表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
3章 獣人の集落
35/140

35 お父さん、ちょっとジェラシーかな?

 

 ポツポツと鼻をすする音が聞こえつつもみなが静かに見守る中、再会の喜びを噛みしめていた父娘が、やがてどちらからともなく抱擁を解く。


 リューリ父の視線がこちらを向き、リューリはそのまま私に抱き着いてくる。

 頭をなでると、泣いてわずかに赤くなった目元が緩み、ふぁっさふぁっさとしっぽが揺れる。


「よかったね」

「うんっ」


 ぱっと太陽みたいな笑みが咲いた。元気なリューリが戻ったようで何より。彼女はやっぱり笑っているほうがいい。


「……ずいぶん、懐いてる、な」


 私たちを見るリューリ父の眼差しが若干じっとりしている。

 お父さん、ちょっとジェラシーかな?


「人間の娘、俺は、この集落の長で、リューリの父、ゼストと言う」

「私はトア」

「おまえが、リューリたち、連れてきてくれたと、聞いた」

「まぁ、一応そうなるかな」


 案内してくれたのは、レイニスがお願いして協力してくれた精霊たちだけど。

 私は彼女らを守りつつ、スロースコクーンに乗せて運んできただけだ。


「トア姉、捕まってた、私たち、助けた」

「なの! 悪魔、倒して、くれたの!」

「ここまで、わたしたち、守った! トアねえ、すごい、強い!」


 ヤエ、アルマ、リューリが口々に言うが、それでは何が何やらさっぱりだろう。

 リューリ父、もといゼストは、ぱちぱちと瞬きをしたあとで、けれども状況の確認をいったん脇に置くことにしたらしい。


 私へまっすぐ向き直った彼が、頭が地面につきそうなくらい深々と腰を折る。


「娘たちを、人間の手から、救い出し、無事に連れ帰ってくれた、こと、深く、感謝する。本当に、ありがとう」


 そしてこの場にいる獣人たち全員が、それに続いた。


 正直、意外だった。人間の私は、彼らにとっての敵なのだから、いくらリューリたちと一緒とはいえ、彼女たちの証言があるとはいえ、少しくらいは警戒心を持たれると思っていたから。


 けれど、彼らの態度には、その表情には、何も含むものがない。純粋に感謝を伝えようとしているようだった。


「気にしないで。私も捕まってて、私が逃げるついでみたいなものだったから。人間のほうでも動いてたし、私がいなくてもどのみち助け出されてたよ」

「そんな、こと、ない!」

「トア姉、いない、みんな、死んでた」


 ヤエの言葉にゼストが眉を寄せる。


「死んでた? ……そういえば、悪魔が、どうのと」


 それからリューリ、ヤエ、アルマの三人娘が身振り手振りで経緯を話すが、言葉も拙いせいかいまいち要領を得ず、見かねたレイニスが前に出た。


「一緒に、来たという、エルフの娘か」

「はい。ボクはレイニスと言います。実は――」


 ついでとばかりにまずは自分のことを話し、リューリらの口添えもあって、長であるゼストに集落で暮らすことを認められたあとで、闇オークション会場で起こった一部始終を話し始める。


 それを聞き終えた獣人たちが、大きくざわめいた。


 リューリたちは年齢のわりに話し方が拙いが、レイニスは逆に年齢のわりに話し慣れている。

 理路整然とした説明は、その場面が容易に想像できて、ゆえにだろう彼らは一様に慄き、顔を青くしている者が大半だった。


「なんと……そんな、ことが……」


 ゼストもまた、若干顔を青ざめさせ、かすかに震えている。

 奴隷として売られるのも大概、悲惨ではあるが、その前に大事な娘が危うく命を落とすところだったのだから、親として当然の反応だろう。


「……おまえは、本当に、娘たちの、命の恩人、なんだな」


 大げさだよ、と言いたいところだったが、自分のためが第一とはいえ、あの戦いは私もわりとやばかったしな。

 スロースコクーンと『怠惰』の権能がなければ、私も含めて全滅だっただろう。封罪宮『怠惰』攻略さまさまだ。


 ……いや、そもそもの話、邪神が私をこの世界に放り込みさえしなければ、さまさまでもなんでもなかったんだよな。おのれ邪神。


 とはいえ、いまになって思えば、私が悪魔を倒していなければレーナもリューリたちも全員、死んでいたのだろうから、私がこの世界に放り込まれたことこそがさまさまだったと言えなくもない……ぐぬぬ。


 なんて私の内なるモヤモヤなど知らないゼストは、もう一度、深々と頭を下げたあとで言った。


「娘たちの恩人に、礼を。見てのとおりの、生活なので、大したもてなしは、できないが、ぜひ。どうだ?」

「うん、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」


 私がそう答えると、ゼストは嬉しそうに破顔した。

 わりと怖い顔をしているけど、笑うと存外、優しい感じだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ