80 やっぱり女の子だなぁ
移動し、再び侍女たちの手を借りて、全員がお出かけの装いとなる。
晩餐のときのドレスより動きやすそうな、だいぶラフな格好だ。
今回は領主の娘として出かけるが、いつもレーナが下町へ出かけるときはお忍びであり、その際には庶民の娘の恰好で、軽く変装もしていくらしい。
「まぁ、変装といってもたかが知れているから、親しくしている人にはバレているのだけどね」
そりゃそうだ。それこそ魔法とかの変身レベルでなければ、その幼いながらの美貌と、高貴な者特有のオーラは隠せないだろう。
ちなみに、私は常の寝巻き風の戦闘衣だ。
外に出るのなら、万一を考えてこちらのほうがいい。多少でも防御力があるし、何より、汚れないうえに自動修復機能までついている。
おしゃれなんて慣れないことも、もうしたくないし、そもそも私サイズのラフな服はなかったしね。……ホッ。
そうして準備が整ったら、ここへ来るときに乗ったものと同じ、家紋付きの高級馬車へと乗り込んで、いざ出発。
基本は馬車で目的の場所へと移動し、馬車が邪魔になるような場所だけ歩いての移動となる。
「トアは、村に必要な物資がほしいと言ってたわよね」
「うん。日用品とか服とか〈治癒ポーション〉とか」
「服は、たしかになんとかしたほうがいいかも」
レーナも、獣人たちの恰好は、さすがに文明人として駄目だろうと思っているようだ。
まぁ、女は獣や魔物の皮を二枚、皮紐を使って前後でつなげただけのものだし、男なんて上半身ほぼ裸の腰巻スタイルだからね。
闇オークション会場で彼女も一度、見ているはずだが、あらためて屋敷へ来たリューリたちの恰好を見たとき、それが常の服装なのだと知って、だいぶ驚いているようだった。
「〈治癒ポーション〉も必須ね。というか、森の中で暮らしていて、なかったというほうが驚きだわ。まぁ、手に入るのがダンジョンか町だけだし、作れる人がいなければ、それも仕方ないのだけど。病気の薬とかはちゃんとあるの?」
「そっちは多少、知識があるみたい。でも、あんまり種類は多くないから、少し買っていったほうがいいかも」
「そうね。じゃあ、まずはどこから行きましょうか? あなたたちは、どこか行きたいところとかあるかしら?」
振られたリューリたちは、しかしそろって首をかしげる。
まぁ、当然の反応だ。町に繰り出したくとも、何があるのかまではわかっていないのだから。
「なら、まずは服かしらね」
そう言うレーナのほうが楽しそうだ。やっぱり女の子だなぁ。
でも、自分の服を選ぶよりも、リューリたちを着飾るほうが楽しいみたい。
若干ギラついた瞳が私へも向けられるが、全力で視線を逸らしておいた。
「服にもいろいろあるけど、あなたたちの場合、もっとラフなほうがいいわよね」
「うん。ドレスも、これも、かわいい。でも、村、動きにくい」
いくら前よりも住みやすくなったとはいえ、依然として大自然の村だ。
いま彼女たちが着ている服も、それなりには動きやすそうだが、それでもおしゃれ着に分類されるたぐいのもの。
もっと楽で、安価なもののほうがいいだろう。
「あれ、いい」
ゆったりと走る馬車の窓の外、ヤエが指差す先にいたのは、小ぎれいな町娘といった風情の少女。
シンプルでラフな装いだが、かといってやぼったい感じもないしいいと思う。
「いいセンスしてるわね。あんな感じの服を扱っているお店を知っているから、そこへ行きましょうか」
知っているというか、御用達といってもいいレベルで購入しているらしい。
お忍びで必要だから、いくつかそういった服屋があるそうだ。
「ちょっと待って、レーナ。先に現金を作りたいんだけど、どこかで魔物素材、売れないかな?」
「あら、いらないわよ、お金なんて。昨日、お父さまが言っていたでしょう? あなたたちが滞在中に発生する費用は、すべて侯爵家が持つから、支払いは気にしなくていいわ。遠慮もね。必要なものがあれば、なんでも言って」
いくら礼とはいえ制限をかけないとは……これがセレブの力か。
「ありがとう。でもそれはそれとして、今後のこともあるし、現金は作れるようにしておきたいんだ。魔物素材を売れるところってある?」
「冒険者ギルドで売れるわよ。登録が必要だけどね。個人で直接、店に卸すのはおすすめしないわ」
店に直接、売却するのも、特に禁止されているわけではないのだが、その手の面倒なトラブルがあとをたたず、ゆえにギルドからも煙たがられるそうだ。
けど……冒険者かぁ。いずれリューリたちは冒険者になるのだろうが、私自身はなる気はなかったんだけどな。
とはいえ、魔物素材を換金するために必要であるならするしかない。
現状、それ以外に金策の手段はないのだし。
「じゃあ、先でも後でもいいから、寄ってもらっていい?」
「えぇ、もちろん。なら、そっちを先に済ませちゃいましょうか」
ということで、馬車は冒険者ギルドへと進路をとった。




