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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
3章 獣人の集落
47/140

47 ご都合、ここに極まれり

 

 竜の姿とともにはばたき音も消えると、辺りに静寂が満ちる。

 不思議と樹々のさざめきさも止まり、魔物の鳴き声さえも聞こえない。


 音という音が消え失せた、耳が痛くなるほどの静けさだ。

 獣人たちもまた、誰も声を発さない。動きもしない。


 そんな静寂を破ったのは、私だった。


「どうすんの、これ……」


 思わずとその場にうずくまり、頭を抱える。

 一難去ってまた一難、どころの話じゃない。


 封罪宮は戦って攻略すればよかった。悪魔も戦って倒せばよかった。

 けれど、今回はそんな単純な話ではないのだ。そんな単純な話であれば、どれほどよかったことだろう。


「トア、大丈夫か?」

「……大丈夫じゃなさそう」


 心配そうに声をかけてくるゼストに死にそうな声で答えつつ、私はもう一度、手元のリストを見る。


 そこに書かれた料理名は、私にとってはひどく見慣れたものだった。

 チーズハンバーグ、オムライス、シーフードピザ、牛丼……どれもこれも、明らかに元の世界の料理なのだ。


 あの竜はこれらを、この世界の町では食べられない特別な料理だと言った。

 ということは、その協定を結んだ〝あいつ〟とやらは私と同郷なのだろうか。

 もしくは似た世界がほかにあるのか。


 なんにせよ、料理こそ見知ったものでも、その料理群をこの世界で普通に作ることはできそうにない。

 向こうの世界でなら、食材と調味料をスーパーで買って、練習すれば作れなくもないだろうけど……問題なのは、その必要量もだ。


 リストで見るかぎりでも、気が遠くなりそうな量である。口から魂出そう。


 百人の人間が一日三食きっちり食べても、余裕で百年は保ちそうな量を一週間で用意するなんて、普通に料理ができたとしても絶対に無理だ。


 その魔導機がどんなものかは知らないが、それがあっても一週間は無茶振りじゃないだろうか……と思うのだけど、そのあたりのことは実際に魔導機を手に入れられてから考えることにする。


 まずは、その魔導機を入手しなければならない。


 竜が捜して見つからないなら、その人物を捜し出すのは難しいだろう。

 そもそもその魔導機は一点ものなのか、同じものが複数存在するのか。


 というか、その人物は生きてるのか? いくら捜しても見つからないって、もうこの世にいないってことじゃないの?


 竜は気配がするとか言い張ってるけど、ここにいる誰も〝あいつ〟には該当しないみたいだし……となると、その魔導機はすでに手放されているのでは?


『その魔導機といウのは〝グラトニーグルメ〟のコトだナ』


 え?


(知ってるの、邪神?)

『あァ。アイツとやらは知らナイがナ。グラトニーグルメは、封罪宮『暴食』の攻略報酬ダ』


 そのグラトニーグルメというのが、登録されたレシピから料理を自動で作ってくれる魔導機だということだった。


『そしテ封罪宮『暴食』ハ、この森の奥にあルようダ』


 なんというご都合展開だ。


 それが〝あいつ〟が持っていたそれと同一のものなのかはわからないし、仮に同一のものだったとしても、どうして封罪宮の攻略報酬になっているのかとか、その経緯とか、そのあたりのこともいっさい不明だが――関係もなかった。


 それが同一品でも類似品でも、現状それが唯一のあてなのだ。


(というか、あんた、やけに詳しいよね)

『神ダからナ、当然ダ』


 邪悪なたぐいのだけどね。


『ちナみにダが、先ほど俺が言おウとシタのがソレダ』

(……あぁ)


 そう言えば、竜が来る直前に、邪神が〝料理を作ってくれるものがある〟とか言ってたっけ。

 竜の襲来イベントで話が途中になっちゃってたけど、なるほどね。

 それで問題は一挙に解決、というわけだが……私はものすごく憂鬱だった。


(またダンジョン攻略かぁ……)


 気が重いどころじゃない。


 だって、封罪宮『怠惰』を攻略してから、まだほんの数日だ。たった数日のあいだに同レベルのダンジョンを攻略しなければいけないなんて、運命の女神様が嫌がらせをしているとしか思えない。


 いや、私の場合、邪神の嫌がらせか。


『俺は邪神でもなけレバ、関与もしテないゾ』

(そもそもすべての発端があんたなんだよ)


 なんて、言っていても仕方がない。


 ここで何もせず協定が完全に破棄されて、本格的に人々が竜たちの食糧にされることになれば、いくら自分と無関係な人間とはいえ、さすがの私も罪悪感で潰れそうだ。


 というか、そうなったとき真っ先にエサにされるのは、どう考えても私たちなんだよね。

 まぁ、そのときはもちろん抵抗するけど……あの竜は無理だ。瞬殺される未来しか見えない。


 何より自分が可愛くて、なんの憂いもない至高のぐーたら生活を愛し、渇望する私は、グラトニーグルメを獲得するために、封罪宮『暴食』を攻略しにいくしかないのだ。今後の食生活も考えれば、なおのこと。


 再びあの竜がやってくるのは、今日から一週間後。

 一週間で隠しダンジョンを攻略し、リストにある何種類もの料理をめまいがするほどの膨大量、作らなければならないのだから、悠長にしていられる時間はない。


 とにかく攻略を急がなければ、と行動に移そうとした、そのときだ。

 ズズンッ――と足元が激しく揺れ、重い地響きが鳴った。


「今度はなに!? 地震!?」


 鳥が一斉に飛び立つ音と、騒がしい鳴き声が聞こえる。同時に、ぞわりと背筋が粟立った。


 本能と呼ぶべきものが、けたたましく警鐘を鳴らしている。


 それに突き動かされるようにして、私は即座に駆け出し、広場の中心にある大木に向かって跳ぶと、そこから伸びる枝を伝って天辺まで登っていく。


 集落の中でも、ひときわどっしりと太い大樹だ。予想どおり樹高も一等高く、天辺まで登れば周囲が一望できた。


 そこで、私は見た。――振動の元凶を。


「なに、あれ……」


 呆然と見つめる先にあるのは、大きな黒い山だ。

 樹海と呼ぶべき広大な森の中に、これでもかと存在感を放つ、あまりにも不自然な山が、視界の中央に鎮座している。


 色もさることながら、樹々どころか草の一本も生えておらず、つるりとなめらかな曲線を描くその表面は、よく見ればわずかに波打っているようだった。


 山みたいなそれは、しかし山ではない。外観もそうだが、何より、それは動いていた。

 少しずつではあるものの、確実に移動していて、しかもこちらへと近づいてきているのだ。


『よかッタナ。ダンジョン攻略の手間が省けタようダゾ』


 あっけらかんとした邪神の声が脳裏に響く。


(攻略の手間が、省けた……?)

『アレが封罪宮『暴食』のボス――〝グラトニア・スライム〟ダ』

(……噓でしょ?)


 ご都合、ここに極まれり、だ。


 そして、たしかにご都合ではあるが、間違いなく最悪な展開だった。



お読みいただきありがとうございます。


少しでも面白い、続きが読みたいと思ってもらえましたら、★★★★★やブクマ、いいねで応援いただけると、とても励みになります。

すでにいただいている方は、ありがとうございます。


次回より4章開始です。

引き続き、よろしくお願いします。

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