30 お家は森の中……らしい
「わたし、リューリっ!」
そう元気いっぱいに手を挙げて最初に名乗ったのは、狼人の少女だった。
褐色の肌に、好奇心の塊みたいなキラキラしたスカイブルーの瞳がよく映える。
銀色の耳としっぽ、そして同色の髪は、その内面を表すように毛先がところどころ元気に跳ねているが、後ろは背中まであって一つに編み込まれている。
さっき代表して発言していたことからわかるように、三人の獣人の中で、彼女がリーダー的な存在のようだ。
「私、ヤエ」
次いで名乗ったのは、肩の長さで切りそろえられた濡れ羽のような髪を持つ、鳥人の少女。
無表情がデフォルトなのだろうか、目元はやや眠たそうな感じで親近感が湧くけれど、金色の瞳は月のようにきらめいている。
鳥人の特徴として腕に黒い羽根を生やしているのだが、鳥のように飛べたりはしないらしい。ただ、落下速度を減衰させたり、跳躍の距離を伸ばしたりする程度の補助にはなるそうだ。
「アルマは、アルマ、なの」
獣人三人娘の最後、一人称ですでに名乗っているのは、兎人の少女だ。
黒くつぶらな瞳に、ウサギでいうところのオレンジカラーの髪は腰のあたりまである。髪と同色の長い耳と、おしりについたポンポンみたいな丸いしっぽがとても愛らしい。
「ボクはレイニスと言います。見てのとおりエルフです」
最後は、唯一種族の異なる少女が、長い耳をぴこぴこと動かしながら名乗った。
ステレオタイプのエルフで、金色の髪に翡翠の瞳を持った、まさに妖精のごとき可憐さだ。しかもボクっ娘。だが、彼女からはどことなくレーナにも似た気品のようなものを感じる。
見た目から、彼女が一番年上で、私の外見年齢くらいだろう思っていたが、やはり十七歳だという。どうりで言動がしっかりしているはずだ。
ちなみに、獣人三人娘は全員、十一歳ということだった。
そのあとで私も名乗ったら、獣人三人娘から、示し合わせたように「トアねえ」「トア姉」「トアおねえちゃん」と呼ばれた。
それぞれ順に、リューリ、ヤエ、アルマだ。
いずれにせよ〝姉〟なのだが、私は彼女たちの姉ではない。が、まぁ、呼び方なんてなんでもいい。好きに呼ばせておくことにした。
にしても、獣人三人娘はやけに原始的な恰好をしてるな。
みんな捕まったときの恰好のままらしく、レイニスは簡素だがいかにも村娘が着てそうなワンピースを着ているが、獣人たちは――布ではなく、動物や魔物の皮らしきものを二枚、体の前後から挟み込むようにして、肩と脇に皮紐を通してとめている。
なんというか、裁縫という概念すら感じられない服なのだけど……いや、皮紐を穴に通してつなげるというのは裁縫の範疇なのか?
とまぁ、それはさておき。
そんな彼女たちを連れて、私はやや足早に通路を行く。
まずはこの建物からの脱出だ。
出口までのルートは、生き残りの従業員から聞き出した。
今度こそ嘘はつかれていないはずだ。死体の前で血まみれになり、放心状態でへたり込んでいたから、嘘なんてつく余裕はなかっただろうしね。
◇
事実、嘘じゃなかった。無事に裏口へとたどり着いた私たちは、そこから外へと出る。扉の先は洞窟になっていた。
「洞窟の地下に、あの人工的で立派な施設があったのか」
レーナがついぞ見つけられなかったと言っていたが……たしかに、こんなところに闇オークションの会場があるなんて誰も思わないだろう。
そしてこの洞窟は、どこぞの村の端にあるらしかった。
入口は正面と裏の二か所。通路も分かれているらしく、ぐるっと回って茂みから様子をうかがうと、正面には見張りなのだろう騎士が二人立っていた。
裏口のほうは、何かあったときの避難口といったところか。
人ひとり通るのがやっとといった狭さで、さらには存在を隠すためか樹々の陰になっているため、騎士たちも見つけられなかったようだ。
少女らを促しつつ、こそこそと移動する……が、まるで誘蛾灯に誘われる虫のように、リューリがふらふらと村のほうへ歩いていこうとしたので、慌てて腕を掴んで引きとめる。
「ちょっとリューリ、何やってるの。駄目だってば。見つかったら面倒なことになるから、こっそり出てきたのに」
「……はっ! ごめん、なさい」
と言いつつも、そっちから目を離せない様子のリューリを、私はそのまま引っ張っていく。
ざっと見たところ、あの闇オークションの会場以外、特にこれといって特徴も見どころもなさそうな、非常に簡素な田舎村だ。リューリはいったい、この村の何に興味を惹かれたのだろうか。
まぁなんにせよ、村に立ち入るつもりはない。
せっかくこっそり出てきたのに、こんなところでまごついていたら、いずれ中での処理を終えた騎士たちと鉢合わせしてしまう。
「それで、みんなの家はどこにあるの?」
村から離れつつ、少女たちに訊ねる。
「森のなか!」
リューリからものすごく大雑把な答えが返ってきた。
森の中って、ここも大概、森の中なんだけども……。
「森の中、集落、ある」
「そこが、家、なの」
「場所は?」
ヤエとアルマが顔を見合わせ、きょろきょろと首を振って、そのままこてんとかしげる。わからないらしい。……いや、どうすんの。




