101 オタク魂に火をつけてしまったようだ
封罪宮『強欲』が排出している魔物は、魔導機兵と魔導機獣の二種だ。
魔導機兵は、魔力で駆動する機械人形、いわゆるロボ。ブレードなどの近接武器を持っていたり、魔導式の銃火器を積んでいたりする。
魔導機獣は、獣型の魔物をベースとし、その一部か大半が機械になっている、いわゆるサイボーグ。金属製の爪や角、しっぽなどを武器とし、たまに銃砲を備えた個体もいる。
強さで言えば、魔導機兵が上位にくるが、魔導機兵は全魔力駆動ゆえに、魔力の補充がなければ動けない。
対して魔導機獣は、自前の生命エネルギーと魔力変換機構で動くため、食べてさえいれば稼働に限界はない。――通常は。
亡国ハイエルドにはびこる魔導機兵は、ダンジョンの作る魔物の一種。
魔力とてダンジョンから供給を受けているはずなので、すなわち魔力切れで動かなくなることはない。
なお、その特殊性から、魔導機兵は基本的にダンジョンでしか見られない魔物だが、ごくまれに自然湧出もするらしく、そうして生まれた魔導機兵には、周囲の魔素を取り込んで魔力に変換する機能が備わっているという話だ。
ほとんど普通の生物である。まぁ、本当にめったにいないそうだが。
一方、魔導機獣は基が生物ゆえに、心臓を潰すか首を切れば死ぬし、生身を攻撃すれば痛みに怯み、出血で死ぬこともある。
しかし、すべてが機械仕掛けの魔導機兵には痛覚などなく、腕や脚の一本や二本を失ったところでものともしない。四肢を全部、失ったとて、銃火器を積んでいるタイプは普通に撃ってくる。
当然、失血死という概念もない。血液の代わりに魔力がめぐっているから、深く損傷すれば魔力は漏れ出すものの、ダンジョンから供給され続けているので、やはりそれでは止まらない。
もちろん全身をズタボロに、それこそ鉄くずと呼べるまでに壊されればさすがに止まるが、手っ取り早く魔導機兵を完全停止させる、もとい殺すには、心臓部である核を破壊する必要がある、ということだ。
◇
隠しダンジョンがつながっているのは城であり、魔導機兵や魔導機獣は城内から排出されているのだが、階層のように明確な境界はないものの、不思議なことに都市内の一定範囲で強さが異なってくるようだ。
都市の外周部はFランク相当で、その大半が魔導機獣。城へ近づくほどに強くなっていき、城内は軒並みCランク相当の、主に魔導機兵となっている。
ここで得られるドロップは、魔導機兵からは金属の欠片と魔導機のパーツ。魔導機獣からは肉や爪といった素材と金属の欠片が大半、低確率で魔導機のパーツが落ちる。あとはアイテムのたぐい。
ここへ来る者たちが主目的としているのは、魔導機のパーツだ。ランダムでドロップするそれを集め、正しく組み上げると一つの魔導機となるらしい。
魔導機を使うには魔力が必要だが、私が持っていないだけで、この世界の人間は多かれ少なかれ持っている。
中には魔石を加工した〈魔動石〉でエネルギーを賄うタイプもあるらしい。これはかなりのレアだそうだが。
完成する魔導機の種類はけっこう多くて、城内の魔導機兵がドロップするパーツで組み上げた魔導機は、グレード的にもそこそこのものだという話だ。
だが、魔導機を組み上げるには、当然ながら相応の知識がいる。ゆえに一部の技術者やオタクおよびマニアには、ここは人気の狩場となっているらしい。
まぁ、そうでなくても、売ればそれなりの金になるので、売却目的で来る冒険者もいるが、場所が場所だけに、そういった冒険者の数はさほど多くはない。
◇
「――ここは、オレにとっての楽園なんだ!」
ばっと両腕を大きく広げて言うのは、まさに生粋の魔導機オタクたる騎士、エインバースである。
彼は今回、私たちがここに来ることを知って、自ら侯爵へと同行を願い出た。攻略に必要な戦力として助力したいと。
だいぶ買い物はしたけれど、侯爵としてはまだまだ礼をしたりない様子で、エインバースの申し出はむしろ願ったりだと、即行でオーケーが出たらしい。
彼の目的は、明らかに攻略の助力よりも魔導機パーツの確保だが、実力も確かのようだし、魔導機兵らを倒してくれるならそれでいい。邪魔にならないなら放っておいてもいいだろう。
それに、彼は長期で休暇をもらったときにいつもここに来ているそうで、その点でもいてくれてよかったと思う。
事前知識はすべて彼から得たものだし、城まで到達しているので、道に関してもかなり詳しいのだ。
もとは一都市国家だけあって、けっこう入り組んでいるからね。
◇
敵は多く、また一致団結して戦うほどの手合いでもない。
シグマパーティ、ヴィレムパーティ、そして私とエインバースは単独で、こちらへ向かってくる、または進路上にいる魔導機兵らを片っ端から倒していく。
熊の魔導機獣、その首を刎ねた私の視界の端を、ワイヤーでつながったいくつもの刃が過っていった。
見れば、それは武器であり、振るうのはエインバースだ。彼の振るうそれは、架空のロマン武器たる蛇腹剣、あるいは連接剣と呼ばれるもので。
たしか、森を抜けるときに彼が使っていた得物は、普通の剣だったはず。大剣寄りの長い剣だったと記憶している。
「ねぇ、エインバース。あなた、前は普通の剣、使ってたよね?」
ちょっと気になったので、戦いながら近くに寄って問いかければ、蛇腹剣を繰って魔導機獣二体を立て続けに行動不能にしたエインバースの目がギラリと光った。
ぐりんっと彼の首が回り、こちらを向く。
「よく聞いてくれたな、トアさん!」
聞かなきゃよかったかもしれない。
オタク魂に火をつけてしまったようだ。