20 ダンジョンの攻略報酬とか、そんな感じのやつじゃない?
その後、しばらくして馬車が止まった。
幌の後ろが開いて、男がひとり荷台へと上がってくる。
男は私の手足を縛っていたはずのロープが千切れていることに慌てていたが、すぐに別のロープを持ってきて縛り直す。さらに目隠しもされた。
なんで目隠し? とは思ったけど、もちろん質問なんて許されるはずもなく。
私とレーナを含めた全員が荷台から降ろされ、荷物のように運ばれていった。
そうして放り込まれたのは、鉄格子のはまった檻だった。
入れられてすぐに目隠しは外され、見れば、そこには私たちのほかにも囚われていた人たちがいて、その中にレーナの友達もいた。
二人はいま、感動の再会中だ。
ともあれ、ここまで来たら、もう配慮する必要はない。
さっさと逃げ出してしまいたいところなのだけど……檻の鍵がなぁ。
さてはて、どうしたものだろうか。
「鍵を奪うってのは、あんまり現実的じゃないよね。とすればピッキングしかないわけだけど、やったことないしな。しかも、内側からだと余計に難しいし。ま、ものは試しか。なんか細い針金みたいなもの、ないかな……」
見回していて、ふと自分の手首についているものが目にとまった。
シルバーの太めの腕輪で、青色の石が一つ埋め込まれている。
「何これ。私、こんなのつけてたっけ?」
と首を捻るものの、見覚えがないのだから、私が自分でつけたものじゃない。
よくわからないその腕輪に意識を向けていると――頭の中に文字が浮かび上がってきた。
「スロース、コクーン?」
どうやらこれの名称らしい。
スロース……あ、もしかして。
「これって、ダンジョンの攻略報酬とか、そんな感じのやつじゃない?」
ボスを倒したら報酬がもらえるのは鉄板だ。
あのとき、スロウス・アーマファオルの死体が、光のキューブとなって私の中に入ってきた。それがこの腕輪になったのでは、となかば確信する。
ともあれ、不思議と使い方もわかったので、さっそく試してみることにした。
二つのモードなるものがあるらしく、その内の『ムービングシェルター』のコマンド〝展開〟を唱えてみる。
すると、石から光が飛び出して、目の前で大きな光の球となる。
その光が消えたとき、そこには人ひとり収容できそうなサイズの、繭みたいな形をした金属の箱があった。
「おおっ」
思わずと感嘆の声がこぼれる。
正確な材質は不明だが、白色のつるりとしたフォルムで、なんだかここだけ世界観がおかしい。
馬車があって貴族がいて、服装的にも中世ヨーロッパ風の世界観だと思ってたんだけど……これはなんというか、ひどくSFチックだ。
まぁ、そんなことは正直、どうでもいい。
それよりも、私の興味はこれが持つ機能にあった。
「シェルターってことは、たぶんこの中に入れるんだろうけど……入口らしきものは見当たらないな。どうやって入るんだろ」
ボタンか何かがどこかにあるのかな、と思って装甲に触れた途端、ふっと視界が切り替わった。
「おおーっ!」
そこはムービングシェルター、もといスロースコクーンの中らしかった。
前部にはホログラムのモニターと操作パネルらしきものがあって、コックピット風ではあるが、座席にあたる部分はベッドになっている。
キングサイズはありそうだ。雲みたいなふかふかなマットに、同じくふかふかな枕があり、ふかふかな布団がかかっている。……うずうず。
後部には扉らしきものが二つ、設けられている。
前に立てば、自動でシュンッと横にスライドするタイプの扉だ。
うーん、サイエンス。
中を確認してみると、片方はトイレ、もう片方は風呂になっていた。
「へぇ、お風呂もあるんだ。これはかなり嬉しいな」
ぐーたらを愛する私は基本的にものぐさだから、面倒なときは二日入らないこともあったけど、それ以上はさすがに耐えられないし、風呂自体はけっこう好きなのである。
「にしても……広さ、おかしくない?」
明らかに外から見たサイズと内部の広さが合っていないのだ。
外観は巨大な卵を横たえた感じで、大きさはニメートルほどだった。
トイレと風呂はおろか、こんなキングはあるだろうサイズのベッドが入る余地すらない、はずなのだ。
風呂場の広さも、大人が五人は一緒に入れそうなくらいで、明らかにおかしかったし。
まぁ、ここはファンタジーな世界みたいだし、大方、空間拡張とかそんな感じの技術なんだろうけど。
『その通リ』
「うわ、出たな邪神」
ばっくれたわけではなかったか。
『俺をゴキブリか何かのよウに言うナ』
「ゴキブリなんかよりよっぽどタチ悪いでしょ。というかあんた、よくも勝手に異世界になんて送り込んでくれたね。一度呼んだのにシカトこいてくれたし。いますぐ私を元の世界に戻してよ。あと何発か殴らせて」
『そレはできン相談ダナ』
「なんで」
『できんモノはできン。諦めロ』
「それは、あんたの力でも戻せないってこと? それとも、あんたが帰したくないから?」
『さぁナ』
まともに取り合う気がないってことだけはわかった。
「じゃあ殴るほう」
『そッチも無理ダ。残念だッタナ』
「ちっ」
納得はいかないし、どちらも完全に諦めたわけではないけど、これ以上は不毛そうなのでいったん置いておく。




