32 一家に一人エルフ
連投②
「わぁっ! すごい、すごいっ!」
「ベッド? すごく、ふかふか」
「広い、の」
大興奮のリューリに、静かに目を輝かせるヤエ、予想外に広い室内に目を白黒させるアルマ。レイニスも興味深そうに内部を見回している。
「? なんか、いる」
ふかふかベッドの真ん中に、ヤエが何かを見つけたらしい。
「むー」
ムゥだった。
いやまぁ、いるとしたらムゥしかいないんだけども。
そういえば、いつの間にか肩の上から消えてたな。それどころじゃなくてすっかり忘れてた。
悪魔との戦闘が終わり、パワードスーツを解除して格納した時点で、またシェルターの中に戻っていたらしい。
このあたりの原理は正直さっぱりなのだが、まぁファンタジーだしな。
まさに魔法の言葉、ファンタジー。
「これは、魔物ですか? 見たことのない種類ですが」
「私にもよくわかんないんだけどね、使い魔みたいなものだよ。基本ぐーたらしてるだけだから危険もないし、あんまり気にしないで。それより、そこの右の扉の先がお風呂になってるから、みんなで先に入ってきて」
スロースコクーンの中は、風呂とトイレ以外、三分の二以上がベッドで埋まっていて、それ以外のスペースはないに等しい。ちょっとした通路程度だ。
なので必然的に、この中ではベッドの上で過ごすことになるのだけど……捕まっていたこともあって、みんな薄汚れている。私も含めて。
その状態でベッドに上がるのは、私自身も嫌だし、許容もできない。
風呂はけっこう広いので、子供四人なら余裕で一緒に入れる。
しかし、レイニス以外は風呂に入ったことがないという。水浴びが普通らしい。野生の獣みたいだな。
とはいえ、レイニスが湯船のある風呂を知っているということは、そういう文化がないわけではないのだろう。
レイニスが住んでいた場所、もしくはエルフという種族が風呂文化なのか、はたまた彼女の身分がそれなりだったのかは、定かではないけれど。
とそれはともかく、私自身、まだ風呂は使ったことはないのだが、設備の使い方などはちゃんと確認済みだ。
といっても、操作に難しいことはいっさいない。
完備されたボディソープなどや給湯、果てはタオルいらずの乾燥機能まで搭載されているのだが、すべてボタン一つで出したり、入切ができるので、そのあたりだけさくっと説明して、あとはレイニスに任せた。
記憶がなくとも、最年長らしくしっかりしているので、彼女に任せておけば問題ない。
そうして何事もなく彼女たちが上がったあとで、私も入る。
体と頭を洗ってすっきりし、しばらくゆっくりと湯に浸かってから風呂場を出ると、少女たちはベッドの上ですっかりくつろいでいた。
どうもヤエがムゥのことをたいそう気に入ったようで、それこそぬいぐるみのように抱きかかえている。
「むー……」
当のムゥはとても迷惑そうだ。しかし抵抗するのも面倒らしく、されるがままになっていた。ま、別にその状態でも寝れるしね。
そんなこんなで、私たちは一路、レイニスの精霊交信による案内のもと、獣人たちの集落を目指す。
道中の食事は、ダンジョンにいたときと変わらず魔物肉だ。
ちなみに、魔物を倒すとドロップ素材やアイテム類に変わるのはダンジョンだけで、地上の魔物は普通に解体が必要となる。
ダンジョンの魔物はすべて〝ダンジョンコア〟が生んだものであり、そのコアの作用によってそういう性質を持っているのだと、いまは沈黙している邪神が言っていた。
しかし、ダンジョン内では、ドロップした魔石コンロで焼くことができたが、それはこちらへ放り込まれたときに失っている。
闇オークションの商品の中にも、残念ながらそういったアイテムはなかった。
そこでまたも大活躍したのが、レイニスだ。
肉を焼く焚き火の火種を、精霊の協力を得て――いわゆる〝精霊術〟で作ってくれた。優秀すぎる。
彼女がついてきてくれたことは、本当に僥倖だった。言い方は悪いけど〝一家に一人エルフ〟と言いたいくらいの便利さだ。
私が魔物を狩って、レイニスが火を熾し、さばいた魔物の肉を焼いて食べる。
調理道具も調味料もないので焼肉しかできないけど……そろそろ焼肉は飽きてきたなぁ。
移動はほとんど森の中で、森にはいくらでも恵みがある。ただ、それを探すとなればそのぶん時間を取られるから、どうしようかと思ったのだが……
「肉、おいしいっ!」
「肉、ニク、にく……」
「お肉、いっぱい、なの」
なんだか肉に餓えた獣のようにがっつく獣人三人娘がいた。
その食いっぷりがちょっと怖かった。獣人はウサギも肉食なんだなぁ。
案の定、三人は声をそろえて肉がいいとのことだったし、レイニスはどちらでもいいとのこと。この世界のエルフは菜食ではないらしい。
というわけで、時間と手間を惜しみ、というか単純に探すのが面倒だったので、私も焼肉で我慢した。
そうして、かなり広大な森林地帯を延々と、食事のとき以外、スロースコクーンを止まらせることなく進み続けること、およそ三日。
私たちは、ついに獣人の集落へとたどり着いたのだった。
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