4 一昔前のゲームでだって、初期武器はもっとマトモだよ
諦めの境地でため息を吐きつつ、電脳では見慣れているが現実では違和感しかない自分の姿を再度、見やる。
「……しっかしこれ、逆に痛いなぁ」
自分で作った顔だからこそ、なんかこう必死すぎる感じがして。
ゲームだとまだキャラクターって意識があったから愛でる感覚だったけど、これがリアルの自分の容姿になっちゃったんだなぁ……と、我ながらなんとも虚しい気持ちになりつつ、私は邪神に問う。
「これ、肉体のスペックは?」
『反映させタのは容姿だけダ。だが、そもそもオマエの世界のほウが、肉体への負荷は重い。それナりにハ動けルはずダ』
負荷って、重力とかそういうのかな。
さっそくその場で体を動かしたり、跳ねたりしてみる。
「なるほど」
体がいやに軽い。元の体とは比べものにならないくらいに。
さすがにゲームのときとは雲泥の差があるけど、これだけ動ければひとまずじゅうぶんだろう。
「服装も再現されてるんだ」
最後にプレイしたときのままの格好だ。それを参照したらしい。
ゲームの世界は王道的な中世ヨーロッパ風の、剣と魔法のファンタジー世界だったのだが、作ろうと思えば現代風の衣装も作れた。
私の衣装も、どちらかと言えば現代風だ。
ゲームでの、そしていまの私の恰好は、部屋着というか寝巻きというか……どちらかといえば寝巻きか。
まぁ、どちらでも大差はない。冒険どころか、外に出るような恰好ですらないことに違いはないのだから。
上はゆったりとしたキャミソールタイプで、下は同じくゆったりなショートパンツタイプ。その上からもこもこパーカーを羽織り、足元はルームソックスにルームシューズ。
どこからどう見ても立派な寝巻きだが、実は高い防御力と魔法効果を備えた高ランク防具だったのだ。
生産職のフレンドにお任せしたら、こうなった。
いわく『これならゲーム中でも気兼ねなくぐーたらできるでしょう〜?』ほんわかとそう言ったフレちゃんは、私のことを本当によくわかっている。
ちなみにそのフレちゃんいわく、このルームシューズはウサギの足で、パーカーのフードにはウサ耳がついていたりする。
たしかにウサギは好きだけど、これは完全にフレちゃんの趣味だ。
リアルではこれほど私に似合わないものもないし、人目に触れるのは恥ずか死ねるが、ゲームアバターだとさして気にならない。そういうのが似合う容姿を作ってるからね。
しかし、ゲーム内でならともかく、リアルでこの恰好で出歩くのは、さすがに少しばかり抵抗がある。……まぁ、ここには私しかいないみたいだし、別に気にしなくてもいいか。
「こっちもただの服?」
『イヤ、多少の防御力は付与シテある。それに『オートリペア』と『クリーン』の魔法効果も付けテおいテやッタゾ。大いに感謝シろ。そしテ、俺の偉大さにひれ伏すがイイ』
「真に偉大なる神サマなら、ダンジョンのシステムなんてどうとでもして私をここから出せるでしょ」
『…………』
都合が悪くなればだんまりか。
こんにゃろう……まぁいいや。
「それで?」
『それデ、トハ?』
「いや、たしかに防具も大事だしありがたいけど、一番大事なものが見当たらないから」
『一番大事なモノとナ?』
「武器」
こんな欠片も冒険心がなさそうな恰好をしていても、それなりに冒険を楽しんでいて、当然モンスターとも戦っていたから、武器は常に携帯していた。
防具はネタ装備でも、武器はちゃんとした刀剣だ。
それが見当たらない。
『オマエ、けッこう図々しいナ。コレだけサービスしてヤッテルとイウのに』
「そりゃ図々しくもなるよ。あんたのせいでこんなことになってるんだから」
『だかラ違うト。何度も言わせルナ』
「嘘だね。今度こそ、確信を持って言える。挑戦権のこととか、攻略しないと出られないってのは本当なんだろうけど、私をここに放り込んだのはあんたでしょ」
わずかな間のあとで邪神の声が返ってくる。
『ナゼ、そう思ウ?』
「あんたは私にダンジョンを攻略させたがってる。そうでなきゃ、わざわざ神サマともあろうお方が、一個人に干渉して便宜をはかる理由がない」
『だとしテも、オマエのすべきコトは変わラないダロウ』
邪神がついに認めた。やっぱりね。
「なんで私なの」
『暇そうだッタかラ』
「忙しいよめちゃくちゃ! ぐーたらするのに!」
『世間一般ではソレを暇人と言うのダ』
……私は、暇じゃないんだよ。
「それで、いったい何を企んでるの」
『さァナ』
そこは話してくれないらしい。……まぁいい。
理由がなんであろうと、それこそ私のすべきことは変わらないのだ。
「なら、なおのこと武器も作ってよ。武器がないと戦えない」
『仕方がないナ。――ホラ』
手元に出現したのは木の棒だった。
なんの変哲もない、ただの木の棒だ。
「見た目は木の棒でも、実はとてつもない攻撃力を秘めているという?」
『いイヤ? ちょっと硬いダケの、タダの木の棒ダ』
ちょっと。
「一昔前のゲームでだって、初期武器はもっとマトモだよ」
『悪いナ、容姿と防具の再現デ、いマ俺が使える力は使い切ッテしまッタ。コレ以上は無理ダ』
「容姿とか防具より、武器を優先してほしかったな」
回避や受け流し技術はそれなりにあるから、別に防具はなくてもよかった。
でも、モンスター、もとい魔物を倒すには、それなりの攻撃力が必要だ。
ほかの何よりもまず攻撃力のある武器がほしかった……と心の中で文句を垂れていると、邪神が呆れたようなため息を吐く。
『オマエは、まダわかッテいナイようダナ。ここはゲームとやラの世界じゃナイんダゾ』
……うん、まぁ、言わんとすることはわかる。
つまりは、殺されれば本当に死ぬリアルの世界なのだと念を押したいのだろう。
だからこそ、まずは防御を固めた。一撃二撃をまともに食らっても、すぐには死なないように。
私としても、それについては理解はしているつもりなのだけど……まぁ、実感が薄いのは事実だった。
なまじVRゲームなんてやってたからだなぁ、そのへんは。
ゲームでは当然、死んでゲームオーバーになっても本当に死ぬわけではないし、リアルの私にはなんのダメージもないからね。
『まァ、ダンジョン内では、魔物を倒せば武器をドロップするコトもあるシ、宝箱から出るコトもアル。マトモな武器がほシけれバ、ひタすら武器が出ルまで宝箱を探し、魔物を倒シまくるンダナ』
それしかないのはわかったけど……上から目線なのがなんかムカつく。