67 ソレを〝フラグ〟と言ウんじゃナイか?
「――許可、しよう」
亡き妻、リトリアとのいっときの邂逅からすぐのこと。
ついにゼストから、リューリたちに戦い方を教える許可が下りた。
すると、もとより長次第だったヤエとアルマの両親からも、あっさりと許しが出る。
もちろん三人娘は大喜びだ。
「父、大好き!」
と愛娘に抱き着かれたゼストパパは、しかめっ面でぶんぶんとしっぽを振り回していた。獣人のしっぽは、心情を何よりも雄弁に語る。
「ただし、条件、ある」
咳払いをして何かをごまかしつつ、ゼストが告げたのは『成人まではこの村にいること』というものだ。
リューリたちの夢は、世界中を冒険し、いろんなものを見てまわること。
この世界での成人は、獣人でも変わらず十五歳。あと四年は村を出ることを許さないということで、それは当然の条件だった。
四年間、まじめに鍛錬に励めば、ちょっとやそっとじゃ死なないくらいには強くなるだろうしね。
それに、旅をするというなら、力だけでなく相応の知識も必要だ。その習得も考えれば、四年という期間はちょうどいいのではないだろうか。
それ以外にもいくつか細かい条件が出されたが、どれもゼストが妥協できる最低限のものであり、至極妥当なものであった。
「トア、リューリたちを、よろしく頼む。強く、してやってくれ」
「やれるだけやってみるよ。あとは彼女たち次第だね」
そうゼストには答えつつ、早く早くと訓練場に引っ張られていくあいだ、私の口からは思わずのため息がこぼれる。
わかってる。リューリたちに頼まれ、ゼストを説得しにいってまで、戦い方を教えることを了承したのは、私自身だ。
だから、これはある意味、私の自業自得で、一度やると言ったからには、指導役はちゃんとやる。私にできることは、全部。
でも、本気で彼女たちの指導役をやるということは、その分、ぐーたらできる時間が減るということでもあった。それも、大幅に。私は年がら年中ぐーたらしていたいのに、だ。
まぁ、受けてしまったものは仕方ないし、後悔をしているわけでもないけど、それでも往生際わるく思ってしまうのだ。
私がもう一人いればなぁ、なんて。そうしたら、私は思う存分ぐーたらできるのになぁ、なんて。
(……ん、ちょっと待てよ。いや、駄目か)
私そのものがもう一人いたところで、なんの意味もないどころか、絶対、面倒なことになる。
どっちがぐーたらして、どっちが働くかで、自分同士の、それこそ血みどろの戦争になる。間違いなく。
というわけで、ぐーたら愛な部分を除いた私が、もう一人ほしい。……それ、もう私って言えないな。
なんて馬鹿な現実逃避はこのくらいにしておこう。虚しくなるだけだ。
『まァ、なくはナイがナ。魔法にハ』
はいはい、どうせ私は魔法が使えませんよ。
『もう一つ。魔法でハなく、オマエの完全コピーというワケでもナイガ、オマエの戦闘経験や技術のみをインストールしタ〝人工精霊〟を作ルといウ手もアル』
なにそのご都合的な話。
邪神がそういうこと言い出すときは、絶対にろくなものじゃないんだ。
『謂れナき中傷ダナ』
(前科持ちでしょうが)
まったく白々しい。
(それで、人工精霊ってのは?)
『自然に宿リ生じル精霊を、人工的に作ル技術ダ。ただし、生まレたソレに属性はなく、力も持たナイうえに、意思も弱イ。ゆえに、そこへ経験や知識を与えル。限度はアルがナ。だが、ソレらに基づイテの思考は可能だシ、意思が弱いタメに命令にモ従ウ。オマエの世界で言ウところの、AIみたいナモノダ』
真っ先に思い浮かぶ活用方法は無人兵器なんだよなぁ。
『実際、かつテの運用モ、主とナルのは兵器だッタ。それによッテ各国の争イは激化し、最終的にハ、文明とトモにその技術も滅んだワケだガ』
滅んでるのかよ。じゃあ、なんでいま話題にしたの。
『それハもちろン、人工精霊を作れルモノに心当たりがアルからダ』
はい、出たよ。またこのパターン。まるきり、グラトニーグルメのときと同じじゃないか。
(いいよ。興味ない)
もともと、ただの現実逃避だ。それに、そんな物騒なもの、手元に持っていたくない。
グラトニーグルメみたいに、それがなきゃ人類や世界が危ないとか、絶対に必要というならまだしも。
『オマエの世界でハ、ソレを〝フラグ〟と言ウんじゃナイか?』
(…………)
いや、ないよ。ないない。ないったらない。




