11 戦う、戦う、戦う――
ブッチャーバニーとの戦闘から、私はさらに入念に位階上げをしていった。
ダンジョンも後半に入ったからか、対処こそできているものの、魔物の能力が総体的に高くなっている。その最たるものが――速度。
現在、戦っている『ウルフヘジン』も二足歩行のスピード型で、純粋な足の速さと攻撃速度にくわえ、機動力がかなり高い。
攻撃手段は両手に備えた爪。……天然ものではなく、両手に取り付けた、いわゆる爪型の拳武器である。
そしてこの魔物、狼の頭を持ち、腕から背中まで毛皮で覆われているが、よく見れば狼の毛皮を被っているだけだった。
これを動物型というのは苦しい。これもイロモノ枠だ。
とそれはともかく、高機動タイプの敵というのは手ごわい。
私もそのタイプだから余計にそう思う。
存在位階の上昇で上がるのは、身体能力だけではない。反応速度や動体視力なんかも上がる。
高機動タイプに対抗するには、まず見切り。そして反応。
相手の動きに対し、認識や反応がついていかなければ話にならない。
だから、いままで以上に狩りに励んだ。
にしても――と思う。
もしかしたら、このダンジョンのボスはスピード型の魔物なのかもしれない。
◇
角を曲がった通路の先は、行き止まりになっていた。
けれど、その手前に宝箱が鎮座している。
これまでの階層に、宝箱は十個前後あった。フロアの大きさやもろもろの基準を知らないので、それが多いのか少ないのかはわからない。
特に見つけた感動もワクワクもなくフタを開けると、中には――見慣れないたぐいのキラキラしたものが入っていた。
銀色のチェーンに小さな緑色の石がついたネックレスだ。
初めてのアクセサリー系アイテムだった。
『ソレは〈体力の首飾り〉だナ』
いわく『体力小アップ』の効果がついたネックレスらしい。
「ますますのブラック仕様……」
まぁ、きっと私の欲から出たものなんだろうけど。
〝小〟とあるとおり大した効果ではなく、アイテムの等級も一番下だ。
しかしそれでも、一分一秒でも早くダンジョンを攻略して元の世界に戻りたい私にとって、少しでも体力の上がるアイテムというのは純粋に嬉しい。
だって、動ける時間がいまよりも長くなるということだから。
「よし、ますます頑張るぞー!」
ネックレスを装着し、あらためて気合を入れて、私は意気揚々と通路を進む。
『テンションがハイを超えナイ程度に、ホドホドにナ』
そんな私の意気をくじくようなことを言う邪神は、もちろん無視だ。
◇
――七層。
戦闘は必ずしも、私が意図的にアクティブ化した単体だけとはかぎらない。
そもそも群れでいる種もいるが、それ以外でも、戦っているうちに近づいてしまったり戦闘に巻き込んでしまったりで、意図せず怠惰モードから邪魔者排除モードへ移行して、複数を相手にしなければならない状況になることもあった。
五層以前はそこまで激戦になることもなかったし、群れ以外で対複数の戦闘をせずに済んでいたのだけど……。
救いといえば、別種族で仲間意識がないから、連携してこないことか。
むしろ足の引っ張り合いが起きる始末だが、それでも戦闘の難易度は上がる。
ただでさえ、魔物の総合能力が五層までとは比較にならないのだ。
傷を負うことも増え、苦戦もするようになった。でも、だからこそ――私の戦闘スキルも存在位階も、いままで以上の速さで高まっていく。
――戦いに、没入する。
開かれたあぎとを下から蹴り上げ、体をひねって爪を弾き、無理やり首を倒して火の矢を回避する。
左の肉切り包丁が敵の前肢を断ち切り、噴き出す血を浴びながら、右の肉切り包丁で別の敵の首を斬り裂く――死角からのカマイタチ。寸前で反応するも、肩を浅く斬られる。
痛い。反射的に顔をしかめつつ、肉切り包丁を投擲。風の刃を放ってきた魔物の眉間にストンッと突き刺さる。
すかさず皮帯に差していた予備を握り、引き抜きざまに、繰り出された爪撃を受け止める。
跳ね上げたつま先で腕をかち上げ、回避とステップで一度その場から離脱。壁に向かって走り、足裏をつく――二歩、三歩と壁を蹴って、宙に躍り出す。
背後に回り、相手が正対する前に素早く双刃を振るって二体を仕留めた。
足を止めている暇はない。間合いへと踏み込み、振られる腕をかがんでかわし、相手の喉を掻っ切る。
――残り一体。