42 オレオレ詐欺よりタチ悪いんだけど
全身が燃えるような赤い鱗に覆われ、妖しく輝く金の瞳、そして片目にはいかにもな傷痕。
圧倒的な風格を備え、絶対的強者の覇気をまとった、ありていに言ってものすごく強そうなドラゴンだ。
ゲリライベントも大概にしてほしい。
悪魔の次はドラゴンとか、異世界に来ていきなりキャストが豪華すぎる。こんなに嬉しくない豪華キャストもないよ。
突如として私たちの前に現れたドラゴンだが、しかしすぐに襲いかかってくることはなかった。
降り立ったその場から動かず、長い首をめぐらして周囲を睥睨する。
威圧を伴う鋭い眼光を受けつつも、男たちが女子供の前に出て、その身を盾にしながら、じりじりと後ろへ下がっていく。
「トアねえ、ドラゴンっ」
こんな状況でも、リューリの瞳は眩いほどに輝いていた。
恐怖よりも好奇心が勝っているらしい。
度胸があるというか、なんというか……。
「危ないから。私の後ろにいて」
「わかった」
私もまた、すぐそばにいてとっさに抱き込んだ子供たちを後ろに下げ、背に庇うようにして前に出る。その横にゼストが並んだ。
すると、半一周ほどしたドラゴンの視線が、なぜか私のところで止まる。
……なんか、すごくじっと見てくるんだけど。どころか、首を低く伸ばして、間近でメンチきってくるんだけど。
……なんだ、なんなんだ。なんでこのドラゴンは、いきなり私にガン垂れてきてるんだ。ヤンキーか、ヤーさんか。やんのかコラ、とか言わないよ私は。
なんて内心では軽く混乱しつつ、いつ攻撃がきても対応できるよう、刀の柄を握る手に力を込めたときだった。
がぱりと、ドラゴンが口を開く。
「――おい、おまえ」
噛みつきでもブレスでもなく、言葉が放たれたことに私は目を瞬いた。
たしかに瞳から知性を感じていたが、この世界のドラゴンはしゃべれるらしい。
『ドラゴンは最強種とさレてイルが、魔物は魔物。魔物は基本しゃべらン。まァ例外はアルかもしれナイがナ。奴はドラゴンの進化生命体であル〝竜〟ダ』
デーモンと悪魔、ゴブリンと小鬼の関係と同じか。
これで私が遭遇した進化生命体は、三種目となる。
この世界でも最強種とされるドラゴンの進化生命体が、どの程度のものかは知らないが、この前の悪魔よりもずっと……いや、圧倒的に強いだろう。
背筋を冷や汗が伝っていくのを感じつつ、私は竜の呼びかけに応じる。
「……なんでしょう」
「んな怖がるなよ。今日は別に戦いに来たわけじゃねぇ。あいつはどこだ?」
今日は、っていうのが不穏ではあるけど……まさかの人探し?
いやでも、そうだとしても、なんで私なのか。一番、戦闘力が高そうとか、そういう理由だろうか。
「……あいつ、とは?」
「あん? あいつだよ、あいつ。あー……なんつったかな、名前。ここまで出かかってんだけどな……まぁいい、さっさとあいつを連れてこい。ここにいるのはわかってんだ」
いや何もよくないんだけど。
あいつあいつ連呼されても、オレオレ詐欺よりタチ悪いんだけど。
「連れてこいって言われても、まったく心当たりがないよ。集落の獣人は、ここにいるので全員。この中にいないなら、その人はここにはいない」
そう言い切ると、竜の視線がさらに鋭くなった。
「んなはずはねぇ。かすかにだが、ちゃんとあいつの気配がするからな。はっきりと特定はできねぇが、近くにいるはずだ。間違いねぇ」
「いや、そう言われても」
「まぁ連れてこねぇなら、別にそれでもいい。おまえから伝えておけ」
「いや、ちょっと」
「料理がなくなった。一週間やるからそれまでに用意しろ。でなけりゃ協定は破棄する、ってな」
こっちの話を全然聞いてくれないとか、あまりにも一方的すぎるとか、いろいろ言いたいことはあるけれど、それよりも竜の告げたその内容に、そこはかとなく嫌な予感がした。
「ちょっと待って。その協定って? 破棄されるとどうなるの?」
「あぁ? んなもん、あいつに訊きやがれ」
やっと私の声は届いたみたいだけど、にべもない。
しかし、その〝あいつ〟とやらが誰なのかわからないし、ここには間違いなくいないのだ。
ここで聞き出さなければ、何もわからなくなってしまう。せめて、その協定の内容だけでも知っておかないとどうしようもない。
「そこをなんとか、お願いしますよ」
だから私は、手もみをしながら媚びるように竜を見上げる。
それはもう、卑屈なまでに下手に出てお願いをする。
「ちっ、めんどくせぇ……」
それが功を奏したのか、悪態をつきつつも竜は話してくれた。




