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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
2章 波乱の闇オークション
23/140

23 なんて物騒なものを持ち込んでるんだ

連投②

 

「……騙された」


 たどり着いたそこは、オークション会場のステージ袖だった。

 あの男、伊達にこんな商売をしてる組織の人間じゃないってことか。


「おいおい、人間の商品はまだのはずだろ。誰が連れてきやがった?」


 出品される商品の確認か何かをしていたらしい男が二人、私たちの存在に気づいて、訝しげに近づいてくる。


「うん? こいつらだけ……? まさかこいつら、檻から抜け出してきたのか?」

「誰かヘマでもしやがったか。ちっ、面倒くせぇな」


 まぁ騙されてしまったものは仕方ない。こいつらを伸して引き返そう、と攻撃姿勢に移った、そのときだ。


「「――??」」


 男たちの背後を、何かが高速で横切った。

 一拍置いて、二人が真っ赤な血をしぶかせ、前のめりに倒れ込む。


「ヒヒャヒャヒャヒャッ!」


 その向こうに、異形の怪物がいた。


 かぎりなく人に近い形をしているが、全身の肌は黒みがかった紫色で、腕と脚がいやに細長い。

 股の下から見える鞭のようなそれは、おそらく尻尾だろう。


 面長な顔面には、血のように赤い眼が四つ。潰れた鼻に、先の尖った耳、側頭部からは歪に捻れた角が生え、大きく裂けた口は嗜虐の笑みを描いて不快な嗤い声を響かせる。


 見せつけるようにしてかざされた長い爪にべっとりと付着し、先端から滴っている赤い液体は、間違いなくあの男たちの血液だ。


 すなわちそれは、いましがた男たちを切り裂いたのがこの異形であるという、これ以上ない証左だった。


「……悪魔?」

『いヤ、コイツはデーモンのほうダナ。魔界に生息すル魔物ダ』


 魔界とは、つまるところ異界だ。

 主に悪魔と魔物が住んでいるらしい。


 一応、この世界に付属してはいるものの、二つの世界同士は完全に隔絶されているため、双方間の行き来は基本できない、ということなのだが……


(行き来のできないはずの魔界に住む魔物が、なんでここにいるの)

『一時的、限定的に互いの世界をゲートでつなげ、一方的に呼び寄せルことのデキるアイテムが存在すル。いわゆル召喚というヤツだナ。大方、商品の中にあッタモノを誰かが使ッタか、誤作動でモ起こしタのダロウ』


 なんて物騒なものを持ち込んでるんだ。

 はた迷惑にもほどがある。


 ◇


 結論から言って、デーモンはいまの私の相手ではなかった。


 数回の攻防を経て、がら空きとなった胸部に拳を突き込む。……文字どおり。

 突き込まれてしまった。貫通してしまった。


 拳を引き抜くと、おびただしい量の血がボタボタとこぼれ落ち、ぽっかりと風穴が空いている。

 微妙に向こうが見えて、なんとも言えない気分になった。


「……ト、トア……あ、あなた……」


 子供たちが怯えた様子で身を寄せ合い、さーっと距離を取る。

 さもありなん。自分の所業に一番引いているのは、私自身だ。


 私より弱いといっても、個体として見れば決して弱くはない。

 だから万一を考え全力でいった結果が、胸の風通しがすこぶるよくなったデーモンの死体なのだった。


 まぁいい。自分でドン引きしても周囲にドン引きされても、生きているならそれでいいのだ。死んでないなら、そんなものは些事なのだ。

 それよりも……


「デーモンがこの一体だけとは思えないんだよねぇ。嫌な予感がビンビンする」


 と呟いた直後、複数の悲鳴が耳をつんざいた。

 出どころは会場のほうだ。


 陰からそっと覗いてみれば、やはりというべきか、ほかにも召喚されていたらしい数体のデーモンが客席のほうで暴れまわっている。


「ひぃっっ……!! なんだこの化け物はっ……!?」

「やめろっ!! 誰か、従業員!? なんとかしろっ!!」

「逃げろ、逃げろーっ!! 私はまだ死にたくないんだっ!!」

「そこをどけ!! 私が先だ!!」


 まさしく阿鼻叫喚。蜘蛛の子を散らすようにして、我先にと逃げ出す客たち。


 客たちはみな、貴族や、相応の立場にある人間なのだろう。仕立てのいい衣装を着て、きらびやかな装飾を身につけた男女が、悲鳴や怒号を上げながら、押し合いへし合い会場後方の扉へと殺到する。……が、


「お、おいっ、開かないぞ!?」

「どうなっているんだ!? 外から鍵でもかかってるのか!?」

「いやぁ!! 開いて、開いてよお!! 私をここから出してぇ!!」


 なぜか扉は固く閉ざされ、そうこうしているうちに、デーモンたちの攻撃によって死傷者が出始める。


 しかし、ここにいるのは全員、法に触れた犯罪者。オークションを開催した組織はもちろんのこと、違法な商品を買い求める客たちもまた同罪だ。


 デーモンの召喚は想定外のことだろうが、それで彼らが死んだとて、ある種の自業自得。私が彼らを助ける義理もない。

 見ず知らずの赤の他人だし、何より、こちらはそんな連中に売買されようとしていた被害者なのだから。けれど……


「こっちもか」


 私たちも逃げられなかった。

 ステージ袖から通路に出る扉も開かなくなっていたのだ。


『物理的なモノでハなく、術によるモノダ。こちらも術でもッテ解除すルか、もしくは術者を倒さナイかぎり、解けるコトはないダロウ』


 私には、そもそも魔法のたぐいは使えない。

 実質、選択肢が限定されたことにげんなりする。



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