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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
2章 波乱の闇オークション
26/140

26 こいつは私がやる

連投②

 

(しかし……)


 まだ、脅威は健在だ。

 悪魔なんて文献の中でしか見たことがないが、その記述でも、非常に危険な存在だとあった。


 実際、そのとおりだった。すさまじいプレッシャーに鳥肌が立ち、冷や汗が流れる。文字どおり、存在の格が違う。


 振るわれる剣に技はない。ただの、純粋な身体能力に任せた攻撃だ。

 それでも一撃一撃が、速くて重い。なのに――まだ全力ではない。シウカの力量に合わせて出力を抑えているのが、わかる。わかってしまう。


(完全に、遊ばれているっ……!)


 しかも、そこに悪意がまったくないのだ。

 生物が持つ暴力性、そして無垢なまでの嗜虐性。それこそが、悪魔が力を振るうすべてだった。どこまでも純粋に、欲望のままに。


(これが、悪魔っ……)


 だが、それにしても……おかしい。一合交えるたびに、体が重くなっていくような感覚があった。


 シウカとて、レーナを守る護衛として日々鍛えている。体力づくりは欠かしていない。そう簡単にへばることがないくらいには、持久力にも自信がある。


 たしかに悪魔の攻撃は速いし、重い。こちらも相応の対応が求められ、伴って体力も消費している。神経も使っている。


 だが、まだ戦闘が始まってから、そう経っていない。

 それでこの消耗は……やはり変だ。


(――、っ!!)


 意識が一瞬、遠のいた。

 ハッとして見開いた視界に、敵の姿がない。


 まずいと思う間もなく、視界の端に動くものがあり、反射的にかざした剣は、しかし体勢も込める力も半端で――攻撃を受け止めることができず、シウカはなすすべなく吹き飛ばされた。


 客席の一角を破壊して止まる。


「ぅっ……」


 視界の端がチカチカする。目に映る景色は白くぼやけ、右側は真っ赤だ。流れ落ちた血が入ったのだろう。

 頭が酩酊したようにふらふらする。思考が上手くはたらかない――が、やばいということだけはわかった。動かなければ死ぬと。


 しかし、そうとわかっていても、体が言うことを聞かない。

 四肢に力をこめて立ち上がろうとするも、ガクガクと震えるばかりで、体は持ち上がってさえもくれない。


 そこへ、とどめの刃が振り下ろされた。


「っ……!」


 だが――しかし。その刃がシウカに届くことはなかった。


 見上げる先、朦朧とした意識にも、かすかになびくストロベリーブロンドの美しい色彩が鮮やかに映る。


 少女がその細腕一本で、禍々しい魔剣の刃を受け止めていた。


 ◇


「――へぇ。次はおまえが相手してくれんのか?」


 交差する刃の向こうで、長身の悪魔が赤色の双眸を興味深げに細める。

 それを無言で見返していると、押し合っていた剣から重みが消えた。


「そっちのより楽しめそうだな」


 引いた剣を肩の上にのせて、いっそ子供みたいな純粋さで口端を吊り上げる。


 どういうつもりなのか、敵の心情など知りたくもないが、ともあれ剣を引いてくれたのは好都合だ。すぐに襲いかかってくる様子もない。


 これ幸いにと、私は油断なく身構えつつも、逆の手に持っていた小瓶のフタを口で外し、背後で倒れているシウカへと振りかけた。


「っ……こ、れは……」

「出品されるはずだった〈治癒ポーション〉。最上級のやつみたいだし、そんなにかからずに回復するはずだよ」


 もとより、こうなることは想定していた。というか、確信してすらいた。


 私は、VRゲームでの戦闘経験、そしてリアルでの封罪宮『怠惰』での戦闘経験から、見ればだいたいの実力は測れるようになっている。

 シウカはたしかに実力者に見えたが、悪魔ほどじゃないことは最初からわかっていたし、それにくわえ、あのいかにもヤバそうな魔剣の存在もあったから。


 だから、私はレーナたちと一緒に退避したあと、その退避した部屋で――ステージ袖の商品が管理されていた部屋で、そこに収められた商品を物色した。

 シウカが、そのつもりではなくとも時間を稼いでくれているあいだに、武器やら戦闘に使えるものを見つけるべく。


 もとより、最初に悪魔と戦うと決めたときに、そうするつもりだった。それよりも早く悪魔に認識されてしまったわけだが……それはともかく。


 物色した結果、ダンジョンでは武器を入手できなかったが、その運をすべてこのときのためにとっていたと言わんばかり――シウカへと与えた〈最上級治癒ポーション〉や、いま私が携えている剣を見つけるにいたった。


 ちなみに、最上級の〈治癒ポーション〉は、効果や治癒速度がかなり速く、致命傷でも即座に振りかければ癒せるし、部位の欠損も時間が経っていなければ治すことができるという希少な代物らしく、オークションに出品されるのも納得だ。


 そして武器のほうはと言えば、数ある商品の中でも妙な存在感を放っていたもので、見つけたというより自然と意識が引き寄せられたこの剣は、私にとっては扱いやすい片刃の刀剣だ。


 刃も柄もすべて漆黒で、中心に水色のラインが走っているが、悪魔の持つ魔剣と違って禍々しさはない。夜を固めて削り出したような美しさと気高さを感じる。なんだか、いやにSFテイストだけども。


 鍔はなく、手にしっくりと馴染む。アウルベアブレードよりもいい感じだ。


 〈最上級治癒ポーション〉とあわせ、きっと相当な高値で落札されるはずだっただろう代物を勝手に拝借――すなわち窃盗したわけだが、どうせ連中も違法に手に入れたものだろうしね。大丈夫、大丈夫。慰謝料代わりだ。


「あなたは動けるようになったらデーモンのほうを。――こいつは私がやる」


 そう告げて、私はシウカの返事を待たずに悪魔へと斬りかかった。



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