27 そういうカラクリかっ
先ほどまで悪魔とやり合っていたシウカは、刃を交えるごとに動きが鈍くなっていっているように見えた。
たしかに、シウカよりも悪魔は強く、体格だって比べるべくもない。ともなって体重は悪魔が圧倒的に勝り、くわえて剣の重量もある。
真っ向から打ち合うのは本来、愚策だったのだろう。しかし、仮にそうであったとしても、どうにも不自然に感じた。違和感が拭えなかった。
そしていま――自分自身で体験して、先に感じたそれらが、私の気のせいではなかったことを知る。
「っ」
いやに体が重い。動きが鈍い。
一瞬でも気を抜けば、膝が落ちてしまいそうだ。
まだ、疲労するほど打ち合ってはいないのに。
当人同士のスペック自体は、そう変わらないはずなのに。
『原因は悪魔の持つ魔剣だナ。アレの放つオーラに、一種のドレイン能力がアルんダ。触れル、あるいは打ち合ウ距離まで近づくコトで、気力や体力が吸い取られルらシイ』
(そういうカラクリかっ)
やっぱりマトモな剣じゃなかった。
にしても……厄介だな。
このままじゃ、私のほうが先にへばる。
『スロースコクーンを使エ。アレの装甲ならドレインの影響を受けナイ』
(でも、スロースコクーンって戦闘機能ないんでしょ? 身を守れても、攻撃できないんじゃ意味がない)
『モードがもう一つあッタだロウ』
(あ、そういえば)
さっそく、もう一つのモード『パワードスーツ』のコマンドを唱える。
「コマンド――〝着装〟」
直後、展開されたスロースコクーンが形を変え、鎧のように私の全身を覆った。
自分で見える範囲でも、かなりスマートなデザインで、頭部だけは鼻あたりまでを覆うヘルムのようだ。バイザーを上げれば目元も出るが、上げずとも透過されたように視界を遮ることはない。
体のラインに沿ったスマートなデザインとはいえ、それなりの重量がありそうなものだが、不思議と金属装甲をまとっているという感覚はなかった。
重さも感じず、関節の動かしにくさもない。
「ハッ、なんだぁそりゃぁっ!?」
面白いものを見つけた子供のような顔で笑い、叩きつけるようにして魔剣が振り下ろされる。
それを真っ向から受け――すぐにわかった。
(ほんとにドレインが効いてない!)
魔剣のオーラを完全にシャットアウトしている。
さらには、装甲で直接、刃を受けても切れることなく、蹴りを防いでも衝撃さえ伝わってこない。
ただ、このモード、パワードスーツと謳ってはいるが、スロースコクーンはシェルターとしての役割が主で、防御力こそ折り紙付きだが、それ以外は多少の機動補助がある程度だ。パワー系の補助はない。
けれどもいまは、そのアーマーとしての機能こそが何よりありがたい。
パワーアップはせずとも、鎧としてはこれ以上なく最高な代物だった。
消耗以上に気力体力を持っていかれないのなら、まだまだ戦える。まだ出力も上げられる。必然――押し返せる。
速度がわずかに上がり、一撃の重さが増したことに気づいた悪魔が「へぇ」と呟いて片眉を上げる。
「面白れぇ。こいつの能力が効いてねぇな? そのへんてこな鎧のおかげか。なら――もっと上げても問題ねぇなっ」
にわかに押していた私の攻撃が、その瞬間、再び拮抗した。
悪魔の攻撃も、同様に速度と重さを増したのだ。
打ち合うごとにどんどん速く、重くなっていく。
それに合わせ、私もまた出力を上げていった。
互角の攻防――だが、悪魔が何ごとか呟いた直後、その周囲に闇色の球が三つ、出現する。
魔剣のオーラ以上に禍々しく、混沌とした漆黒の球体だ。
アレはヤバいと直感が警告するに従い、向かってきたそれを回避。目標を失った闇色の球は、そのままの軌道を突き進む。――客席を抉り取りながら。
それは、純粋な破壊ではない。例えるなら、獣が顎門を開き、進路上にあったものを食らっていった、といった感じだ。
(ちょっ、なにアレ!? アレって、触れたらアウトなやつじゃない!? この装甲は大丈夫だよね!?)
『アレの原理は、触れタモノの分解ダ。硬いモノほど分解速度は遅くナル。完全に防げるワケではナイが、生身ヨリは断然マシダ』
(冗談じゃない。私が無事でも、私の大事なぐーたらルームがなくなっちゃう)
『心配スルのハそこなのカ。オマエが死んデタら、それこそ意味がないダロウに。まァ、安心しロ。星鱗結晶が無事ナラ、そのうち勝手に修復さレル。損傷具合に応じテ時間ハかかるガナ』
(そんな感じになってたんだ。初耳なんだけど)
『別に訊かレてナイからナ』
(…………)
ともかく、それならたしかに安心だ。
その星鱗結晶とやらだけ、死にもの狂いで守ればいい。
(で、その星鱗結晶はどこにあるの?)
『腕輪に嵌まッテる、ソノ青い石がソウダ』
あぁ、これがそうだったのか。
たしかに、スロースコクーンはこの石から出た光で構成されている。
まさかこれが核だったとは。腕輪、断固死守だ。
この腕輪は私の手首と一体化しているようなものなので、奪われる心配はしなくていいが、腕ごと斬り飛ばされればどうしようもない。
万が一にも斬られてしまわないように、あとで何か腕防具でもつけよう。
『魔力を通せバ、ギリギリ防げルんだがナ。オマエ、魔力ないしナ』
(えっ、そうなの!? え、まったく?)
『あァ。まったく、ダ』
(じゃあ、私って、そもそも魔法が使えないってこと?)
『ソウいうコトだナ。言ッタだロウ、オマエの世界に魔素は存在しナイと。魔力の源こそが魔素ダ。すなわち、そうイウことダ』
そっか、私って、どうあがいても魔法を使えるようにはなれないのか……って、いまはそんなことどうでもいい。
嘆くなら、スロースコクーンに通せる魔力がないことのほうだ。
そしてそれも、ないものは仕方がない。どうしようもない。




