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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
3章 獣人の集落
46/140

46 封罪宮『暴食』

 

 施設は地下五階まであった。


 その下へ降りる階段はなく、すなわち彼らがいるこのフロアこそが、施設の最下階だということになるのだが――しかし、すみずみまで探索し尽くしても、件の錫杖らしきものは見当たらなかった。


 見つからなかった。


「そんな……」


 その事実に、悄然と呟くミリーにセルカが寄り添う。その傍ではヴィレムが握りしめた拳を震わせ、ギデオンがぎゅっと眉を寄せて天井を仰いでいる。


 もとより確証などなく、必ずあると保証された話ではなかった。

 だから、誰もがこの結果を想定していなかったわけでもない。


 それでも、この無情な現実はひどく堪えるもので……と、そんな彼らを狙い、横の通路から魔物が飛び出してくる。


「くそったれっ!!」


 それを八つ当たりめいた突きで仕留め、しばし眦を吊り上げたまま死体を見下ろしていたヴィレムの顔が、やがて怪訝そうなものへと変わった。


「……ちょっと待て」

「ふむ。どうした、ヴィレム?」

「こっちから魔物が現れんのは、おかしいだろ」

「あっ……そういえば」


 はっとしたほかの面々もまた、同じような表情になる。


 魔物が出てきた通路の先は、行き止まりだ。実際に足を運び、そこまで行って確かめた。道中の魔物もすべて倒している。


 ここはコアのあるダンジョンではないため、少なくともすぐには新しく魔物が生まれることはない。だから――おかしい。


 そう訝しむヴィレムたちの眼前で、直後、明確な異常が起きた。


 いましがた倒した魔物の死体が黒紫の靄と化し、霧散して、あとにドロップアイテムが残ったのだ。


「……ここはダンジョンにはなってねぇはず、だよな」

「えぇ、そのはず……なんだけど」


 ミリーが集中するように目をつむる。


「……でも、言われて気づいたというレベルだけど、このあたりだけ、少しダンジョンに似た気配を感じるわ」


 それを聞いて、ヴィレムが弾かれたように顔を上げる。


「もしかして、隠しダンジョンか?」


 隠しダンジョンの存在は、噂程度ではあるが聞いたことがあった。


 というのも、そもそも入れる者自体が少なく、仮に入れたとしても、大抵の人間がダンジョン内で死んでしまい、戻る者がほとんどいないということで、実在すらあやふやな代物となっているのだ。


「ふむ。たしか、挑戦権だかが必要なのだったか」


 ギデオンの呟きに、セルカが補足を入れる。


「魔物ドロップだったはずなのですよ。ものすごーくまれにドロップする、一目でそれとわかるもの、なのですよ」

「どうも、こっちが本命くさいな」

「えぇ。きっと錫杖は隠しダンジョンにあるのよ」


 それならそうと書いてありそうなものだが、あの古書は、それを記した人物の手記を写してまとめたものだった。

 記述に不自然な文脈なども多く見られたし、原本がなんらかの理由で読み取れなくなっていた可能性が高い。


 この遺跡は隠しダンジョンとつながっていて、どんな原理かはわからないが、魔物が湧出するようになっている。


「このあたりの魔物を片っ端から狩っていきましょ!」

「うしっ、やるか!」

「おーっ、なのですよ!」

「うむ」


 それぞれに気合の声を上げて、彼らは魔物を倒し始める。


 ◇


 強運の持ち主がいたのか、天に全員の想いが通じたのか、それから幾ばくもしないうちに、彼らはそれを引き当てた。


「おい、見ろよこれ。魔石みてぇだが、虹色だ」

「きれいね」

「ほぇぇ。こんなにきれいな石は初めて見たのです」

「ふむ。これが挑戦権とやらなら、たしかに一目見ればわかる、だな」


 ヴィレムがその虹色の石を手に取った、直後。


【隠しダンジョン:封罪宮『暴食』への挑戦権を獲得しました。挑戦権を行使しますか?】


 全員の頭の中に、無機質な声が響いた。

 彼らは互いの顔を見て、うなずき合う。


「よし。――挑戦権を行使する!」


 高らかに宣言した瞬間、視界が切り替わった。


「ここは……」


【隠しダンジョン:封罪宮『暴食』の攻略を開始します】


 そして再び、頭の中に先と同じ音声が流れる。


「どうやら隠しダンジョンの中に移動したようだな」

「洞窟、なのです?」


 セルカの言うとおり、そこは黒っぽい岩肌に囲まれた、天然洞窟の様相を呈していた。

 ゴツゴツした地面にはいたるところに水たまりがあり、左右の岩壁に含まれた鉱物が淡い青、または緑の光を放つことで通路を照らし出している。

 天井にはずらりと、尖った岩がつらら状に垂れ下がっている。


「へぇ、なかなかきれいなところじゃない」

「きれいでも、未知のダンジョンだからな。気を抜くなよ」

「わかってるわよ」


 そうして彼らの、隠しダンジョン攻略が始まった。



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