73 同志違うし
どうやら、エインバースは魔導機オタクらしかった。
勝手に話してきたところによると、彼の装備の一部が魔導機なのだとか。
ただし、それらは比較的、新しい時代から現代のものだそう。
たしかにスロースコクーンとは違うな。
スロースコクーンは完全に装甲で覆われていて、スマートで洗練された、いかにもロボっぽいデザインをしているのだが、彼のそれはスチームパンク感が強い。
いわゆるレトロフューチャー的な。歯車がついてたり、機構が剥き出しになってたり、そんな感じ。
『技術に大きク差がアルからナ。それに、超文明期に作られタ魔導機の素材ハ、すべテ特殊な製法デ作られタ合成素材ダ。現代でハ作れナイのダろウ』
らしい。まぁ、正直どうでもいいのだけど。
「トアさんも同志なんだろ? 魔導機の素晴らしさを心ゆくまで語り合おうじゃないか!」
「同志違うし」
別に私は魔導機オタクなわけじゃない。ただ偶然、手に入れただけで。
私の同志はぐーたらを愛する者だ。まぁ、スロースコクーンはぐーたら愛好家には素晴らしい魔導機だけれども。
「トアさんには今度、特別にオレのコレクションを見せてやるよ!」
「別に興味ないからいい」
だから、私はあんたの同類じゃないってば。
エインバースは以外としつこかった。趣味のことになると人の話を聞かなくなるタイプらしい。
「彼は身も心も騎士と魔導機に捧げた変人だから、男としての心配はしなくていいんだけど、家には行かないほうがいいよ。完全に生活捨ててるし。趣味に捧げすぎて借金苦だし」
とシェイヴィが呆れまじりに助言をくれた。
いやまぁ、オタクとかマニアにはわりとありがちな話ではあるけど、そもそもコレクションを見に行く気なんて端からないしね。
ちなみに、彼女らの私に接する態度が気安くなっているのは、私がそうしてほしいと言ったからである。
畏まるのも苦手だが、畏まられるのも苦手なのだ。
◇
徒歩の騎士五人と多脚ロボという、はたから見たら奇妙な一団が、ロウデンの町へ向かって森の中を行く。
魔物には騎士たちが対応していた。
私たちはずっとスロースコクーンにこもっていたけれど、本来なら守るべき私たちを守る必要がないから、シェイヴィたちも楽そうだ。
少数で送り込まれてくるだけあって、騎士たちは強かった。
聞けば、侯爵家に仕える騎士の中でも、彼らは精鋭らしい。
たしかに、こんな魔物ばかりの森の中、行軍するなら少数精鋭のほうが動きやすいだろう。
私はといえば、しっかりとぐーたらを満喫させてもらっている。
最初に乗せたときは、そのときだけの付き合いだと思ってたし、あえてスロースコクーンの機能を使わなかったけど、いまとなっては隠す必要もない。
なので、だらだらとベッドで寝転がりつつネット小説を読んでいると、リューリたちが興味津々に顔を寄せてくる。
「これ、なに? 文字、いっぱい」
「小説。人が考えて書いた物語を投稿してるの。いろんな物語があって面白いよ」
「物語! 冒険?」
「だけじゃないけど、冒険ものもたくさんあるよ」
しばらく食い入るように画面を見つめていたリューリたちだが、その表情は徐々に難しいものへと変わっていった。
「……読め、ない」
「まぁ、だろうね」
当然のように、元の世界の文字で書かれてるし。読めていたら、そっちのほうが驚きだ。――と思ったのだけど。
レイニスの瞳は、たしかに文章を追っていた。
「レイニス、まさかとは思うけど、読めるの、これ?」
「? はい。基本的な教養は身につけていたようです」
いや、そういうことじゃなくて。
『スロースコクーンの機能ダろうナ。その娘たちにハ、コチラの文字で見えテいルようダ』
そんな機能もあるのか。便利なものだな。
(というか、なんで曖昧なの)
『俺も、コレの細かイところマデは知らンからナ。コレの核も星鱗結晶ダ。星の欠片とさレル星鱗結晶なラ、その程度はタやすかろウ』
(ふぅん)
よくわからないけど、すごい結晶なんだね。
リューリたちは、リューリの母リトリアが外から来た獣人であること、また、その彼女が持ち込んだ本の読み聞かせをしてもらっていたことから、わずかではあるが文字を読むことができるらしい。
とはいえ、本当にわずかなものだ。小説を読めるほどのレベルにはない。
なので、彼女たちは道中、レイニスから文字の読み方を教わっていた。
ネット小説を読むのもいいけど、こっちの世界の本も、町で売ってたら買ってあげようかな。




