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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
4章 『暴食』の解放
58/140

58 女の子は甘いものが好き

 

「だいぶいろいろあってね。集落を新しく作ったんだ」

「ふぅん、そうなのか。で、約束のもんは用意できてんだろうな?」


 言い方がいちいちヤーさんぽいんだよなぁ、この竜。


「うん、できてるよ。確認して」


 あらかじめそこに並べてあった十七個の魔法箱を示すと、竜はそちらへと首を伸ばして中身を確認する。


 グレードにもよるらしいのだが、竜が持ってきた魔法の箱と鞄は、中に入っているものが頭の中にリスト表示されるのだ。

 ほんとファンタジーだよねぇ。


 ただし、鞄の中に入れた箱の中身は見れない。この場合、リスト表示されるのは鞄に入っている箱の数だけだ。なので、箱は鞄から出してあったのだった。


 なお、箱は全部で二十個あったが、三個余った。空箱は鞄の中だ。


「――よし。種類も数もリストどおりだな。んじゃ、またなくなりそうになったら来るから、よろしく頼むぜ」


 満足そうにうなずいて鞄を首にかけた竜が、もうここに用はないとばかりにさっさと飛び立とうとするのを、私は引きとめた。


「ねぇ、一つお願いがあるんだけど」

「……はぁ? お願いだと?」

「そう、あなたに、お願い」

「なに言ってやがんだ。協定はあくまで協定。オレがおまえの願いを聞く義理なんざねぇんだよ」


 もっともな話だ。でも、


「もちろん、その協定とはまったく関係ないよ。だから、私と新しく協定を結ばない? 協定というか、契約かな」


 こちらを見る金色の瞳が、すぅっと細くなった。


「オレらに料理の提供以外に望むもんはねぇ。ほかをあたりな」

「ほかの料理、食べて見たくない? たとえば――甘いお菓子とか」


 立ち去ろうとしていた竜の動きが止まる。


「甘い、お菓子だと?」

「そう。バターとか砂糖とかミルクなんかをたっぷり使った、とっても幸せになれる、あまーいお菓子」


 ごくりと、赤鱗の竜がその太い喉を鳴らす。


 その反応を見て、私は内心でにやりと笑いつつ、やっぱりどこの世界でも、どんな種族であっても、この法則は不変なんだなと思った。


(――女の子は、甘いものが好き)


 いや、もちろん嫌いな女子もいるだろうけど、だいたいみんな好きだ。


 そう、この竜は、口調こそ粗野で乱暴だが、れっきとした女性なのだった。


 現時点でグラトニーグルメに登録されているレシピの中に、お菓子のたぐいはない。だが、レシピは新たに登録できる。


 当然、料理もお菓子作りもしない私はレシピなんて一つも知らないけど、スロースコクーンのネットで検索すれば、いくらでもお菓子のレシピが出てくる。

 ネットの海は広大で偉大なのだ。


「……はっ。菓子ったって、食いもんだろ? なら、そいつはいまの協定内だ。菓子だろうが、新しい料理があるなら加えろ」

「残念だけど、それは通らないよ」

「んだと?」

「あなたたちにエサにされるのは困るから、協定自体は私が引き継ぐけど、そもそも私は協定を交わした人物とは別人。私が協定を結んだわけじゃないし、協定の内容は、同じ料理を同量提供するだけで、新しい料理があれば必ず追加するという取り決めはない。いまさらあった、なんてのはナシだよ。あなたが協定の話をしてくれたとき、私は聞いてない。だから、私がすべきは、あなたたちが以前にもらっていた料理を作るだけ。私のレシピは、私のもの。あなたが甘味を食べたいというなら、私のお願いを聞いてくれるしかないんだよ」


 詭弁だ屁理屈だと言われて、下手をすれば協定破棄になってもおかしくない言い分だけれど、正しいのはこちらだ。


 そして幸いなことに竜は理性的らしく、ただただギリギリと歯ぎしりしながら唸っている。……大丈夫だよな?


「……おまえの、望みは」


 絞り出すような声だった。


「竜か、もしくはドラゴンの中から、数人ほどこの村に派遣して、村と住民たちを守りつつ、定期的に魔物を狩ってほしいんだ」


 心なし丸くなった金眼が、ぱちりと瞬く。


「そんだけか?」

「うん。魔物もそうだけど、彼らは人間にも狙われることがあるからね。魔物を狩るのは、料理を作るのに必要だから。竜もドラゴンも、すごく強いんでしょ?」

「そりゃまぁ、最強クラスの種族だからな。人間なんざアリん子も同然だし、ここらの魔物もオレたちの相手になる奴ぁいねぇ」

「なら、これ以上の安心はないね。どう? この条件を呑んでくれるなら、望むままに甘いお菓子を作ってあげる。もちろん限度はあるけどね。なんなら、料理の種類も追加してあげてもいいよ? あなたたちが食べたことない料理のレシピ、まだまだたくさんあるんだよー?」


 悪魔が誘うようにしてささやきかける。


 だいぶ心が揺れているようだけど、私にはもう結果はわかりきっていた。


 大抵の女子は、甘いものの誘惑には勝てないのだ。しかも、いままで食べていなかった、あるいは食べたことがないのならなおのこと。


「…………わかった。その条件で、おまえと新しい協定を結んでやる」


 ほどなくして、やっぱり私が勝ったのだった。



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