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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
2章 波乱の闇オークション
28/140

28 三分の死闘

 

 引力こそないが、触れたものを呑み込む疑似ブラックホールは、一度作り出したものを操るタイプの術らしい。

 幸い、飛翔スピードはそれほどでもないから回避はたやすいが、そのタイミングを絶妙に狙って撃ち込んでくるのだ。


 剣撃を避ければ、今度はそこを突いて疑似ブラックホールが飛んでくる。

 それをかわしきれなければ、疑似ブラックホールのかすめた装甲が、分解されてわずかに抉れる。


 ――どうする。


 たとえ星鱗結晶を死守できたとしても、装甲をすべて削り取られて生身になってしまえば、また振り出しだ。


 いや、振り出し以上に最悪だ。いまは魔剣のドレインにくわえ、疑似ブラックホールが追加されているのだから。


 ――どうすればいい?


 悪魔はまだ余力を残している。

 テンションが上がっているらしく、楽しげな笑みを浮かべながら、少しずつ出力を上げてきているのだ。


 私もまだまだ動けるし、ついていけてもいる。

 だが、状況は逼迫していると言っていい。


 何より魔剣のドレイン能力と疑似ブラックホールがネックだ。

 このままだと、おそらくジリ貧である。


 ――どうすれば……


「むー」


 そのとき、耳元で気の抜ける鳴き声がした。

 逼迫した攻防の中でチラと視線を向けると、いつの間に現れたのか、肩の上にムゥが乗っている。


 なんとも奇妙なことに、けっこうな高速戦闘中にもかかわらず、しがみついているわけでもないのに振り落とされそうな様子はない。相変わらずの気だるげな顔をして、しれっと肩の上でぐでっている。


 ……これ絶対、外から見たらシュールだよね。

 スロウス・アーマファオルと戦ったときほどではないが、わりと必死な顔をしてるだろう私と、ムゥの怠惰さが対照的すぎる。


「むー」


 どうやら何かを訴えているようなのだが……わからない。

 そちらばかりに意識を割いているほどの余裕もなかった。

 すると、別口から助け舟があった。


『権能を使えと言ッテるのダロウ』


 その瞬間、私は暗闇の中で一筋の光を見つけた思いだった。


(そっか――『怠惰』の権能)


 ムゥを連れていれば使えるって、邪神が言ってたっけ。

 刀を振るって攻撃をしのぎながら、どうにか意識を向ければ、たしかに私は権能を使えるようになっているようだった。


 スロウス・アーマファオルを倒して得た報酬、私が使えるようになった『怠惰』の権能は『超強化』――三分間、肉体と身体能力が超強化されるという、とてもわかりやすく強力な能力だ。


 その効果は、私自身が体感している。痛みをもって実感している。


 あの動きができれば、いまの悪魔なら三分もかからず倒せるだろう。

 だが悪魔がまだまだ力を隠しているのなら、三分でも倒せる保証はない。


 しかし、私にはもう、これを使うしかないのだ。

 これを使って駄目なら、またそのときに考える。


(――権能『超強化』)


 直後、私は超加速した。


「……は?」


 これまでにない気の抜けた悪魔の声。きっと、その表情も呆気にとられたようなものだったのだろう。しかしそれを、私は見ることができない。


 そのことを少しばかり残念に思いつつも――すでに悪魔の背後へと回り込んでいる私は、色のあせた世界で刀を振り上げ、無防備にさらされた背中を斜めに斬りつける。


「が、あッッ……!?」


 深々と裂けた傷口から血がしぶく。悪魔の血も赤いらしい。


 しかし……手ごたえは、弱い。浅い。想像以上に、硬い。その身を両断するつもりだったのに、三分の一ほどしか刃が入らなかった。


『位階の高さもアルガ、とッサに魔力をまとッタのダロウ。ついデに、悪魔は再生能力持ちダ。魔力が続くかぎり、ではアルがナ』

(なにそれ、ずるっ)


 前のめりに倒れかけるも、ギリギリで踏みとどまる。

 傷口からはうっすらと蒸気のようなものが上がっていて、すでに再生が始まっているのがわかった。


 だが悪魔は、何が起きたのかとばかりに動きも思考も硬直させていて――その隙を見逃すわけにはいかない。間髪入れずに畳みかける。


「チィッ――!」


 しかし悪魔も、そのまま大人しくやられていてはくれない。盛大な舌打ちをこぼしつつ、すぐさま対応してくる。――音速にも迫る速度の攻撃を、辛うじてだが知覚し、防いでくる。


「ははッ、はははははッ!! いいなぁおまえ!? 楽しくなってきたぁッ!!」


 言葉どおり、これまで以上の狂気をもった笑い声を上げ、その表情もまたいっそう楽しげなものではあるが……双眸からは、いっさい余裕は感じられない。


 命の危機を察し、こちらを対等どころか脅威と認め、生存本能に従って死に抗わんとする者の目だ。


 そしてやはり、先ほどまでは全力ではなかったらしい。

 あれが全力なら、権能発動状態の攻撃を避けたり防いだりするなんて、不可能だったはずだから。


 ただ――『超強化』という権能は本来、すさまじいものだ。


 加減をしなければ踏み込みで大地が割れ、拳一つで岩山を砕き、刃を振れば鉄さえもバターのように両断する。衝撃だけで周囲を吹き飛ばすこともでき、その防御力は生半可な攻撃ではびくともしない。


 五感や知覚、思考速度も相応に強化され、機動力も補完される。

 それこそ、軽く地形を変えつつ、雑兵であれば万でもうん十万でも三分で殲滅できる力なのだ。


 スロウス・アーマファオルが使っていたときは、組成が特殊なダンジョンという環境だったし、素の力に圧倒的な差があったわけでもなかったから、そこまで派手なことにならなかっただけである。


 しかし、ゆえにこその三分だ。そんな力がリスクなしで使えるはずもない。


 肉体への負担と反動が大きいため、基本は一日に一度しか使えない。存在位階次第ではあるし、無理をすればもっといけるだろうが。


 つまりは――権能のほうが上回っている。


 屋内なので必要以上に物を壊さないよう、衝撃を飛ばさないようかなり抑えていても、すでに防戦一方の悪魔には徐々に焦りが見え始め、やがては防御も反応も、そして魔力切れか再生も追いつかなくなって――そして。



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