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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
5章 領主からの招待
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75 ミルクティーのほうが好みだ

 

「いえ。こちらこそ、ご招待にあずかり光栄です」

「あぁ、そういう堅苦しいのはなしだよ。君は娘たちの命の恩人なのだからね。無理に畏まる必要もないし、言葉も楽にしてもらってかまわないから」


 こういう、いくら恩人とはいえ、普通の貴族ならありえないだろうことを許してしまうところもまた、レーナとの血縁を感じさせた。


 遠慮なく、普段どおりでいさせてもらうことにする。

 そもそもレイニス以外は敬語なんて使えないのだし、私も無理に使うことはないだろう。ちゃんと許可が下りてるわけだしね。


「トア、それにリューリ、ヤエ、アルマ、レイニス。また会えて嬉しいわ」


 そう、言葉どおり嬉しそうな笑顔を浮かべて言うレーナは、貴族令嬢らしくきれいなドレスで着飾っていて、当然だが捕まっていたときよりも輝いて見える。


「呼び出すかたちになってしまって申し訳ない。道中、疲れただろう。さぁ、こっちに。お茶とお菓子を用意してあるんだ。甘いものは好きかい?」

「うん。ありがとう」


 応接室と思しき部屋へ案内される。

 すぐに使用人がティーポットとカップ、お菓子や軽食なんかをのせたカートを押してくる。


 そうしてテーブルに並べられたのは、軽食は小さくカットされた三種のサンドイッチ、お菓子はカットフルーツとシロップがトッピングしてあるガレットと思しきもの、ドライフルーツの入ったパウンドケーキ、それからドライフルーツそのものと、シンプルなクッキーだった。


 これが上級貴族の最大のもてなしであるなら、甘味自体の種類もそう多くはないのだろう。

 普通に美味しそうではあるものの、言っては悪いが、グラトニーグルメのスイーツに比べれば、数段は劣る。


「さぁ、遠慮なく食べてくれ」


 すると、好奇心の塊な突撃系のリューリが目を輝かせ、そしてグラトニーグルメの登場で食に目覚め、普段は控えめなのに食事になると豹変するアルマが、まるで獲物を狙う獣のような目をして、同時にお菓子と軽食に手を伸ばす。


 すでにグラトニーグルメの料理やスイーツを食べ慣れている子供たちだが、これはこれで物珍しいのだろう。グラトニーグルメ以外の料理やスイーツを、彼女たちは見たことすらなかったから。


 しかし、お菓子へと伸ばされた二人の手を、直前でヤエが掴んだ。そのまま彼女は、私のほうを見てくる。じっと、見つめてくる。


(……あぁ、なるほど)


 侯爵は遠慮なく食べていいと言ったけど、ヤエとしては不安なのだろう。本当に食べて大丈夫なのか。毒の混入とかの心配ではなく、食べたあとで何か咎められたりしないかと。


 ヤエはいつも冷静に物事を見ている。獣人三人娘の中で、みんなを引っ張っていくリーダーがリューリなら、ヤエは参謀といったところだろう。あるいは、ストッパー役と言うべきか。


 村の外に出て人間に捕まってしまったときも、ヤエ自身も外への憧れはあったものの、ちゃんと止めたそうだ。けれどリューリが、まだ平気、もう少し、というのに心を揺らし、ついつられてしまった。そしてこれ以上は本当に駄目だと、本気で帰還を促したときにはもう遅かった、という話だ。


 そんなヤエだから、何かあってからでは遅いとして、まず私の出方をうかがうことにしたのだ。ものを知らない自分では判断ができないから。私が食べたなら、大丈夫だろうと。


 まぁ、それは私でも同じことなのだけど……私が手をつけないと彼女たちも食べられないようなので、先陣を切るとしよう。


「じゃあ、いただきます」


 まずは紅茶をいただく。


 紅茶の良し悪しなんてさっぱりわからないけど、これはとても香りがよく、口当たりもいい。


「美味しい」

「それはよかった」


 私がカップに口をつけたことで安心したらしいヤエが、リューリとアルマの手を放す。

 すると、そのあいだに少し落ち着いたらしい二人は、私にならって、ターゲットを紅茶へと変えた。

 ヤエとレイニスもそれに続く。


(そういえば、グラトニーグルメのメニューに紅茶は、というか飲み物自体、なかったな)


 いまのところ、グラトニーグルメが作れるのは料理とスイーツのみ。レシピがあれば飲料もいけるのだろうか。お酒とかコーラとか。……紅茶のレシピ?


 とまぁそれはあとで考えるとして。ゆえに彼女たちが紅茶を飲むのは初めてとなるわけだが……一口飲んだあとで、そろって微妙な顔になった。


 たぶん、特有の渋みが引っかかったのだろう。


「ストレートが駄目なら、砂糖やミルクを入れるといい」


 小さく苦笑しながら、侯爵が砂糖の入った瓶とミルクポットを差し出してくる。

 それを代わりに受け取って、三人のカップに適当に入れてあげる。

 私も入れた。ミルクティーのほうが好みだ。


 三人とも今度は気に入ったようで、ぐびぐびと美味しそうに飲んでいる。


「レイニスは?」

「ボクは大丈夫です」


 大人だな。


 優しい甘さのミルクティーを楽しみ、一度カップを置いて、パウンドケーキを一切れ口に入れる。うん、普通に美味しい。


 子供たちもまた、思い思いにお菓子や軽食に手をつけ始めた。


 マナーなんて知らない獣人三人娘だが、そんな彼女たちを、侯爵もレーナも微笑ましそうに眺めている。


 レイニスだけは、とても美しい所作でケーキを切り分けていた。

 姿勢がよく、食器の扱いは完璧で、いっさいの音を立てていない。


 やっぱり、絶対に身分高いよね、レイニスって。

 レーナと並んだら、まったく違和感ないもの。

 そこの三人だけ、完全に貴族のお茶会だもの。



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