22 いらないよ、そんな才能
連投①
「トア? いまの、金属でできた繭みたいなものは何? それに、その肩に乗っている生きものはどこから出てきたの? さっきまでいなかったはずよね?」
レーナがムゥを指差しながら、しきりと目を瞬かせている。
「さっきの繭みたいのは、私の安息。まぁ気にしなくていいよ。この子はムゥと名付けた。よろしく」
「いや全然答えになっていないのだけど」
だってちゃんと説明するの面倒なんだもん。
「……まぁいいわ。でも、なんか似てるわね、あなたたち。全体的に気だるそうなところが」
そりゃあ、私もムゥも常に気だるいからね。ぐーたらを至上として愛する、自堕落で怠惰な生きものだからね。
「むー……」
「あれ?」
肩に乗せていたムゥが、気だるげな鳴き声一つ残して忽然と姿を消した。
どこに行ったと見回してみるが、どこにもいない。
『スロースコクーンの中に戻ッタようダゾ。そモ、奴は顕現自在ダ』
まったくもって腹いせにも八つ当たりにもならなかったらしい。……ぐぬぬ。
けどまぁ、しょうがない。ムゥのことは忘れよう。精神衛生的に忘れたほうが身のためだ。
「さて」
さくっと気持ちを切り替えて、現状へと意識を戻す。
いくら安全堅固な移動手段を手に入れたといっても、まずは鉄格子をどうにかしないと外へは出られない。
「鉄格子を素手でどうこうするのは、さすがに無理だしなぁ……」
ぐにーっ。(両手で掴んだ鉄格子がそれぞれ左右に広がるかたちで変形した)
ぐにーっ。(なにごともなかったようにもとに戻した)
「……鉄格子を素手でどうこうするのはさすがに無理だしなぁ(棒読み)」
「それでごまかしたつもりかしら!?」
「はは、なんのことかな(棒読み)」
「あなた絶対、役者に向いてない……じゃなくてっ! え、噓でしょう!? あなたいま、素手で鉄格子を曲げたわよね!?」
「見間違いだよやだなぁ。どこの世界に素手で鉄棒を曲げられる女子がいるのさ」
「いるわ、目の前に!! 私、ちゃんとこの目で見たもの! あなたが鉄格子をぐにーって粘土みたいに曲げちゃうところを!!」
「あ、そっか。これ粘土でできてたんだ。なら非力な女子の力で曲げられるのも納得納得」
「んなわけあるかぁっ!!」
お嬢様の荒っぽいツッコミが鋭く響いた。
そして彼女が実演してみせるが、当然のように鉄格子はびくともしない。そういうことだ。
とまぁ、現実逃避はこのくらいにしておこう。
あまりにも不毛だし、余計に悲しくなる。
つまるところ、私はいつの間にか、鉄の棒を腕力で曲げられる怪力女子になっていた、ということなのだった。
◇
悲しい現実が露見してしまったものの、ともあれ鉄格子の問題は解決した。
そうとなれば、いつまでもこんなところにとどまっている理由はない。
さっさと脱出してぐーたらするんだ。
「じゃあ、私は行くね」
「ちょ、ちょっと待ってトア。ここで無理して危険を冒さなくても、そのうち我が家の騎士が救出に来てくれるから」
「うん。だからレーナはここにいなよ。ついて来いとは言わない。私は私で動くだけだからさ」
ひらりと手を振って、再び粘土のように曲げた鉄棒のあいだから抜け出す。
「あ……待って! やっぱり私も行くわ!」
そう言って、レーナも友達を連れてついてきた。すると捕まっていたほかの子たちも、互いに顔を見合わせたあとでそれに続く。
結局、全員での一斉脱出と相成った。
総勢十一人で、ぞろぞろと通路を行く。
逃げられることなど想定していないからか、檻の前に見張りはひとりもいなかったが、少し歩いたところで、いかにも悪党面した男と鉢合わせた。
十中八九、ここの従業員、もとい犯罪組織の構成員だろう。
要するに、敵だ。
「なっ、てめぇらは、商品!? どうやって檻から――」
「ふんっ」
一息に男の懐へと潜りこんで鳩尾に拳を突きこむ。
男は声を出す暇もなく、どさりと床に倒れ込んだ。
「は、早……しかも、一撃……トア、あなた、いったい何者なの?」
「だいぶ自堕落でちょっと怪力なだけの、どこにでもいる普通の女子だよ」
「あなたみたいなのがどこにでもいたら、いまごろ世は女性の天下だわ。普通って単語の意味、ちゃんと理解してる?」
「してるよ。さ、早く行こう」
そのあとも、行く先で敵、もとい従業員と遭遇しては、即座に意識を刈り取って先へと進む。
それからしばらくして、私は足を止めた。
くるりと、後ろにいるレーナを振り向いて言う。
「どうしたのよ?」
「出口ってどこにあるのかな?」
「いまさら!?」
レーナの鋭いツッコミがことのほか響き、それに反応したらしい従業員が横の通路から顔をのぞかせる。
しまった、と青ざめるレーナだが、ちょうどよかった。あの人に聞こう。
さっと男の背後を取り、腕の関節を決めて動けないようにする。
「ねぇ、出口までの道、教えてくれる?」
「てめっ、くそっ、こんなことしてタダで済むと――」
「タダで済まないのは、あんたのほうじゃないかな? 私がちょっと力を入れさえすれば、この腕、簡単に折れちゃうよ? それが嫌なら、さっさと出口を教えて」
「っ、誰が――」
「いいの? 折れたらものすごく痛いと思うけど。私だったら耐えられないなぁ。まずは右腕でしょ? 次に左腕、その次は右足、そして左足。それでもまだ、手首に足首、指の関節とか、人間には折れるところがけっこうあるからねぇ」
それっぽく声を作って耳元でささやくと、男がぶるりと身を震わせた。
「まぁ、それでも教えてくれないというなら、仕方ない。最後は首を折って、別の人に聞くことにするよ。ここには人もいっぱいいるしね」
「ま、待ってくれっ……! 言うよ、言うから折るのはやめてくれっ……!」
案外チョロかったな。いや、末端の構成員ならこんなものなのかな?
「……あ、あっちだ。角を右に曲がって、突き当たりを左に曲がったところが、裏口になってる」
「ありがとう」
一応お礼を言いつつ、首に手刀を叩きこんで意識を奪う。
「……あなた、尋問の、いえ、拷問の才能ありそうね」
「いらないよ、そんな才能」
フィクションでよくあるから真似してみただけだ。
アングラ系の映画とか、けっこう好きなんだよね。




