48 スライムこんにゃくの悪夢
隠しダンジョン、封罪宮『暴食』の攻略を開始したヴィレムら冒険者一行。
ダンジョンではコアが魔物を生み、ダンジョンへと侵入した者たちの行く手を阻んでくる。
この天然洞窟を模したダンジョンに出現するのは、ひたすらに『スライム』のみだった。
といっても、消化と吸収をするだけの、ただのスライムだけではない。
生物の皮膚を溶かす強酸、または武装を溶かす腐食液を飛ばしてくるものや、火や水などの魔法を使ってくるもの、岩壁に擬態し天井から奇襲をかけてくるもの、通路を塞ぐほどの巨体を持つものなど、実に多種多様だ。
ただ、どのスライムにも共通しているのが、ジェル状の肉体を持ち、物理攻撃がほとんど効かないことで、その点は厄介である。
が、例外はあれど急所の核は見えるし、攻撃を避けつつ、その小さな的を的確に突くことは、ヴィレムにもギデオンにもわけはない。
ミリーにいたっては、射撃の正確さ、連射性、そして魔法の効果とスリーコンボでもっとも活躍していた。
物理の効かないスライムには、魔法がよく効くのだ。
「ミリーがいるとスライム狩りが楽でいいぜ」
「ふふん。あたしがいてよかったわね。もっと褒めて称えて崇めなさい?」
寂しい胸を得意げに張って言うミリーに、クソ真面目なギデオンが「ははー、ミリーさまー」とクソ真面目な表情と声音で言って拝み始めるので、ヴィレムとセルカが吹き出した。
彼はふざけてやっているわけじゃない分、余計にタチが悪い。
そんなギデオンはともかくとしても、ときおりおふざけや軽口をまじえながら、彼らは探索を進めていく。
仲間の命がかかっているうえに未知のダンジョン探索で、よくそんなふざけていられるなと思われるかもしれないが……だからこそ、なのだ。
彼らのそれは、気が逸るのをごまかし、平静さを保つためのものだった。
◇
ダンジョン内に何日もこもるとなると、倒した魔物のドロップアイテムが生命線となってくる。
ランダムドロップにはなるが、何体かに一体は食材アイテムを落とす。
空間拡張の施された魔法の鞄があっても、容量には限度があり、さすがにそう何日もの物資は持ち歩けない。
ゆえに長期におよぶダンジョン探索では、手持ちの物資とドロップアイテムとを併せて、どうにかやり繰りしていくのが普通だ。
だが、このダンジョンは……あまりにも辛かった。
「うぅ……もう、〈スライムこんにゃく〉は、飽きたのですよぅ……」
しくしくと涙を流しながら、セルカはソースをちょろりと垂らした〈スライムこんにゃく〉を口に入れる。
それはスライムの、いわば肉にあたるドロップ食材だ。
まさに触感はこんにゃくそのものだが、本家特有の匂いもなければ味もない。
煮込みの具の一つとして入っているのならまだしも……現在、彼らの主食は〈スライムこんにゃく〉そのものとなっていた。
攻略開始から、すでに一週間。町から持ってきた生もののたぐいはとうに食い尽くし、いまは干し肉を少しずつ付け合わせにし、堅パンと〈スライムこんにゃく〉で食いつないでいる状態だった。
「……うるせぇ、言うな、セルカ。肉だと思って、食いやがれ……」
げんなりしているヴィレムの横では、
「これは肉だ、これは肉だ、これは肉だ……」
彼の言をクソ真面目に真に受けたギデオンが、ひたすら自己暗示をかけている。
「まぁ、魔力の回復が促進される点は、あたしとしてはありがたいけど。普通のこんにゃくよりはカロリーもちゃんとあるし」
ミリーも微妙な顔こそしているが、ほかの面々よりかは堪えた様子はない。
「そういう問題じゃないのですよぅ……いいですよねぇ、ミリーは、もともとこんにゃく好きですしぃ……わたしなんて、〈スライムこんにゃく〉に追いかけられるという、恐ろしい悪夢を見たくらいですよぅ……」
「スライムじゃなくて?」
「こんにゃくのほうですよぅ……地の果てまで、追いかけてくるんですよぅ……」
さめざめと涙しつつも、決して残したりはしない。たとえ味気なくても、ちゃんとエネルギーになるのだ。飽きて嫌だからといって、食べずに動けなくなるような愚は犯さない。
そうしてだだ下がりしてしまった士気も、目的を思い出せば否応なしに上がる。
仲間を救う、ただその一心でスライム食に耐え、行く手を阻むスライムたちを蹴散らし、彼らは最奥を目指してひた進む。
しかし、いまの彼らにとって非常に幸いなことが一つ。妙な直感力を持つセルカがパーティメンバーであることだ。
未知のダンジョンでは、フロアを踏破し次層への階段を見つけるのも容易ではない。マッピングをしながら、手探りで地道にいくしかないのだ。
けれど彼らは、セルカの直感力によりほぼ最短のルートを行き、本来であれば数週間、下手をすれば数か月単位でかかるだろう道のりを、たったの十日で踏破し、そしてついに最奥へとたどり着いたのだった。
本当に最後までスライムしかいないダンジョンだったが、しかし決して楽な道のりだったわけではない。
危ない場面も多々あったし、死にかけたりもした。
セルカの扱う高位の治癒魔法がなければ、全滅だってありえたかもしれない。
そのセルカはと言えば、〈スライムこんにゃく〉で精神的に死にかけていたが。
全員が心身ともにボロボロ。しかし彼らはそこへとたどり着き、そして――それを見つけたのだ。




