34 顔立ち以外は種族も色彩も同じだもんね
そうして、見張りたちの先導でぞろぞろと枝の通路を歩いていくと、少し行ったところに丸太を敷いた広場のような場所があった。
全員かはわからないが、多くの獣人が集まっている。
一様になんらかの獣の特徴を持ち、それが何十人といる光景は、現実に人間以外がいない世界で生まれた私にとってはひどく壮観で、感動的だった。
見たかぎり、ここに住んでいる獣人たちはみんな、人間にケモ耳しっぽが生えているタイプのようだ。これがこの世界の獣人なのか、はたまた獣の二足歩行タイプもいるのかはわからない。
しかし、うすうす察してはいたが、どうやらこの集落に住んでいる獣人たちの文明レベルはかなり低いようだ。それこそ、原始レベルで。
こちらもまた、この世界の獣人のスタンダードなのか否かは不明だ。
服装は、女性はリューリたちと変わらず、男性は大抵が腰巻に上裸か、そのうえに皮のチョッキ。さらに毛皮をつけていたり、牙やら石やらを紐に通して首にかけている者もいて、それはちょっと蛮族っぽい。
樹の上にはちゃんと家屋らしきものもあるが、そこにも獣の皮や葉などを使っていたりして、知識も技術もない中でどうにか集落としての体裁を保っている、といった印象を受ける。
まぁ、亜人種は人間から迫害されているみたいだし、この森の中でずっと暮らしているのなら、無理もないかもしれない。
そもそも外との交流もなく、知識も技術も入ってこない環境で長い時を過ごしているのであれば、全体的に言葉が拙いのにも納得がいく。
最後尾で集落を観察しつつそんなことを考えていると、さまざまな種の獣人たちが居並ぶ中心が割れて、男がひとり、前に出てきた。
それなりに筋肉のついた体に、原始的であることは変わりないものの、周囲と比較すれば明らかに一番上等なものを使った豪奢な恰好をしている。
肌は褐色、野性味を帯びつつも整った顔立ちで、切れ長の瞳は空のように青く、銀色の髪の上に同色の三角耳がちょこんと伸びている。
後ろの髪は長く、片側で三つ編みにして胸の前に垂らされていた。
ちょっとくしゃっとしてるけど、あんまり器用じゃないのかな。まぁ、自分で三つ編みするのってけっこう難しいもんね。
そしてボリュームのあるふさふさのしっぽが、背後に見える。
年齢はわりと若く見えるが、三十代にかかったくらいだろうか。
しかし……面立ちにこそあまり面影はないが、その男の色彩は、ここ数日で見慣れたものだった。
三つ編みもまた、連想させるに余りある。
「リューリ」
男の視線は、ヤエやアルマを越えて、その後ろにいまだ隠れているリューリをひたすらに射抜いていた。
そのさらに後ろにいる私の視線の先で、男に名を呼ばれた瞬間にまたビクッと大きく肩を跳ねさせたリューリが、観念したように二人の陰から出てくる。
「ち、父……」
やっぱりリューリの父親だったらしい。
まぁ、顔立ち以外は種族も色彩も同じだもんね。
間違いなく、彼がこの集落の長だろう。ということは、リューリは長の娘ということになる。
そうか、彼女もお嬢様だったのか。そのあたりの話は、道中ではいっさいしてこなかったから知らなかった。
ともあれ、どのくらいの期間かはわからないが、こんないかにも閉鎖的な集落から失踪していた娘が帰ってきたのだ。普通なら、父娘の感動の再会となりそうなところなのだが……どうにもそんな雰囲気ではない。
対面する前から空気はピリピリしてるし、ほかの獣人たちも緊張してるし、リューリも怯えてるし、何よりお父さんの顔がとっても怖い。
眼光は鋭く、眉間にしわが寄っている。
リューリ父がさらに歩み寄り、リューリもおそるおそるだが近寄っていく。
リューリのそれは、まるで断頭台に上がる罪人のようだった。
そうして、父娘が近距離で相対する。
服の裾を掴んで、顔を伏せたまま視線をさまよわせていたリューリが、意を決したように顔を上げ、口を開く。
「父、わたし……」
ぱんっと乾いた音が響いた。
父が娘の頬を張ったのだ。
叩かれた頬を押さえ、見開かれたリューリの目に涙がにじむ。
「何を、してるのだ、おまえはっ!!」
そしてリューリ父から、大気をビリビリと震わせるほどの怒声が放たれた。
「あれほど、言っただろう!! 集落の外には、絶対、出るなと!!」
「ご、ごめん、なさい……でも、」
「おれは、何度も言った!! 魔物の危険、人間の危険、何度も、何度も、何度も、説明した!! おまえも、わかったと言っていた!! それなのに、おまえは、この父を、みんなを、裏切った!! 仮にも、長の娘がっ……!!」
再びリューリ父の手が振り上げられ、リューリがぎゅっと目をつむる。
だが、振り下ろされたその手のひらが彼女の頬を叩くことはなかった。
「なっ……」
私が、彼の手首を掴んで止めたから。
「そのくらいにしときなよ。一度はしつけでも、それ以上はただの暴力だよ」
他人で部外者の私が口を出すのはよくないとわかっているけど、親から子への体罰は見ていていい気はしないし、きっとこの人自身が、あとで死ぬほど後悔するだろうから。
リューリ父ははっとした表情を浮かべたあとで、苦々しげに顔を歪めた。
「……すま、ない。止めてくれて、感謝する」
そう、この人はただ、娘が大事すぎて感情的になってしまっただけなのだ。
子供を叩く親というのはみんなそんなものなのかもしれないけど、だから、叩いたあとで冷静になって、後悔するのだ。
まぁ、私は親になったことがないから、実際のところはわからないのだけど。
うちの両親は基本的にのほほんとしていて、体罰なんかとは無縁だったし。
でもたぶん、私ならそうなるかなと思ったから。
リューリ父の腕から力が抜けたので、私も手を放す。そして彼は、あらためてリューリと向き合うと、両腕を広げて彼女を抱きしめた。
「……すまなかった、リューリ。おまえが、無事で、本当、よかった……」
「……ぅ、ふぇ……ご、めん、なさい……ごめん、なさいっ……」
リューリもまた父にぎゅっとしがみついて、しばらく泣きながら謝罪を繰り返していた。




