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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
4章 『暴食』の解放
60/140

60 眩しいなぁ

 

「わたし、ここしか、知らない。みんな、知らない。でも、わたし、知ってる。世界、広い」


 そう言ってリューリが見せてきたのは、胸の前で抱えていた一冊の分厚い本だ。

 何度も何度も読み返したのだろう、その内の一ページを開いて、途端に目をキラキラと輝かせる。


「でっかい、水たまり」


 海が描かれている。


「いっぱい、砂」


 砂漠だ。


「ダンジョン」


 遺跡のようなものや洞窟の中に魔物が描かれ、戦士が戦っている絵だ。


「ぜんぶ、行きたい。ぜんぶ、見たい。冒険、したい」


 ……眩しいなぁ。大きな夢を持ち、その夢を叶えようとする、強くてまっすぐなその意志が。


 私は持ちえなかったものだ。夢を持ったこと自体はある。けれど、そこまで強いものじゃなくて、すぐに諦めてしまった。その程度のもの。


 うらやましいと思わなくもないが、もともとそういうタイプでもないしな、私。


 でも、なんとしてもぐーたらする、というのも立派な夢、というか目標ではなかろうか。ダメ人間の見本のようなものだけど。


 とまぁ、それはともかく。こんなにも純粋に夢見る少女たちの願いを無視できるほど、私の人間性は死んでいない。


 ものすごく葛藤はあるけど。ぐーたらと天秤は拮抗しているけど……やっぱり嫌だとは言えないよなぁ。

 レイニスはともかく、そんなキラキラした顔を三人分も見せられてしまったら。


 ここで断ったら、私はきっと、心置きなくぐーたらを満喫することなんてできないだろう。できないだろうけど――でも。


「ごめん」


 私の答えに、リューリたちが落胆をあらわにする。


 子供ながらに無茶を言っていることは理解しているのだろう。そりゃそうだと諦念を見せる彼女たちに、けれども私は続けた。


「あくまで我流で、それでもいいのなら、あなたたちに戦い方を教えるのは、私もやぶさかじゃない」


 彼女たちが戦う手段を持つこと自体は、私は賛成なのだ。


 外に出るわけじゃなくても、村には戦士がいて、竜という最強クラスの戦力を借りられることになっても、やっぱり自分の身を自分で守れる力があるなら、それに越したことはない。より安心できる。


「でもね、だからといって、勝手に教えるわけにはいかないんだ。あなたたちは、まだ親の庇護下にある。だから、まずはみんなの親御さんに許可をもらってからじゃなきゃ、私は勝手なことはできない」

「っ、でも、父は……」


 リューリの顔がことさらに曇る。


 まぁ、だろうな。ゼストはリューリが戦えるようになることを望んでいない。宴の最中、雑談の中で提案したときの彼の拒絶は、尋常ならざるものだった。


 いままでにリューリも頼んでみたのだろう。だがあの調子だと、取り付く島もなかったに違いない。だからこそ、許しがもらえる未来が見えない。


「ヤエとアルマは?」

「たぶん、リューリの、とこ、次第」

「なの」


 二人の親御さんは、絶対ダメというほどではないようだ。

 ただ、どうしてかリューリとワンセットな部分があるらしい。


「わかった。私から話してみるよ。説得できるかどうかはわからないけど。それでもいい?」

「……うん。ありがと、トアねえ」


 うーん。やっぱり、リューリの元気のない笑顔なんて見たくはないな。どうにか説得できればいいんだけど……。


 まずは、ゼストがかたくなに娘を戦いの世界に引き込みたくない理由からかな。


 本当は、家庭の事情というか、親子の問題に口を挟むことはあまりしたくはないのだが、ゼストも私を家族と言ってくれていたし、少しくらいなら踏み込んでみてもいいか。


 ◇


 善は急げとも言うし、リューリたちといったん別れ、私はさっそくとゼストに会いにいく。


 といっても、ゼストが住む家はリューリの家でもある。ので、二人きりで話すために、リューリには誰かのところにいてもらうことにした。

 レイニスの家に行くそうだ。


 そうして私はひとり、ゼスト宅へと赴いたのだが……不在だった。

 けれど、意識してみれば、彼の気配はたしかにここにある。住居部ではなく、もっと上にだ。


 新しくなっても、長であるゼストの家は一番太く大きな樹で、裏手に回り込んでみると、幹に沿うようにして階段が設けられていた。


 その長いらせん状の階段を登っていけば、少し広くなった場所に出た。


 下には短く刈りそろえられた芝生が敷かれていて、外周には色とりどりの可愛らしい花が咲いている。小さな庭園といった風情だ。


 そこに、ゼストがこちらへ背を向けるかたちで座っている。

 彼の前には、石板のようなものが見えた。


 おそらく、墓石だろう。

 誰のと言われれば、間違いなく彼の奥さんのものだ。


 お墓参りの邪魔をするほど、私は無神経ではない。

 リューリのことを考えれば早いほうがいいだろうけど、いますぐに話さなければならないというものでもないのだ。


 ここは出直そう。そう思い、踵を返そうとしたのだが……それよりも早く、私に気づいたゼストが振り向いた。


「トア、か」

「ごめん。お取込み中に。ちょっと話したいことがあったんだけど、あとでいいから」

「いや、かまわない。……リューリのこと、だろう?」


 やはり鋭い。


 まぁ、リューリは前々から何度も話していたみたいだし、私が彼女と知り合ったことも要因の一つなのだろう。

 そんな私が、話があると言ってわざわざ会いに来た――察するに余りあるというものだ。



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