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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
5章 領主からの招待
79/140

79 町、行く!!

 

「トアねえ、すごい、きれい!」

「ドレス、トア姉、にあう。お姫さま、みたい」

「うん、トアおねえちゃん、とっても、すてき、なの!」

「本当に。よく似合ってますよ、トアさん」


 こっちは純粋な賛辞にむずがゆくなる。


 もうすでに着替えたくて仕方がない。

 着替えてスロースコクーンのベッドに沈みたい。


「このまま夜会に出たら、きっと独身の令息たちが群がってくるわよ」

「ぞっとしないんだけど。やめてくれる?」


 と、それはともかく。


「あなたたちも、すごく見違えたね。みんな、すごく可愛いよ」


 肌も髪もきれいに整えられ、それぞれにあったデザインと色のドレスを身にまとったリューリたちは、すっかりあか抜けていた。


 原始的な雰囲気など、先まであったことさえ嘘のように、いまはどこからどう見ても良家のお嬢様にしか見えない。


「当然よ、素材がいいもの。みんな、そんなに可愛いのに、おめかししないなんてもったいないわ。気に入ったなら、そのドレスはあなたたちにあげる」

「いいの? 大事、言ってた」


 たしかに。

 侯爵が思い出を大切にする人だから、着られなくなった衣装でも、売ることも譲ることもせずに全部とってあるのだと、先ほどレーナは言っていた。


「いいのよ。友達へのプレゼントだもの、お父さまもいいと言うわ」

「なら、ほしい。ありがと、レーナ」


 嬉しそうに笑い、リューリたちは口々に礼を言った。


 そんなこんなで――しっかりと着飾って参加した、晩餐の席。


 そこでも、侯爵にドレスアップをたいそう褒められ、子供たちはちょっと恥ずかしそうに、私はだいぶ居心地が悪くなりつつも、出された料理をいただく。


 さすがは上級貴族のもてなしだけあって、腕のいい料理人がいい食材を使って作っているらしく、どの料理も大変、美味だった。

 グラトニーグルメで作る、向こうの現代食とはまた違った美味しさだった。


 ◇


 屋敷に用意された上等な客室にて一夜を過ごし――翌日。

 瞼の裏に柔らかな光を感じ、意識が夢の世界から引き戻される。


(……そういえば、この世界に来てから、スロースコクーンの中以外で朝を迎えるのは、初めてだなぁ……)


 寝起きのぼんやりとした頭で、そんなことを思う。


 けれど、スロースコクーンほどではなくとも、客室のベッドもさすがにふかふかで寝心地がよく、目は覚めたものの、どうにも離れがたい。


(……いま、何時)

『八時前ダナ』


 邪神はどうやってか、時間を正確に把握しているらしい。


(八時前、か……まぁ、起きる時間ではあるんだけど……)


 最近は、だいたい八時前後に、自然と目が覚めるようになっている。夜も、わりと同じ時間に寝てるし。


 真っ当な社会人であれば、八時の起床は遅いのだろうが、私に関して言えば、この世界に来てからの生活は真人間のそれだ。


 もちろん、望んでのことではない。

 ぐーたらを至上とする私が、そんな規則正しい生活を送っているのは、リューリたちの指導をしなければならないからである。


 本当はもっと怠惰に、自堕落的に過ごしたいのだけど、ままならないなぁ。

 朝に寝たり、半日寝てたりするなんて、向こうでは当たり前だったのになぁ。

 そんな生活が、私にとっては、これ以上にない幸せだったのだけどなぁ。


 などと、布団の中でもぞもぞしつつ心中で嘆いていると――突然、バァーンッと勢いよく扉が開かれた。


「おはよう、トア! 朝食の用意ができてるわよ!」


 レーナだった。……声のボリュームが、寝起きにはキツイ。


 布団を手繰り寄せてそれをシャットアウトしつつ、まだ寝てますよアピールをするが、レーナはおかまいなしに室内へと踏み込んでくる。

 ベッドに近づいてくる。


「ほら、起きて! 朝食よ!」

「……いいよ、私は。もうちょっと、こうしてる」


 ぎゅっと抱き込んだ布団は、無情にも簡単に剝がされてしまった。

 寝起きのせいで、まだ上手く力が入らない。


「駄目よ、一緒に食べるの。リューリたちは、とっくに起きて席についてるわよ」


 だろうね。獣人たちの朝は早いんだ。


「……ベッドが、私を離したくないって」

「私には早く離れなさいって聞こえるわ」


 往生際わるくベッドにしがみつく私を、レーナは容赦なく引き剥がし、そのまま引きずっていった。……押しが強い。


 ◇


 グラトニーグルメを手に入れてからこっち、食事もだいぶ健康的になったなぁとしみじみ思いつつ、あっさりとした軽めの朝食をいただく。


 獣人三人娘の皿に盛られたベーコンが、分厚いステーキみたいだったのは見なかったことにする。見るだけで胸やけがしそうだ。

 たぶん、早く起きてリクエストしたのだろう。


 あぁ、優しい味のスープが胃に染みる……。


 そうして朝食を終え、食休みの優雅なティータイムを堪能していると、


「レーナ、トア! 町、行く!!」


 ずっとうずうずしていたリューリが、痺れを切らしたように席を立ち、こちらへと身を乗り出しながら言った。


 屋敷へ向かう馬車の中でも、かなり我慢させちゃったからなぁ。もう限界だったようだ。


「えぇ、そうね。もちろん、私はいいのだけど……」


 けれどもそれに、レーナはやや難色を示す。というよりも、案じるような面持ちでリューリたちを見ていた。


 その態度の理由は、すぐに察せられた。


 この世界の獣人は、差別の対象だ。ここは人間の町で、彼女たちが人の町に来るのは初めてのことだから。


「あなたたちは、きっと嫌な思いをすることになるわ。あなたたちも知っているとおり、人間の亜人種に対する差別は根深い。全員が全員というわけではないし、この町は比較的マシなほうだとは思う。それでも、忌避の視線や、あるいは好奇の目を向けてくる人はいる。それでも、行く?」


 レーナの確認に、リューリたちは互いに顔を見合わせ、うなずき合う。


「捕まった、とき、そういう、目、あった。知ってる」

「でも、平気、なの」

「レーナ、トアねえ、いる、だいじょーぶ!」


 ヤエのあとをアルマが継ぎ、最後にリューリが元気よく言って、いっさい臆することなく笑った。


「私たち、いずれ、冒険する。気にして、られない」

「そう。出会ったときから思っていたけど、あなたたちってすごいわね」


 うん、私も同意見。

 伊達に、ほかの獣人たちが恐れる外の世界に憧れてないってことか。


「じゃあ、さっそく準備して出かけましょう」



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