12 オマエはホント神使いが荒いナ
正直、これが積極的に乱戦に入ってこなかったのは幸いだった。
なにせこの同志、もとい敵は、一線を画して凶悪な見目をしているのだ。
ざっくりと言えば、胴体が熊で頭がフクロウの魔物――『アウルベア』。
わずかに開かれたくちばしの隙間からは、ずらりと並ぶ剣山のごとき鋭い牙が見えていて、フクロウよりも熊色が強い。
太い前肢の内側には羽根……と見せかけたブレードが生えそろっている。
動くたびにシャリシャリと金属の擦れる音がして怖気をふるった。というより耳に触る。それすらも精神への攻撃手段となりうるほど。
「――――」
そんな凶悪な見た目なのに鳴き声はいっさい上げず、寡黙の極み。
動作の音以外は立てることなく、だからこそ原始的恐怖を呼び起こさせる重い風鳴りを引いて、こちらにも短剣じみた爪を備えた太腕を振り上げる。
爪が振り下ろされ、それを避けても、刃はあとに何本も、何枚も続く。
それも織り込み済みの攻撃だ。もはや単発の攻撃が連撃に等しい。
軌道は同じでも微妙にバラバラに斬りつけてくるブレード羽根を、左右の肉切り包丁でさばいていく。
爪もブレード羽根も脅威だが、熊のパワーも健在。
そのうえ空を飛ぶフクロウの身軽さと機動力も持ち合わせた、非常に厄介な手合いで、かなり苦戦したが、なんとか倒した。
「はぁ……疲れた」
疲労もダメージも、さっきの乱戦以上だ。
傷は〈治癒ポーション〉で癒せるが、疲労はどうにもならない。〈エナジーポーション〉でごまかすことはできるけど。
肉体的な疲労よりも脳の、精神の疲労のほうが大きい。
一瞬でも気を抜くと大怪我するような戦いだったから。
その場に座って少しばかり休んだあとで、あらためてドロップアイテムへと意識を向ける。
アウルベアが落としたのは素材アイテムで、私をもっとも苦しめてくれたブレード羽根が二枚だった。
ちょっと忌々しい気持ちになってしまうが、すぐにあることに気づいて、そんな気持ちは一瞬で吹き飛んでしまった。
「これ、ちょっと加工すれば武器として使えるんじゃない?」
ちょうど二枚、二本あるし、刃渡りもちょうどいいし……いいな、これ。
「ねぇ邪神、この端のところを細く加工できない? 私の手で握れる太さに」
これくらい、と目の前で握った手を見せる、というか見る。
どこにいるのか知らないけど、私の視界を通して外を見てるみたいだからね、この邪神は。
『ふム……まァ、その程度ならバ、できナイことはナイ』
「そ。じゃあ二本、よろしく」
『ヤルとは言ッテないガ』
「でもやってくれるでしょ?」
『……オマエはホント神使いが荒いナ』
「いや、あんたほとんど何もしてないじゃん」
『容姿を変え、戦闘衣を作ッテ、さらに知識提供もしてやッテるダロウ。普通ハ、神をそンな風には使わんゾ。不敬もイイところダ』
「全部あんたの自業自得が招いたことでしょうが」
なんて、なんの生産性もない不毛なやり取りをしつつ。
「というか、自分で頼んどいてあれだけど、力残ってるの? 木の棒で打ち止めって言ってなかった?」
『新たにモノを作るのト、すデにあるモノの形状を多少変えルだけトでハ、必要となるエネルギー量が雲泥なのダ。このくらイの変形であレバ、ほンの少しのエネルギーで事足りル。その程度の力は残ッテいル』
「そうなんだ。それじゃあ、お願い」
どうやっているのかは不明だが、邪神は私の希望どおりにブレード羽根を加工してくれた。
だが、握れるように加工してもらっても、このままでは持てない。なので、皮素材を落とす魔物を探し、狩る。
順当にドロップしたその皮を帯状に切って、ブレード羽根の加工した持ち手にぐるぐると巻きつければ……
「よし、完成! うーん完璧! いい感じ!」
双剣の完成だ。
長剣よりも少し短いくらいの長さで、私の得意な武器の一つ。
ゲームを始めた初期はしばらく一刀流だったけど、二刀流の期間のほうが長い。非常に体になじむ。
アウルベアブレードと名付けた。
安直だが、名前なんてなんでもいい。
今後はこれでいくことにする。どうせちゃんとした武器なんて出ないだろうし。
日ごろの行いというやつだろうか。もともとくじ運とかないしな、私。むしろこれでじゅうぶんだ。
そのあとでアウルベアと戦ってドロップしたブレード羽根は、予備として全部、回収しておく。
ついでに持ち手に巻きつける魔物の皮も。
荷物にはなるけど、必要なものだ。
ブッチャーバニーの肉切り包丁も一応、捨てずに持っておく。
リーチは短いけど、取り回しは悪くないんだよね。
サブウェポンにちょうどいい。