72 なんだか幼い子供みたいだ
しかし……どうしたものか。
私が応じなければ、暴走したレーナが、危険な怪物どもの巣窟に飛び込んでくることになる。
彼女のことだ、どうにかして監視なども振り切ってくるだろう。
それで魔物に食い殺されてしまっても自業自得ではあるのだが、だから私には関係ない、なんて非情なことも言えそうにないし。
面倒だけど、かかわりたくないけど……行くしかないか。
あとのことは、まぁ、なるようにしかならないだろう。
あぁ……ほんと、全然ぐーたらできない。
けどま、ちょうど町には用事もあったしな。
ついでに訓練用のポーションとか必要なものを買ってこよう。
衣類とか生活雑貨とか。グラトニーグルメがあるから、食材とか調味料とかはいらないかな。いまのところは。
「わかった、行くよ」
「ありがとうございます!!」
よほど嬉しかったのだろう、シェイヴィに両手を取られ、上下にぶんぶん振られた。激しい、激しい。
「それと、もしよければ、あのとき一緒にいた少女たちもぜひ、とレーナ様が仰っていました」
「リューリたちも?」
「はい。せっかく出会えたので、ちゃんとお友達になりたいと」
あぁ、それもレーナらしいな、と思ってしまった。
ほんの半日も一緒にいたわけではないけど、友達を助けるために自分をエサにするような子だもんね。
檻の中でも、捕まっていた子たちに声をかけ、しきりに励ましていた。種族や身分の違いなど、まったく気にもとめずに。
とはいえ、それは私には決められない。リューリたちの意思もそうだし、何より親御さんたちの許可がないと。
ただでさえ一度、人間に捕まっているのだ。
結果的に無事に戻ってきたとはいえ、それからまだ数日しか経っておらず、向かう場所は人間の住む町。
いずれ冒険に出ることや訓練の許可は得たものの、その条件の一つとして、ある程度、技術を身につけなければ、村の外に出ての実戦さえ許されてはいないのだ。
リューリたちは全員、当然と言うべきか「行きたい」と即答だった。
そして、気になるゼストの返答だが……やはり悩ましげ。頭ごなしに駄目だと言わなくなったあたり、だいぶ考えや心境は変わったようだが。
「何があっても私が必ず守って、必ずここに連れ帰る。それでも駄目かな?」
すると、ゼストの眉間からふっと力が抜けた。
「……そう、だな。おまえがいるなら、問題ないだろう。トア、娘たちを、よろしく、頼む」
「うん、任せて。ありがとう、信頼してくれて」
「当然だ。それだけのことを、おまえは、してるのだからな」
というわけで、私とともに、リューリ、ヤエ、アルマ、レイニスも一緒に町へ行くことになった。
「それで、シェイヴィ。いますぐ行ったほうがいい?」
「どちらでもかまわない、と侯爵様には仰せつかっています。もし都合が悪いようでしたら、都合のいい日時を教えてください。それに合わせ、私たちが迎えに参ります」
ということなので、ゼストとも話し合った結果、このまま騎士たちと行くことになった。
別に用事なんてないしね。ついでに言えば、特に準備も必要ない。
「いつ、戻る」
ゼストに問われ、私はシェイヴィを見る。
「滞在期間に関しては、トア様に任せるそうです。レーナ様は、いれるだけいてほしいと仰っていましたが」
苦笑の気配をにじませて言うシェイヴィに、私は腕を組んで思案する。
私としては、お礼を受け取って必要な買い物をしたら、すぐに帰ってきたいところなんだけど、リューリたちがいるからなぁ……まぁ、とりあえず、
「一週間以内には戻ってくるよ」
「わかった」
町までは、ここからだと歩いて丸一日はかかるらしい。その往復を除いて、最大で五日も滞在すれば、ひとまずは満足してくれるだろう。
別に、町に行くのがこれっきりということでもないのだ。
「じゃあ、みんな、行ってきます」
「父、行って、くる!」
「あぁ。気をつけて、な」
そうして、みんなに見送られて、私たちは村をあとにした。
◇
ウルグレン侯爵家が居を構えるロウデンの町までは、徒歩で丸一日、かつ森の中には魔物がいるので、状況次第ではもっとかかる。
そんな距離を歩くなんて面倒きわまりない。ということで、私たちはスロースコクーンでいかせてもらうことにした。
いろいろあって、ろくにぐーたらもできていないのだ。
せめて町までの道中にたっぷり堪能させてもらう。
全員が乗れれば、それこそ数時間程度の道のりとなるのだが、さすがに鍛えられた騎士が五人も同乗するのは無理なので、彼らには徒歩で頑張っていただく。
「な……なに、これ?」
スロースコクーンを展開すると、シェイヴィ以下三人の騎士はただ驚き、未知への好奇をわずかに浮かべる程度のものだったが、約一名、反応の毛色が違った。
「おおおお!? これ、もしかしなくても魔導機だよな!? しかも古代超文明期の!! 嘘だろ、こんなでかいもんがこんなきれいな形で残ってるなんて!? パーツ程度ですら激レアだってのに! マジ奇跡!! マジすげーっ!!」
エインバースだ。
これでもかと目をキラッキラに輝かせ、鼻息も荒く拳を握り、それはもう大興奮といった感じである。
スロースコクーンの周りを忙しなくぐるぐると回りながら、子供のようにひとりはしゃぎにはしゃいでいる。
「なぁなぁ、これどこで手に入れたんだ!? 遺跡か!?」
「隠しダンジョンの攻略報酬」
「隠しダンジョン!? 攻略したのかすげーっ!! いいなーすげーっ!!」
興奮のあまり、ついに「すげー」しか言わなくなった。
なんだか幼い子供みたいだ。
とはいえ、あまり追及されなくてよかった。
いちいち答えるのも面倒だし。




