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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
2章 波乱の闇オークション
19/140

19 なんて運がないんだ私

 

 というか、少女と普通に話せてるな。異世界なのに。


 つまり、私は少女の言葉を理解できているし、私の言葉も少女に通じているということだが――しかし、元の世界の言語とこの世界の言語が同じ、というわけではないようだ。

 少女の口の動きが、言葉と微妙に合っていないから。


 よくわからないけれど、双方の発した言葉が勝手に翻訳されている、といったところだろうか?

 ただ、本当に微妙な違いなので、この世界の言語と向こうの言語は似通っているのかもしれない。


 とまぁそれはいいとして、現状だ。


「これはどこに向かってるかわかる?」

「闇オークションの会場だと思うわ」


 闇が付くあたり、真っ当なオークションじゃないな。

 盗んだりなんなりで違法に入手したものや、表の世界では禁じられているものを取り扱っているとか、そんな感じだろう。

 私たちもその商品というわけだ。


 気を失っているあいだに、相当おかしなことになっている。そんなに長いこと気絶してたわけじゃないと思うんだけど……なんて運がないんだ私。


「私はレーナと言うの。あなたは?」

「トア」


 短く名乗り返すと、少女レーナは縛られた状態で芋虫のように動き、私のほうへとさらに近づいてくる。

 そして私の耳元に口を寄せて、ささやくように言った。


「大丈夫よ、トア。すでに私の従者が動いてくれてるから、助けは必ず来るわ」

「従者? レーナって、もしや貴族とかそういう感じ?」

「えぇ、貴族よ」


 どうりで気品があるはずだ。

 多少薄汚れてはいても、ほかの子たちと違って肌も髪も実に手入れが行き届いているし、もとよりまとっている空気が庶民ではありえない。


 普通に話してたけど、あとで不敬罪とかで首切られたりするのでは?


「どうもすみませんでした。知らなかったとはいえ、お貴族様になれなれしい口を利いてしまい……」

「いいわよ。気にしないで。私、好きじゃないの、そういうの。むしろ、貴族と知って距離を取られるほうが嫌だわ。……寂しいじゃない」


 そう言ったレーナの表情は、言葉どおり寂しそうだった。


「……じゃあ、普通でいい?」

「むしろ普通のほうがいいわ」

「とか言って、あとで不敬罪とかで打首にしたりしない?」

「するわけないでしょ!?」


 許可も得たし、打首にもしないと言質も取ったので、話し慣れない敬語は速攻で引っ込める。


「ところでレーナ、もしかしてわざと捕まった?」


 この世界の貴族がどんなものかは知らないが、子供が奴隷として売られて平然としていられるわけがない。こんなにも落ち着いていられるわけがない。


 従者が助けに来てくれるという確信があるからといえばそれまでだが、それにしたって多少なり不安はあってしかるべきなのに、レーナからはそういった感情はいっさい見て取れない。


 となればもう、意図的な、計画的なものとしか思えなかった。


「えぇ、そうよ」


 肯定するレーナはなぜかすごく得意げだが、しかしその顔もすぐに曇る。

 目を伏せて、苦しそうに、悔しそうに声を絞り出す。


「……私の大切な友達がね、さらわれたの」


 いわく、その友達というのは、平民、それも貧民にあたる子供らしい。

 よく屋敷を抜け出しては一緒に遊んでいたそうで、身分の違いはあっても、とても大切な親友なのだという。


 近ごろ人さらいが横行しているというのは知っていたが、そうした違法奴隷の売買が行われている場所を突き止めることは、ついぞできなかった。


 しかし、親友をなんとしてでも助け出したいレーナは、そこで一計を案じる。

 自分が人さらいに捕まることで、会場まで案内してもらうことにしたのだ。


 危険がないわけでもないのに、行動力があるにもほどがあるだろう。

 いるんだな、こういう良い意味でも悪い意味でもアグレッシブな貴族令嬢が、リアルに。


「家の人は反対しなかったんだ」


 それもまた、どうかと思うのだけど。


「できないわよ。だって、誰にも言ってないもの」


 うん? 誰にも?


「さっき、従者が動いてくれてるって言ってたよね?」

「えぇ。でも問題ないわ。私の従者はすごく優秀なの。いまごろ、奴らにバレないようにこの馬車を追跡しているはずよ」

「なるほど」

「場所さえ突き止められれば、すぐにお父さまが騎士を派遣してくれるから。だからね、トア。いまは大人しくしていて」


 レーナは、ここで逃げることは望んでいない。

 先に捕まっているはずの友達を助けることを目的とし、そのためにここにいる。

 ついでに、闇オークションを開催している組織を潰すことも目的に入っているのだろう。


「下手に騒ぎを起こして怪しまれたり、ほかの子たちが傷つくようなことになってほしくないの」


 とレーナが切実に言うので、私も大人しくしているしかなかった。


 けど、騎士による救出か……あらためて考えてみると面倒だな。

 あくまで私のイメージだけど、騎士というのは民を守る存在で、ざっくりと言えば警察みたいなものだろう。

 騎士に救出される、イコール警察のお世話になるということである。


 救出後は、きっとどこから来たのか聞かれるだろうし、身元の確認とかもされるだろう。

 だが私の場合、それに答えることはできないし、身元を証明するものもない。

 いや、答えること自体はできるのだけど、その結果、頭のおかしな奴だと思われるのがオチだ。間違いない。


 ……うん、面倒以外の感想が浮かばないな。



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