5 ワタシ、ワルクナイ
最低限の確認を終えたので、さっそくダンジョンの攻略を開始する。
いまは何より時間が惜しいのだ。早くおうちに帰りたいのだ、私は。
このダンジョンは、レンガを積んで作られたらしき壁に囲まれた、通路はまっすぐでどこまでも人工的な、古き良きRPGのダンジョンといった感じだった。
そこへプラスして、ところどころに木の根っこのようなものや緑の蔦が伝い、苔が繁茂していたりする。なんだか遺跡っぽいな。
通路にはポツポツと等間隔に明かりが灯っていて、光量としては常夜灯ぐらいのものだが、視界に不自由はない。……たしかに不自由はないのだけど、ちょっと眠くなってくるな、この優しい感じの灯り。
そうして襲い来る眠気を堪えつつ少し歩いた先で、記念すべき第一魔物とエンカウントした。
いや、記念にするつもりはないけど。
というかこれ、エンカウントというか……
「なんか、私の知ってるダンジョンのモンスターと違う」
その魔物は、ありていに言ってやる気が皆無だった。
通路のど真ん中で寝そべり、ぐでーっとだれている。
こんな感じのキャラクターが元の世界にいた気がする。
角の生えた中型犬くらいのネズミみたいな姿をしているのだが、すっかり手足を前後に投げ出して、うつ伏せになり、寝てはいないようだけど目は半分も開いていない。
いやまぁ、たしかにこの明かりはぐーたらに最適すぎるから、気持ちはわかりすぎるほどにわかるのだけれども。
見れば、少し先にも別の個体がいて、こちらは仰向けになって寝転んでいる。そしてボリボリと前肢で腹をかいている。おっさんか。
再び近いほうの魔物に視線を戻すが、起き上がる気配はない。
あ、こっち見た。けれどもすぐに逸れた。
「何これ、どういうこと?」
『封罪宮『怠惰』の特色ダ。ここの魔物はミナ、こンな感じダナ』
魔物まで怠惰なダンジョンって……どうしよう、ものすごく親近感が湧く。
むしろ私も混ざりたい。一緒にぐーたらしたい。うずうずして仕方ない。
「けどこんなダンジョン、イージーにもほどがあるでしょ」
非アクティブにもほどがある。
「ダメージゼロでボスのところまで行けちゃうでしょこれ」
『いマのオマエがボスに挑んでモ、よクて瞬殺ダゾ』
「瞬殺より悪いのってある?」
そう上手くはいかないらしい。
楽できると思ったんだけど。
『この世界では、殺しタ生物の、魂の力の一部を吸収するコトで、己の存在の位階を上げるコトができル。位階の上昇は肉体能力を高め、個の存在を強化しテいく。つまり、魔物を倒せバ倒すほド強くなれルというワケダ』
概念としては、ゲームのレベルみたいなものだろう。その根底はまったくの別物だけれど。
ちなみに、ただ〝位階〟と言うのが一般的らしい。
『己よりモ強い魔物、すなわち存在位階の高いモノは魂の力も強イため、位階は上がりやすくナル。弱い魔物だト、その逆デ上がり難い。その者の素質によッテも、上昇度合いや上限ハ異なッテくル。とハいえ、存在位階の高さと戦闘力ハ、必ずしもイコールではナイ』
存在位階の上昇は肉体の性能や各種能力を上げるだけで、技術的なものは個々の修練と研鑽次第。
肉体や身体能力とて、通常の鍛錬で鍛えられないわけではないので、その道の達人ともなれば、相手より位階が低くとも勝てたりするのだと、邪神は補足した。
まぁ、スキル面に関しては体が覚えているから問題ない。
位階上げをしながら、戦いの中で調整していこうと思う。
ただ、ボスを倒すには、やはり存在位階を上げることは必須。
よって、私はこれから、ボスのいる最下層へと向かう道中で魔物を倒しまくり、ひたすら存在位階を上げまくらなければならない、というわけなのだった。
同志らの至高なるぐーたらを邪魔し、あまつさえ二度とできないようにしなくてはならないことには心が痛むけれど、私もまた、早くボスを倒して至高なるぐーたらを心置きなく堪能したいのだ。
おぉ、親愛なる怠惰な同志たちよ、恨むのなら私をこのダンジョンに放り込んだ邪神を恨むのだ。
ワタシ、ワルクナイ。