。
当然ながら、見知らぬ男女だ。声をかけてくる理由がわからないし、何よりいまは取り込み中なのだ。
「私に何か用? 見てのとおり忙しいんだけど。これを肥溜めに捨ててこないといけないから」
「ちぃと向こうで話さねぇか?」
ギルドに併設された酒場のほうを親指で差して、和装色男は言う。
「私の話、聞いてた? 忙しいんだってばいま」
「それを捨ててきてからでいいさ」
よくない。そういう問題でもない。私は、ただでさえ気だるげらしい自分の目が据わるのを自覚する。
「おっ、その害虫でも見るような目、ぞくぞくすんなぁ」
……そういう趣味の人だったらしい。
別に人のアブノーマルな趣味趣向性癖をとやかく言うつもりも、否定するつもりもないけれど、個人的には関わり合いになりたくない。
「ほかにもやることがあって本当に忙しいし、まったく興味もないし、連れもいるし、遠慮しとく。ほかをあたってくれる?」
すると和装色男は、きょとんと目を瞬かせたあとで、愉快そうに笑いながらひらひらと手を振った。
「あぁ、違う違う。俺の言い方が悪かったな。そういうんじゃねぇよ。たしかにおまえさんみてぇなタイプの美人と飲むのは、そりゃあ楽しいだろうがね、マジメな仕事の相談だ。おまえさんの強さを見込んでの、な」




