33 どさくさで耳もモフっておく
リューリたちの古郷、獣人の集落は、樹海めいた大森林の樹上にあった。
ほとんど自然の樹木をそのまま使っているようだが、大木は枝の上を歩けるほどなので、生活自体は問題なくできるのだろう。
集落には明確な仕切りや、そうとわかる門なんかもないけれど、入口となる箇所はあるらしい。
ここまで来ればもうリューリたちにもわかるということで、その案内に従って進路をとる。
ホログラムのモニターに映し出された外の光景を見ていると、枝の上に立つ見張りらしき獣人が二人、こちらに気づいた。
「なんだ、あれは……!?」
「魔物、か? いや、だが、なんか様子が、おかしい……?」
軽く騒ぎになっているようだった。さもありなん。
私たちはスロースコクーンに乗ったまま。スロースコクーンのような機械兵器のたぐいは一般的ではないそうなので、彼らにとっては新種の魔物とでも思えたことだろう。見た目、若干、蜘蛛っぽいし。
本当なら近くまで来た時点で降りておくべきだったんだろうけど、いかんせんこの辺りは魔物だらけなのだ。
しかも森の奥まった部分だから、一般的に強力な部類の魔物がわがもの顔で闊歩している。
そんな中を戦闘力のない子供を四人も連れて歩くのは、さすがの私も怖い。
ひとまずリューリだけを連れてシェルターを降りると、それを見咎めた見張りの二人が、今度は別の意味で騒がしくなった。
「リューリ!? 無事、だったか!!」
「うん! 帰って、きた!」
ブンブンと手としっぽを振るリューリ。
そして、見張りの意識が私へと向いた。
「人間……!?」
驚き、次いで表情を険しくする。
人間が獣人たちの敵だというなら無理もない。しかし警戒こそしていても、敵意は感じられなかった。若干、戸惑ってすらいる。
「だいじょーぶ! トアねえ、すごーく、いいひと! 悪い人間、から、わたしたち、助けた! 送って、くれた!」
リューリがそう言って、さらに大丈夫アピールのつもりかぎゅっと抱き着いてきたので、頭をなでておく。どさくさで耳もモフっておく。
そんなリューリの気の許しぶりと、私との触れ合いを見て、互いに顔を見合わせた見張りたちから、すぐに警戒が解けたのがわかった。
「そうか。待て、いま、梯子を――」
と、そのときだ。
「ガァッッ!!」
樹々の合間から虎っぽい魔物が現れ、襲いかかってくる。
「あっ!」
「危ないっ!」
うん、やっぱりリューリだけにしておいてよかった。
一人なら守るにたやすい。
この辺りには魔物が多い。それは道中でわかっていた。そして上に登るには、上から縄梯子を下ろしてもらうしかないとも聞いていた。
だからこういう事態を想定して、初めにリューリだけを一緒に降ろしたのだ。
牙を剥いて向かってくる虎と爬虫類の合いの子みたいな魔物を、闇オークション会場でがめたSFチックな刀でさくりと仕留める。
これのお肉、美味しいのかな。
あんまり美味しそうには見えないけど。
「あ、あれを、一撃……」
「あの人間、何者……」
「ねぇ、また来るかもしれないから、早く登らせてあげて」
「あ、あぁ」
くるくると巻かれた縄梯子を下ろそうとしたまま固まっていた男が、私の声にはっとして、慌てて巻かれていたほうを私たちのもとへ放った。
「俺、長、知らせる」
そしてもう一人の男が、そう言って枝の通路を奥へと走っていく。
それと同時、縄梯子に手をかけていたリューリの動きが止まった。
「リューリ、どうしたの? 早く上がって」
「っ……う、ん」
よくわからないけど、そう促せばリューリは再び動き出し、なぜか若干鈍くなった動作で縄梯子を登り始める。
そうしてリューリが枝へと体を引き上げたあとで、ほかの子たちを順番にシェルターから出し、登らせていく。
アルマが登りきり、次のヤエがじっとこちらを見上げてくる。
「トア姉、は?」
言葉は少ないが、私はどうするのか、ということだろう。
「私はまぁ、あなたたちを送り届けるって役目は終わったし」
「あと、何か、ある?」
「ないよ、特に」
予定もなければ、行くあてもない。
むしろ、私にはレイニス以上に行くところがないのだ。
そういや、先のこと、まったく考えてなかったな。
考える時間は道中にたくさんあったけど、突然、異世界に放り込まれたかと思えば奴隷商人に捕まって、悪魔なんてのと戦ったり、展開があまりにも怒涛にすぎたから、そのへんのことはすっかり忘れていた。
家には帰りたくても帰れないし。……くそぅ邪神め。おのれ邪神め。何度言っても言い足りない。すべてはおまえのせいだ。
「なら、一緒、来る」
「私はいいけど、人間が入るのはまずいんじゃない?」
「大丈夫。みんな、話す。お礼、したい。行く」
まぁ、駄目だったときはそのときだ。
「わかった。とりあえず、ヤエは先に上がっちゃって」
「ん」
最後にレイニスを行かせ、スロースコクーンを格納して私も登る。
「エルフ? なぜエルフが?」
「外、会った。友だち。レイニス、行くとこ、ない。だから、一緒、来た」
上に着くと、当然というべきかレイニスが注目されていて、横に立ったヤエが説明していた。
「ボクはレイニスと言います。記憶がなく、帰る場所もわからないところを、彼女たちがこちらに誘ってくれました」
そのあとでレイニスは自分の事情を簡単に話しつつ、ぺこりと頭を下げる。
にしても……こういうとき前に出るのはリューリだと思ってたんだけどな。
と思って彼女の姿を探せば、なぜかアルマの後ろに隠れ、小さくなっている。
さっきからどうも様子がおかしいのだが、いったいどうしたのだろうか?
「記憶が……それは、大変、だったな。とはいえ、まずは、我らの長、会ってもらう。決める、のは、長。だが、悪いことには、ならない、はずだ」
同じ立場にある亜人種だからか、見張りたちはこれといってマイナスな感情は見せず、レイニスも、そして私も一緒に集落の中へと促す。
ひとまずは入れてくれるみたいだ。
よかった。




