45 慈癒の聖錫
一階はエントランスのようだ。
吹き抜けになっていて実に開放感がある。
そして入口から入って真っ先に目につくのは――太く巨大な透明の柱だった。
それは筒状になっていて、中には白い素材を肉抜きしたような骨格の、これまた一部が透明になったカプセルみたいなものが入っている。
その奥には上階フロアがあり、左右に二本備えつけられた、いささか奇妙な造りの階段で上がれるようになっていた。
中央は、幅の広い通路が奥へと伸びている。
エントランスの床は筒状の柱を中心にして途切れ、その柱までは橋のように細い床が渡されている。
どうやら、この建物には地下もあるようだ。
「――『ライト』」
セルカが魔法の光で照らす。
途切れた床の端から下を覗き込むと、巨大な筒状の柱はずっと下方まで伸びているようだった。
そして地下にもいくつかのフロアがあるようだが、光の届く範囲では一番下までは見通せない。
「ほぇぇ……なんか、すごいのですよぉ……」
「うへぇ……予想以上の広さだぞこりゃあ……」
セルカとヴィレム、どちらとも魂が抜けたような面持ちだが、そこに宿るものはまったくの真逆だ。
「というかこれ、床が途切れてるわけじゃないみたいね。これも透明な、たぶんガラスだと思うわ」
「あ、本当なのですよ。普通に歩けるのですよっ」
「ふむ。知らずに見たら、空中を歩いているようだな」
「へぇ、不思議なもんだな。ちょっとばかしぞっとするが」
「あとこっちの透明な柱、これはたぶん、昇降機、だと思う」
ガラス張りの床という珍しい趣向にそれぞれがそれぞれの反応を示す中、ひとり柱のほうを調べていたミリーが言う。
「知ってんのか、ミリー?」
「えぇ。以前に本で見たことがあるわ。といっても、あまり詳しくは知らないのだけど。箱の中に物や人を乗せて、魔力を動力として上に下にと運ぶのよ。まぁ、その本に載っていた絵は、もっと無骨な感じだったけどね」
「なるほど、これに乗れば下に降りられるってことか」
「だが、これは何百年も前のものだろう? 動くとは到底、思えないのだが」
「たしかに、魔力の流れをまったく感じないのですよ。単純に魔力を流せばいい、という仕組みでもないみたいなのですよ」
「そうよね……」
「ま、動いてた時代にしたって、昇り降りの手段がこれだけってことはねぇだろ。万一故障でもすれば、下に取り残されちまう。ほかに階段か何かがあるはずだ」
「えぇ、そうね。探しましょう」
そうして一行は、階段に挟まれた通路を奥へと進んでいく。
下へ行く手段を探す中でわかったのは、この施設は上階よりも地下をメインとした構造になっているらしいということだ。
ほどなくして、上と下に向かう階段を見つけた。端のほうにあったことから、やはり非常用の階段として作られたものなのだろう。
「ふむ。上はどうする?」
「アレがあるとしたら、十中八九、下だろ。施設自体もそういう造りだ。まぁ、これで上にあったとかいったら、肩透かしもいいとこだがな」
ギデオンの問いにヴィレムは考える素振りもなく即答し、肩をすくめる。
「お宝というのは、最下層の最奥にあると相場が決まっているのですよぅ!」
銀杖を突き上げて、威勢よくセルカが言う。
彼らは〝それ〟があると知ってこの遺跡にやってきたわけだが、しかし〝それ〟がある場所は明確ではない。
この遺跡が存在している場所が場所である。昔は、いまよりももっと強力な魔物がうじゃうじゃいたという。探索自体はされているらしいが、記録はほとんど残っていない。
ただ、とある文献の片隅にその記述はあった。――どんな病も呪いも消すことができるという伝説の錫杖〈慈癒の聖錫〉が、この遺跡にあると。
その錫杖を入手するために彼らはここまで来たわけだが、文献に記されていたのはたったそれだけ。裏付けとなるような記述もなければ、ほかの情報もない。
けれども、彼らにとってはそれだけでもじゅうぶん動くに値するものだった。
ここにはいない――来られないもう一人の仲間を救うための、現状で唯一の希望だったのだから。
そのもう一人の仲間を救うために、彼らはこれまで、どんな胡散臭い情報にだって飛びついてきた。
それで実際に騙されて大きな損失を出したりもしたが、それでも大切な仲間を救うために、どんな話にも飛びつかずにはいられなかった。
そうして、彼らは下へと向かう。
この階段を使ったのだろう、下のフロアにも魔物はかなりの数がいた。それらを倒しながら、探索を続ける。
どうやらその非常用階段も、馬鹿正直に下っているわけではなく、次の階段は別の位置にあるという複雑な構造になっているらしい。
なんとも面倒だが、魔物を撃破しつつ下階へ降りるための階段を探す。




