54 まさかの元凶?
そうこうをしているうちに、ゼストたちが戻ってきたようだ。
真っ先にリューリたちが飛び込んできたのを受け止めて、ゼストやほかのみんなに無事を大いに喜ばれ、また英雄だと讃えられてしまった。
やめてほしいと言う気力も、いまはない。
「トアさん、また何か増えてますね」
どうやらムゥと違って勝手に消えたりする気はないようで、私の頭の上にいることにしたらしいスゥを目ざとく見つけたレイニスが、興味深そうに言う。
「スライムの、スゥと名付けた。ムゥと同じく危険はないから」
レイニスにそう答え、それで気づいたらしいヤエが、抱っこしたそうにうずうずしていたのでスゥを渡す。
歓喜に沸きすぎて胴上げでもしそうな獣人たちをどうにかかわしていると、そこへ触手から助けた四人組の男女がやってきた。
「嬢ちゃん、さっきは助けてくれてありがとな。俺はこのパーティのリーダーでヴィレムと言う。こいつらは、パーティメンバーのギデオン、ミリー、セルカだ」
やはり冒険者のパーティだったらしく、彼らは口々に自己紹介とともに感謝の言葉を述べたあとで、深々と頭を下げてくる。
「悪い。本当はすぐに礼をしたいところなんだが、いまは手持ちがないうえに、早急にやらなきゃならねぇことがあるんだ。それが済み次第、あらためて礼をしにくるから、待っててほしい。本当にすまねぇ」
そう口早に言って、私の所在を確認したあと、何度も何度も頭を下げながら、冒険者たちは慌ただしく去っていった。
「なんだったんだろ、あのひとたち」
彼らを助けたのは、集落を守るついでと、ただ見つけてしまったら見捨てるのは寝覚めが悪かったというだけなので、別にお礼とかはいいんだけどさ。
「にしても、運のない人たちだよなぁ」
何をしていたのかは知らないけど、ちょうどこの森に入っていたタイミングで、グラトニア・スライムの出現に居合わせてしまうなんて。
『封罪宮にいタ『暴食』を解放しタのハ、あの冒険者たちダゾ』
(え?)
巻き込まれたんじゃなくて、まさかの元凶?
『冒険者の一人が、大事ソウに金の錫杖を抱えテいたダろウ』
(あぁ……うん、持ってたね。ロリおっぱいちゃんが)
小学生くらい小柄なのにやたらと胸が大きな少女だったから、わりと印象に残っている。
なにせ……錫杖がね、谷間に埋まってたのですよ。同性とか関係なく、目がいかないほうがおかしいというものだ。
『オマエだッテ、じゅうぶンなモノを持ッテるじゃナイか。そう自分で設計シタんダロウに』
(おい。そういうのセクハラって言うんだぞ)
あと設計とか言うな。間違ってはないけど、なんかやだ。
『とモかく。あの錫杖こそガ、グラトニア・スライムを封じテいた要でナ。ソレを抜いたカラ、封印が解けタんダ』
だとすれば、なんてことをしてくれてるんだ、あの冒険者たち。
というか、封罪宮のボスはダンジョンに封印されていたのか。初耳だ。
まぁ、わざわざ〝封罪宮〟なんて名前がついているのだから、想像するのは難しくないけど。
(けどさ、誰にでも簡単に抜けちゃうとか、ずいぶんと杜撰な封印じゃない?)
『誰にデも抜けるワケがナイだロウ。そンなにたやすク解けル封印ナド、封印とは言わン』
(じゃあ、なんで?)
『あの錫杖を抱いテいた女、ロリオッパイチャンには、勇者の血がわずかダが入ッテいルようダ。そのせいダろうナ』
(あんたがロリおっぱいちゃんとか言うと変態くさいからやめてくれる?)
そんな変態邪神いわく、この世界の勇者とは〝神子〟であり、ときおり生まれる特別な力を持った存在だという。
神子は神子として、その力は個人のものゆえに、勇者から生まれた子は普通の子供だ。しかし、勇者の子でもある。
ほんのわずかであっても、血縁として混じった勇者の血に錫杖が反応し、本人の強い意思も合わさって抜くことができた――できてしまったのだと、そういうことだった。
なお、その錫杖は神器で、封罪宮のボスを封印したのが勇者なのだそうな。
『封罪宮『怠惰』にも、ボス部屋の扉の横に剣が刺さッテいたダロウ』
(……そういえば、あったね)
特に気にしてなかったけど、あれが封印の要だったのか。
グラトニア・スライムの封印のことも、錫杖が封印の要であることも、あの冒険者たちは知らなかったのだろう。
しかし彼らは、わざわざ錫杖をそこから引き抜いた。
私は大して気にもとめずスルーしたのに。
ボスの討伐が目的なら、気になるような代物ではなかったのに。
ということは、彼らの目的が、端からその錫杖だった?
『ダろうナ。あの錫杖は、のちに封印の要とさレタが、名称を〈慈癒の錫杖〉と言ッテ、どンな病も呪イも消すコトがデきルといウ代物なのダ』
彼らの近しい人に、正攻法じゃ治らない病気か呪いにかかった人がいる、ということだろうか。
だとすれば、あの慌ただしさにも納得はいく。早急にやらなきゃならないことがあるとか言ってたし。その人物の病だか呪いだかが一刻を争うもので、とか。
『まァ、残念ながラ、奴らは徒労なのダがナ』
(徒労? どういうこと?)
『あの錫杖にはモウ、本来の力はナイ』
あぁ……それは、たしかに徒労で、その力をあてにしていたのなら、なんとも気の毒な話だ。




