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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
4章 『暴食』の解放
59/140

59 意外と話のわかる竜でよかった

 

 そこであらためて自己紹介をし、竜は〝シカ〟と名乗った。

 名乗って、サイズが縮んだ。


 どうやら人の姿を取れるらしい。

 角としっぽと翼はあるが、それ以外は人だ。


 着物みたいな服を着た、だいぶグラマラスな、浅黒い肌に燃えるような赤い髪を持つ女性で、やっぱり極道っぽい雰囲気がある。


 人にしても、ちょっと大きいな。女性だけど、身長はニメートルに届くか。

 これが標準なら、人化しても大きめな種族なのだろう。


「人化できるなら、最初からそれで来てほしかったな」

「そりゃあおまえ、竜形態のほうが威圧感があんだろ」


 人型でもじゅうぶんにあるよ。


 この森の、さらに奥へ行くと竜とドラゴンの住む里があるらしく、シカはその里の長――頭首だという。


 協定があるから出てこないとはいえ、竜とドラゴンの集団が住んでいるような恐ろしい森だったのか、ここ。

 たしかに、ただの森ではなく樹海って感じで、広さも相当なものだけど。


「頭首が直々に来てたんだ。そういう雑用的なことって、普通、下にやらせるものじゃないの?」

「そりゃ、オレが結んだ協定だからな。下の奴らは全員、頭であるオレの命令を聞くが、だからこそ上には責任があるってもんだ」


 意外とちゃんと頭首やってるんだな。

 長は長でも、やっぱり極道の親分みたいな感じだけど。


「それに、あいつの顔も久しぶりに見ときたかったしな」

「そのわりに、名前も覚えてなかったよね」

「それがなぁ。やっぱり思い出せねぇんだよなぁ……。ま、名前なんざ大して重要なもんじゃねぇし、けっこう時間も経ってるから、まぁそんなもんだろ」


 竜もドラゴンも長命、というか明確な寿命というものがないみたいだし、特に他種族と交流があるわけでもなく、最強クラスの種族でもあるから、そのあたりがざっぱになるのも無理はないのだろう。


「ただ、あいつの気配はたしかにすんのにいねぇっつうのは、なんとも奇妙な話だがな」


 それは本当にね。私も知りたいところだ。


「で、おまえとの協定、もとい契約の件だが――近いうちに、派遣する奴を十人ほど選んで連れてくる。全部、竜のほうだ。そのときに甘い菓子とやらを、作れるだけ用意しとけ」

「竜を十人も? いいの?」

「かわまねぇよ、十人くらい。竜だけでも百はいるからな」

「……ちなみに、ドラゴンは?」

「三百はいると思うぜ」


 竜もだけど、ドラゴンもそんなにいるの? ……協定が破棄されたら、やっぱり普通に人類滅ぼせそうだ。

 いや、あくまで食事のためであって、人類を滅ぼすつもりはないのだろうけど。可能不可能の話だ。


「ただ、衣食住の面倒だけ見てやってくれ。そいつらの食事も、例のやつだぞ。こっちで食えねぇからな」

「それはもちろん」


 家はレイニスに頼めばいくらでも作ってもらえるし、食事に関しては、すでに私や獣人たちの常食となっている。


 共用の大食堂を作って、そこにグラトニーグルメを設置したのだ。みんなが好きなときに、好きな料理を食べられるように。


 竜たちに頼む魔物狩りは、そのポイント用である。


「あとさ、シカ。料理の補充なんだけど、できれば数か月に一度くらいの頻度にしてもらえないかな」

「うん? ん、まぁ……さして手間でもねぇから、別にかまわねぇけど」

「一度にあの量はかなり負担が大きくてさ。リストにない新しい料理もちゃんと入れてあげるから」

「おぉっ、そいつは楽しみだ。いいぞ」

「ありがとう」


 そうして話し合った結果、三か月に一度ということになった。


 グラトニーグルメの詳細も話したところ、実に気前よくも、こちらへ訪れる際に里の周辺で魔物を狩って、それを手土産として持ってきてくれるという。


 やった。これで料理作りもだいぶ楽になるぞ。

 最初は有無を言わさぬ感じだったけど、意外と話のわかる竜でよかった。


「んじゃ、そういうことで。今日は帰る。またな」

「うん。よろしくね」


 再び竜形態となって、シカは里へと戻っていった。


 ふふ、これで私は何もしなくていい。

 心置きなく、ぐーたらできるぞーっ!


 ◇


 ……と、思ったのだけど。


「トアねえ、お願い、ある」


 その日の夜のことだ。

 リューリ、ヤエ、アルマ、レイニスが訪ねてきて、そう切り出した。


 ちなみに、私の家である。集落を作り直す際、ちゃんと作ってもらっていた。


 といっても、スロースコクーンを展開できるだけのスペースがあるだけで、ほかには何もないけど、それでいいと言ったのは私だ。

 スロースコクーンの中に生活に必要な設備はすべて備わっているから、家具とかもまったく必要ないのである。


「お願い? そんなあらたまって、どうしたの?」


 なんだか様子が変だ。みんながみんな、真剣というか、どこか思い詰めたような顔をしていて、不穏ではないけど、ただならぬ雰囲気だった。


「とりあえず、中入る?」


 と提案してみたが、リューリたちは首を横に振る。


「ここで、いい」

「そっか。それで?」

「わたしたち、に、戦い、教えて、ほしい」


 ……なるほど。

 本気で言っているのだろうことは、彼女たちの表情と瞳を見ればわかる。

 そんな素振りがあったわけではないが、別に予想外というほどのことでもない。


「わたしたち、戦える、力、ほしい。強く、なりたい」

「それは、どうして?」

「外、行きたい。見たい、自分、で」

「今回、人間に捕まってしまったのも、その気持ちが抑えられずに集落から出てしまったがゆえの結果だそうです」


 町とまではいかずとも、森の中を内緒で探検し、運悪く人間と出くわしてしまったのだと、あらかじめ詳しく聞いていたのだろうレイニスが代弁する。


 結局、人間に捕まりはしたが、よく魔物に襲われなかったものだと思う。



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