14 攻略法、見つけたり
「くぅっ――!!」
ぐーたらにかける想いの勝負は、いまのところ私が劣勢だった。
視界が通らないほどの物量ではなく、中央の繭はちゃんと見えている。
が、妨害が絶妙なのだ。
こちらの動きを読んで的確に妨害してくる。ほとんど無駄がない。
これも怠惰ゆえなのだろうか。
そうしてしばらく樹槍とやり合って、気づいた。――これは、想いの強さと気合でごり押しできるようなものではないと。
私の動きがことごとく読まれてしまっているのは、私がひたすら突破を目的としているからだ。
とにかくこの樹槍を力尽くで突破して、その先の繭へたどり着くことしか考えていないから、必然的に軌道や挙動が単純になり、だからこそ向こうも簡単に読めてしまう。
ただ繭へと向かってやってくるというだけで、ざっぱにでも動きは決まってくるから。
けれど、そういうことなら。そうであるなら――それをやめればいい。
急停止からの後退、そしてダッシュ。かと思えば横にステップを刻み、バックジャンプして、着地から斜めに走る。
フェイントをいくつも入れ、かわすふりをして突貫。低姿勢で踏み込んでいったと思えば、床の上を転がり、立ち上がって前に横に斜めに、速度にも緩急をつけていく。
そんな風にして、樹の繭を目指すのではなく樹槍を翻弄する挙動へとシフトすると――目論見どおり、樹槍の動きに明確な戸惑いが見えるようになった。
ただただ突撃していたときとは違い、あたかもおちょくるような、めちゃくちゃなリズムと無駄ばかりの動きには、どうやら対応しきれないようだ。
すると、絶対的だった妨害にほころびができる。そこを突いて滑り込み、わずかな前進。そこで再び翻弄しては、ほころびの隙間に飛び込んでいく。
それを繰り返す。
ほんの少しずつだが、たしかに中心部へと接近していく。
一瞬も気を抜けない中で、こんな三歩進んで二歩下がるような地道なことなんてしたくないけど、〝終わればぐーたら〟を心の支えに気力を振り絞る。
幸いにして、樹槍の速度はそれほどでもないのだ。
ただ、数が多いのが、面倒かつ厄介なだけで。
そして――……
「ここぉっっ!!」
ついに私は樹槍エリアを抜けたのだった。
◇
「はぁぁぁ…………」
心ゆくまま、肺から絞り出すようにして息を吐き出す。
間違っても防壁を叩いたり貫いたりしないようにか、防殻から数メートルの内側にいれば、樹槍は襲ってこないようだ。
つかの間の休息を……と言いたいところだが、そうは問屋が卸さないらしい。
今度は防殻の表面から穴の開いた突起がいくつも生まれ、何かの実らしきものが弾丸となって射出される。
「く、のぉっっ……!!」
ドドドドドッとマシンガンのごとく連射される木の実弾。
防壁に沿って走り回避するが、ご丁寧にも全方位、おそらくは繭の上にまで砲口が設けられ、それ自体は動かないものの絶妙に角度が異なり、すなわち面制圧してくる。
さすが最終防衛機構といったところか。
容易には行かせてもらえない。
一発、腕をかすめた。いまの私の防御力でも貫通する威力。
うかつに食らえない。何より、やっぱり痛いのはごめんだ。
(けどっ)
ここを突破するには、特攻しかないかもしれない。
被弾覚悟で、急所に当たりそうなものだけ斬るか弾くかする感じで……。
しかし、仮に死ななければオーケーの根性で弾幕を抜けてられても、まだ最後の防殻があるのだ。そこで確実に足は止まる。
仮にも己を守るための防壁だ。ちょっとやそっとでどうにかできるとは思えず、射角はけっこうスレスレのものもある。
つまりは、木の実弾が飛び交う中で防殻への対処をしなければならない、ということになる。
無理ゲーもいいところだ。
まずは木の実弾をなんとかしなければ、すなわち、それが発射されている砲口を潰さなければお話にならない。
弾幕をかわして、ブレードでもってひとつひとつ潰していく? ――否。
いろんな能力が上昇したいまなら、それよりも手っ取り早い方法がある。
細かくステップを踏み、最小限の動きで木の実弾を回避しながら、私は手に持ったアウルベアブレードを後ろへと振りかぶる。
刃の腹を木の実弾へと向けて、バットのように。
「――せいっ!」
そして放たれた一発に狙いを定め、剣腹で思い切り叩き返した。
まっすぐ、射線をそのまま戻る軌道で叩き返したそれは、狙いたがわず己が出てきた砲口へと帰っていき、おそらくはそれ以上の衝撃をもって機構を破壊したのだろう。
それきり、その砲口は沈黙した。
「――攻略法、見つけたり」
それから、同じ方法で次々と砲口を潰していった。
樹槍エリアを抜けるときよりも地味で、こちらはより作業感がある。
まぁ、単調作業は嫌いでも苦手でもないけど。
破壊するのは、射角が私のほうを向いている面だけでいい。
だいたい半面のすべてだが、しばらくして破壊完了。
追加で生えてくることも警戒したけれど、それはなかった。
第二関門クリア。
あとは防殻を剥がすだけだ。
さすが身を守る防壁だけあって、樹槍よりも硬い。
とはいえ、このアウルベアブレードもなかなかの切れ味を誇るのだ。多少の抵抗はあるものの、問題なく斬れる。
両手のアウルベアブレードを振り下ろし、または振り上げ、ひたすら斬って斬って掘削していくが……やはりここでも楽にはいかせてもらえない。
切られたところを塞がんと、新たに生えてくるのだ。
なのでそれよりも早くアウルベアブレードを振るい、斬り進んでいく。
「火魔法でも使えれば楽々だったのにっ」
なにせ植物、火に燃える。よく燃える。
さすがに〈火付け棒〉じゃ無理でも、火の球的なものを何個か撃ち込めば簡単に焼き払えただろう……と思ったのだが。
『そウ簡単にいくワケがないダロウ。魔法で作り出さレたモノは魔力に依存スル。相性よりも魔力の強さデ勝負が決まル。コレはスロウス・アーマファオルの魔力で作られたモノダ。生半な魔法じゃ焦げ跡一つつかんサ』
ま、どのみち私は火魔法なんて使えないから、物理のごり押しでこじ開けるしかないのだけど。