58 女の子は甘いものが好き
「だいぶいろいろあってね。集落を新しく作ったんだ」
「ふぅん、そうなのか。で、約束のもんは用意できてんだろうな?」
言い方がいちいちヤーさんぽいんだよなぁ、この竜。
「うん、できてるよ。確認して」
あらかじめそこに並べてあった十七個の魔法箱を示すと、竜はそちらへと首を伸ばして中身を確認する。
グレードにもよるらしいのだが、竜が持ってきた魔法の箱と鞄は、中に入っているものが頭の中にリスト表示されるのだ。
ほんとファンタジーだよねぇ。
ただし、鞄の中に入れた箱の中身は見れない。この場合、リスト表示されるのは鞄に入っている箱の数だけだ。なので、箱は鞄から出してあったのだった。
なお、箱は全部で二十個あったが、三個余った。空箱は鞄の中だ。
「――よし。種類も数もリストどおりだな。んじゃ、またなくなりそうになったら来るから、よろしく頼むぜ」
満足そうにうなずいて鞄を首にかけた竜が、もうここに用はないとばかりにさっさと飛び立とうとするのを、私は引きとめた。
「ねぇ、一つお願いがあるんだけど」
「……はぁ? お願いだと?」
「そう、あなたに、お願い」
「なに言ってやがんだ。協定はあくまで協定。オレがおまえの願いを聞く義理なんざねぇんだよ」
もっともな話だ。でも、
「もちろん、その協定とはまったく関係ないよ。だから、私と新しく協定を結ばない? 協定というか、契約かな」
こちらを見る金色の瞳が、すぅっと細くなった。
「オレらに料理の提供以外に望むもんはねぇ。ほかをあたりな」
「ほかの料理、食べて見たくない? たとえば――甘いお菓子とか」
立ち去ろうとしていた竜の動きが止まる。
「甘い、お菓子だと?」
「そう。バターとか砂糖とかミルクなんかをたっぷり使った、とっても幸せになれる、あまーいお菓子」
ごくりと、赤鱗の竜がその太い喉を鳴らす。
その反応を見て、私は内心でにやりと笑いつつ、やっぱりどこの世界でも、どんな種族であっても、この法則は不変なんだなと思った。
(――女の子は、甘いものが好き)
いや、もちろん嫌いな女子もいるだろうけど、だいたいみんな好きだ。
そう、この竜は、口調こそ粗野で乱暴だが、れっきとした女性なのだった。
現時点でグラトニーグルメに登録されているレシピの中に、お菓子のたぐいはない。だが、レシピは新たに登録できる。
当然、料理もお菓子作りもしない私はレシピなんて一つも知らないけど、スロースコクーンのネットで検索すれば、いくらでもお菓子のレシピが出てくる。
ネットの海は広大で偉大なのだ。
「……はっ。菓子ったって、食いもんだろ? なら、そいつはいまの協定内だ。菓子だろうが、新しい料理があるなら加えろ」
「残念だけど、それは通らないよ」
「んだと?」
「あなたたちにエサにされるのは困るから、協定自体は私が引き継ぐけど、そもそも私は協定を交わした人物とは別人。私が協定を結んだわけじゃないし、協定の内容は、同じ料理を同量提供するだけで、新しい料理があれば必ず追加するという取り決めはない。いまさらあった、なんてのはナシだよ。あなたが協定の話をしてくれたとき、私は聞いてない。だから、私がすべきは、あなたたちが以前にもらっていた料理を作るだけ。私のレシピは、私のもの。あなたが甘味を食べたいというなら、私のお願いを聞いてくれるしかないんだよ」
詭弁だ屁理屈だと言われて、下手をすれば協定破棄になってもおかしくない言い分だけれど、正しいのはこちらだ。
そして幸いなことに竜は理性的らしく、ただただギリギリと歯ぎしりしながら唸っている。……大丈夫だよな?
「……おまえの、望みは」
絞り出すような声だった。
「竜か、もしくはドラゴンの中から、数人ほどこの村に派遣して、村と住民たちを守りつつ、定期的に魔物を狩ってほしいんだ」
心なし丸くなった金眼が、ぱちりと瞬く。
「そんだけか?」
「うん。魔物もそうだけど、彼らは人間にも狙われることがあるからね。魔物を狩るのは、料理を作るのに必要だから。竜もドラゴンも、すごく強いんでしょ?」
「そりゃまぁ、最強クラスの種族だからな。人間なんざアリん子も同然だし、ここらの魔物もオレたちの相手になる奴ぁいねぇ」
「なら、これ以上の安心はないね。どう? この条件を呑んでくれるなら、望むままに甘いお菓子を作ってあげる。もちろん限度はあるけどね。なんなら、料理の種類も追加してあげてもいいよ? あなたたちが食べたことない料理のレシピ、まだまだたくさんあるんだよー?」
悪魔が誘うようにしてささやきかける。
だいぶ心が揺れているようだけど、私にはもう結果はわかりきっていた。
大抵の女子は、甘いものの誘惑には勝てないのだ。しかも、いままで食べていなかった、あるいは食べたことがないのならなおのこと。
「…………わかった。その条件で、おまえと新しい協定を結んでやる」
ほどなくして、やっぱり私が勝ったのだった。




