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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
1章 封罪宮『怠惰』攻略
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6 ドロップアイテムってこういう感じなの?

 

 というわけで、ぐーたらしている同志のもとへ近づいていく。

 一歩、二歩、三歩、四歩……同志が動く様子は、まだない。


 もしかしてこれ、このまま無防備な背中を殴り殺せるのでは? 

 と思ったが、さすがにそれはなかった。


 だいたいニメートルほどだろうか、そこへ足先が踏み込んだ直後だ。


 半分も開いていなかった瞼がカッと見開かれ、ぎょろっと真っ赤な双眸がこちらを向き、それまでの怠惰ぶりからは考えられないほど俊敏な挙動で立ち上がるや、猛然と襲いかかってきた。


 そのある種、鬼気迫る様子たるや尋常ではなく、あたかも「おんどりゃぁ、よくもおれの至高なるぐーたらを邪魔してくれやがったな!? てめーをさっさと殺してまたぐーたらするんじゃあ!!」と言わんばかり。


 いや、あながち間違ってもいないだろう。

 それほどの勢いと形相だった。


 その豹変ぶりにはホラー映画並みの驚きがあったものの、しかし幾度も不意打ちを経験しているゲーム脳はとっさに体を動かし、回避姿勢を取っている。


 ともすればギャグみたいな滑稽さもあるが、相手は本気だ。

 横目に見送った巨大ネズミは、着地するや機敏に方向転換し、再び額の角を突き込んでくる。


 けど――私だって同じだ。

 ぐーたらにかける情熱は、むしろ彼ら以上だと自信を持って言える。


「私だってねぇっ、早く元のぐーたら生活に戻りたいんだよぉっ!!」


 ぐーたらにかける想いが、真正面からぶつかり合う。

 突き込まれる角と、フルスイングされる棍棒。


 手ごたえはクリティカル。

 私の棍棒に軍配が上がる。


 角付き巨大ネズミはかなりの勢いで吹っ飛び、叩きつけられ、ごろごろと床を転がった。

 それだけでダメージが許容量を超えたらしく、動かぬ屍となり、すぐに靄となって消えていく。

 そのあとには、小さな紫色の結晶が転がっていた。


「今度こそ魔石かな?」

『あァ。魔道具を動かす燃料にナル』

「テンプレだね。でも魔道具なんて持ってないし、使えないな。捨ててこう」


 親指くらいの小さな結晶でも、ただの荷物になるものはいらない。


『いヤ、手に入ル可能性はあるゾ。ダンジョンの魔物ハ、魔石以外にもサマザマなモノをドロップすル。運がよけれバ、魔道具がドロップするコトもあルのダ』

「へぇ、そうなんだ」


 じゃあ一応、持っておこうか。


 ◇


 それからも、ダンジョンを進みながら、だらだらぐーたらしている魔物たちを片っ端からアクティブ化させ、討ち取っていく。


 ダンジョン内の魔物は、ゲームよろしく倒すとドロップアイテムに変わる。

 落とすものは魔物によって異なり、その種類も多いが、大別すれば二種に分けられる。

 素材系とアイテム系だ。


 素材系は毛皮、皮、牙に爪、肉、魔石も素材に分類される。あとは内臓や器官のたぐいで、目玉や睾丸なんてものもあるらしい。後者は薬の材料になったりするそうなのだけど……心底いらない。


 そしてアイテム系だが、こちらは魔物の種類によらないほぼランダムで、本当にいろんなものが落ちた。


「何これ。魔石とも違うみたいだけど、なんかの結晶?」


 私の部屋にも乗り込んできた憎き魔物、犬頭人体『コボルト』が血走った目で棍棒を振るってくるのをかわし、逆にこちらの棍棒によって殴殺された死体が消えたあとに残った、拳の半分くらいある透明な塊を眺める。


『塩ダナ』

「しお」


 あぁ、塩の結晶か。

 試しに舐めてみた。


「しょっぱい。たしかに塩だ」


 いや、塩、嬉しいけれど、すごく。とっても。

 運動して汗をかいたあとの塩分補給は必須だ。


 でも……塩かぁ。

 なんというか、ドロップアイテムってこういう感じなの?


 ◇


 ひっくり返って腹を出していた灰毛の狼をアクティブ化する。


 しゅばっと機敏に起き上がるや、牙を剥いて飛びかかってくる『グレイウルフ』を前に、私は身をかがめ、下から棍棒の先端を腹へと突き込んだ。


「グァウッ……!?」


 打ち上げられる一メートル半ほどの体が、宙にあるうちに追撃。

 跳躍から棍棒を力いっぱい振り下ろし、今度は逆に地面へと叩きつける。


 その二撃と、落下のダメージも合わせて息の根の止まったグレイウルフが消え、その場にドロップアイテムが残る。


「木の棒?」


 それは、私が右手に持っている邪神製の木の棒と似て非なる、片手で握るには太すぎる、どちらかと言えば薪と呼ぶべきものだった。


『〈よく燃える薪〉ダナ』

「それアイテム名?」

『そうダ。よく燃えテ、使用限度がくるマデは、消しテ何度でも使えル』

「へぇー」


 サバイバルにはけっこう便利かも。


『まァ、一本だと火力もたかが知れテるガナ』


 そりゃそうだろう。


 ◇


 近くでぐでっていたグレイウルフを起こし、撲殺する。


「また木の棒みたいだけど、今度は棍棒よりも細いし、ちゃんと加工してある」


 見れば、平らな先端に何やら模様が刻まれている。

 長い判子みたいだ。もしこれが判子なら、押しにくいこと請け合いだろう。


『ソレは〈火付け棒〉ダ。火種が作れル』

「おぉー、便利。シガーライター的な感じか」


 考えてみれば、薪だけあっても火が熾せなきゃ意味ないんだよな。

 これは当たりだ。


 ◇


 角付き巨大ネズミ『ニードルラット』をかかと落としで地に沈める。


「お、ナイフだ」


 落ちたそれを拾い上げる。


 いわゆるペティナイフというやつで、武器にするなら的確に頸動脈とか狙わないと駄目だろうけど、肉をカットするのにちょうどよさそうだ。

 もちろん回収。



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