表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
5章 領主からの招待
77/140

77 これが上級貴族の財力か

 

「あらためて、いらっしゃい。トア、リューリ、ヤエ、アルマ、レイニス」


 侯爵が部屋を出ていくのを見送って、小さく息を吐いたレーナが、途端に雰囲気を一変させて言う。

 先ほどまではまさに貴族令嬢といった雰囲気で、記憶にあるよりも楚々として控えめだったが、いまは記憶にある、闇オークション会場でのレーナだ。


 父親の手前、貴族令嬢としてちゃんと振る舞っていたのだろう。

 さっきこぼした吐息も、気疲れからきたものだと思われる。


「そしてあらためて、あのときはありがとう」

「私からも。本当にありがとうございました」


 レーナに続いて礼を告げたのは、彼女の従者であるシウカだ。


 彼女は従者ゆえか、いままでレーナの後ろに控えてはいても、いっさい言葉を発することはなかったけれど、元気そうでなにより。


 頭を上げたレーナが、そこでふとジト目になって私を見上げてくる。


「なんで、何も言わずに行っちゃったのよ?」

「私にもいろいろあったんだよ。ごめんね」


 あのときはこんなことになるとは思ってなかったし、貴族と関わり合いになりたくなかったからとんずらしたけど、それを正直に言うのもさすがに憚られたので、適当にごまかしておいた。


 もちろんそれで納得したわけではないだろうが、レーナは「ふぅん」と短く言うだけで、今度はリューリたちへと矛先を向ける。


「あなたたちは?」

「わたしたち、獣人。それに、トア、強い。安心」

「あぁ……なるほど。その気持ちは、よくわかるわ」


 リューリの返答を受け、妙に深い納得を見せるレーナ。


「まぁ、いいわ。またこうして会えたのだし」


 短く吐息しつつも、切り替えたようだ。


 さくりとその話題を切り上げたレーナが、シウカとともに後ろに控えていた、使用人服を着た少女を紹介してくる。


 実のところ、その少女の存在はずっと気になっていたのだ。

 ずいぶんと小ぎれいになって、肌や髪の色つやもよくなっているが、とても見覚えのある少女だったから。


「私の親友、シャノンよ。私専属の侍女見習いになったの」

「トア様、あのときは、本当にありがとうございました」


 レーナが助けようとしていた、件の友達だ。

 身寄りがなく、ずっと貧民街でひとり暮らしていた彼女を、あの一件があってのち、侯爵に頼みこんで自身の侍女見習いにした、ということだった。


 いかに友人とはいえ、身分違いの者をそうそう家には入れられない。それも、溺愛している大事な一人娘の侍女にするなんて、そうそう許可などできない。


 けれども今回の一件で、被害にあったシャノンに対し、侯爵にも負い目ができてしまった。ゆえに、特別に許されたのだという話だった。


「よかったね」

「はい。それも、すべてトア様のおかげです。あのときトア様がいなければ、いまのわたしはありませんでしたから」


 そうしてひととおりあいさつを終えたところで、レーナが一つ手を叩き、みんなの注目を集めてから言った。


「さぁ、行くわよ。ついてきて」


 張り切ったように、部屋の外へ向かって歩き出す。


「どこに行くの?」

「すぐにわかるわ」


 よくわからないが、彼女のあとについて部屋を出る。

 長い廊下を歩いていく。階段を登って、さらに歩く。


「ねぇ、レーナ。いまさらだけど、晩餐の席ってこの恰好でも平気?」


 私は寝巻き風だし、リューリたちは原始的な恰好をしている。

 もちろん清潔にはしているものの、ありていに言ってみすぼらしく、貴族の屋敷へ赴くには、とてもではないが相応しい恰好ではない。


 招待を受けたときにシェイヴィには確認を取っていて、そのままでかまわないということだったからこのまま来たけど、晩餐の席でも本当にこの恰好でいいのだろうかと、ちょっと気になった。


「本当にいまさらね。いいのよ、服装なんてなんだって。あなたは私たちの恩人なのだし、お父さまも気にしてないわ。もちろんリューリたちもね。それに、私は可愛いと思うわよ、その寝巻き」


 わかってるね、レーナ嬢。

 貴族のご令嬢が、庶民の寝巻きのよさをわかっていいものなのか、と思わないでもないけれど。


「でも」

「でも?」

「――着いたわ。ここよ」


 いくつか並ぶ扉の一つの前で立ち止まり、シャノンが扉を開く。


「「「わぁっ」」」


 扉の先を覗き込み、獣人三人娘が感嘆の声を上げた。


 そこは衣装部屋のようだった。

 元の世界の、マイホームたるマンションの一室よりも広いだろう室内に、デザインも色もさまざまなドレスや装飾品の数々が、所狭しと並べられている。


 もはや何着あるのか数えるのもバカバカしくなるレベル。まるで服屋にでも来たみたいだ。

 これが上級貴族の財力か……。


「着られなくなったドレスも、全部とってあるの。本来なら、財政的に厳しい他家のご令嬢に譲ったり、古着屋なんかに持っていくべきなのだけど……うちのお父さま、思い出をすごく大事にする人だから」


 侯爵、だいぶレーナのこと溺愛してるみたいだもんね。


「このあたりなら、あなたたちの体にも合うはずよ。せっかくだし、うんときれいにしてあげるわ」


 そうか。でも、の続きはこれだったのか。


 私が言うまでもなく、服を用意するつもりだったと。

 どんな恰好でも気にはしないけれど、こちらできれいに着飾れるのなら、着飾るに越したことはないと。

 初めからそういうつもりで、レーナは私たちをここへ連れて来たのだ。


「さぁ、好きなのを選んでちょうだい。私のお古で申し訳ないけど、二、三回くらいしか着てないし、手入れもちゃんとしてあるわ」


 なんてもったいない。こんな上等なドレスの数々を……これが上級貴族か。


 リューリたちにも憧れはあったのか、はたまた女の子というのがそういう生き物なのか、上品で煌びやかで可愛らしいドレスの数々を前に、これでもかと目を輝かせている。

 あまり表に感情が出にくいヤエでさえ、心が浮き立っているのだとわかる。


「トア、あなたはこっちよ」


 ……え、私も?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ