24 それ、普通にいけそうに聞こえない?
連投③
「なんで、こうなるかなぁ……」
私はただ、ひとり静かにぐーたらしていたいだけなのに。ほかには何も望まないのに。
リアルダンジョンなんてまったく興味がないにもかかわらず攻略を余儀なくされて、死にもの狂いで攻略したら今度は異世界に放り込まれて。
かと思えば、人さらいにあって闇オークションで売りさばかれそうになって、檻から抜け出したはいいけど、その会場に魔界の魔物が召喚されて逃げられなくなって……もうさんざんだ。
だけど、大元凶は邪神なんだよな。
(……覚えてなよ、邪神。絶対にいつかしばき倒してやるんだから)
『そんナ日が来るコトを、俺も楽しみにシテルヨ』
くっそー、腹立つ。ほんとどこにいるんだよ、こいつ。
とまぁ、クソ邪神のことはいまは置いといて。
デーモンを相手にするのは、別にいいのだ。
見た感じ、戦闘力はさっきの個体と変わらないようだし、五体いるとはいえ、さして苦労せずに倒せるだろう。
面倒ではあるけど、それさえ除けば、デーモンだけであれば、なんの問題もないのだ。
「――はっはぁッ! 久方ぶりの人界だッ! 楽しませてもらうぜぇッ!」
一体、毛色の違う個体が、デーモン以上の粗暴かつ残虐な暴れっぷりで、客たちを必要以上に斬りつけながら、快楽と愉悦に満ちた高笑いを響かせている。
その個体だけは、より人に近い容貌――いや、ほとんど人と変わらない姿をしていた。
『アレこそが、魔界の真の住人たる悪魔、デーモンの〝進化生命体〟ダ。あの悪魔も一応はデーモンの上位存在にあタルが、その戦闘能力は、デーモンとは文字どおり次元が違うゾ』
(……そんなの、見ればわかるよ)
そう、問題はこいつなのだ。
己が体の一部を武器としているデーモンに対し、悪魔は人の使う武器である剣を振るっている。
しかも、そんじょそこらの剣ではない。おそらくは相当な業物で、その刀身からは禍々しい黒紫色のオーラを放っている。――魔剣、と呼ぶに相応しいそれは、とてもまともな代物とは思えなかった。
進化生命体は、魔物から存在進化を果たした、人と同等の知的生命体。存在的に上位であり、魔物時より強いのもそうだが、魔物にはない人並みの知能と知性を獲得した存在だという。
流暢に人の言葉を話していることからもそれは明白ではあるが、しかしあの悪魔には、知性はあっても理性はなさそうで、生物の持つ原始的本能である暴力性と残虐性のままに暴れているようだった。
その刃が無造作に振るわれるたびに真っ赤な血が噴き上がり、会場内に断末魔が響き渡る。
瞬く間に、凄惨な虐殺現場が作り上げられていく。
このオークションを開催しているのは、仮にも犯罪組織だ。ほとんどの人員がそれなりの戦闘力を有し、各々が武器を手にデーモンたちと戦っている。
だが、デーモンはともかく、悪魔に関しては誰も相手になっていない。
思いのほか会場は広く、百人単位の客がいるが、全滅も時間の問題だろう。
「ほんとにもう、次から次へと……」
私の口からは、否応なしにため息がこぼれ落ちる。
「と、トアっ……ど、どうしましょう、どうしましょうっ……! みんな、殺されちゃうっ……!!」
おろおろするレーナの、ただでさえ白い肌からは完全に血の気が失せている。全身の震えは目に見えるほどで、いまにも膝が折れてしまいそうだ。
それでもその細い足で立っていられるのは、貴族としての意地だろうか。
その後ろで、ほかの子供たちはとっくに腰を抜かして座り込んでしまっている。
無理もない。この凄惨な光景も、あの異形の怪物たちも、まだ年端もいかない子供たちには刺激が強すぎる。
デーモンや悪魔がここにいる全員を殺したら、次は私たちだ。
どうあっても逃げられないなら、もう戦って倒すしかない。
「レーナたちは、このまま隠れてて」
「……トア、もしかして、アレと戦うつもりなの……?」
「まぁ、死にたくないからね」
できることなら、私もアレとは戦いたくはない。スロウス・アーマファオルほどじゃないと思うけど、普通に強そうだし。あの剣もヤバそうだし。
でも、自惚れるわけではないが、いまここに、あの悪魔とまともにやり合えそうなのが私しかいないという、残酷な現実。
スロースコクーンのシェルターにこもっていれば、きっと私だけなら生き残れるだろう。
けれど……レーナたちを見捨てることなんて、とてもできそうにないから。
いくら我が身第一の私でも、そこまで非情にはなれないし、割り切ることもできないから。
「む、無茶だわ……! いくらトアが、鉄格子を素手で曲げられて、体格のいい男性を一撃で伸せて、デーモンの胸に風穴をあけられるほどの怪力でも、アレと戦うなんてっ……!」
レーナもまた、悪魔が格の違う存在であることを知っている、あるいは肌で感じているようだ。
「それ、普通にいけそうに聞こえない?」
「……え? あ、た、たしかに……いえっ、やっぱり無理よ! 無理無理っ! それこそトアが死んじゃうわ!」
恐怖で顔を真っ青にして、ガクガクと体を震わせながらも、レーナは私のことを心配して必死に引きとめてくる。
まだ出会ったばかりだけど、彼女は善良な人間だ。貴族のイメージに相応しくないほどの。
それを、この短いあいだでも理解したからこそ、私は彼女を見捨てることができないのだ。端的に、情が湧いた。




