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異世界ぐーたら無双  作者: 空木るが
7章 封罪宮『強欲』攻略
100/140

100 竜ならやりかねないね

 

 後ろに馬車をつないだスロースコクーンがロウデンの町を経つ。

 設定した目的地へと向かって最短最速で走る。


 スロースコクーンの最高時速は八十キロ。その速度で普通、馬車は走らない。

 なので下手をすれば、目的地に着く前にどこかしら故障する可能性があった。


 そこで声をかけてくれたのがレーナの父、ウルグレン侯爵だ。

 軍事行動用で頑丈に造られた馬車を貸与してくれた。


 七、八人は乗れるスペースを持った小型バスほどもありそうな箱馬車だ。素材もそうだが、足回りなど、悪路を想定して作られている。


 通常は力のある専用の軍馬二頭で引かせるらしい。

 中には簡易なベッドとソファが運び込まれていた。


 試運転をしたときには特に問題なさそうだったが、そうは言っても、搭乗者の負担は通常の馬車の比ではなさそうだ。


 しかし、速度を落としてほしいとは誰も言い出さなかった。

 彼らにとっては仲間の命がかかった行軍。当前といえば当然であった。


 ただ、食事や睡眠のときだけは、少しだけ速度を落とす。


 行軍用でしっかりした造りになっているから、五十キロくらいでもほとんど揺れない。これなら野営する必要はなく、足を止めずに済む。


 ちなみに、スロースコクーンの内部に振動などはいっさい伝わらない。止まっているようなもので、快適そのものである。

 いやあ、私だけなんか悪いね。


 多少の罪悪感は感じつつも、私は道中、ふかふかベッドで存分にぐーたらさせてもらった。ムゥとスゥもいるよ。


 自動車の存在しないこの世界のこと、街道を走るのはいささか危険かもしれないが、スロースコクーンは優秀だ。


 障害があればちゃんと避けてくれる。魔物しかり、通行人しかり。ただし、向かってこないかぎりは。


 盗賊のたぐい? そもそもこの速度には追いつけない。


 それに、人だろうと、向かってくるなら跳ね飛ばして進む。この速度に向かってくる時点で、善良な一般市民ではありえないので。


 まぁ実際、何度か盗賊らしき一団の姿を見つけたが、呆然としたように見送るばかりだったけれど。


 そうして足を止めることなく走り続け、国境を超えて、険しい山岳の傾斜を登りきった先――私たちは、ついに目的地へと到着した。


 ◇


 山頂の元都市国家ハイエルドは、一言で言えば城塞都市だった。


 山に沿って築かれた三重の、高く分厚い城壁。段状になっていて、下から一枚目と二枚目、二枚目と三枚目の城壁のあいだにも、軍事的な施設だろう建造物が立ち並んでいる。


 そして、そこを抜けて最上――国としては小さいと言えるのだろうが、こんな場所に築かれているにしては想像以上に規模の大きな都市だった。


 奥に幾本もの尖塔が見える。あれが件の城だろう。


「わぁ……」


 思わずと感嘆の声がこぼれる。


 壮観、というほかにない。緑はまったくないが、マチュピチュのような場所に築かれた城塞都市なのだ。


 けれども、同時に思う。


「よくこんな場所に、これだけの都市を作れたものだよね」


 ここは峻厳な山岳地帯で、周囲は高く尖った山々が取り囲んでいる。

 その中で、この山の上にだけ都市が築かれているのだ。上部をごっそり切り取って平地にした上に。


 人がこれを作ったというのなら、とても信じがたいことである。


「あぁ、そのことなら」


 と私の驚嘆の疑問に答えをくれたのは、本好きで博識のミリーだった。


「あくまで伝説なのだけど、この山を切り取ったのは、かつてこの辺りで暴れ回っていた竜らしいわよ」


 その竜の攻撃によって、この巨大な山の上部、四分の一ほどが、冗談のように吹き飛ばされたそうだ。……あぁ、うん。竜ならやりかねないね。


 その後、邪竜認定されたその竜は英雄の手によって倒され、その英雄がこの地に都市を作ったと言われているらしい。


 まぁ、さすがの魔法でも、こんな大きな山の上部をまるっと削ってしまうのは至難だろうが、下地ができている上に都市を築くのなら、そこまで難しくはないのだろう。


「竜さえ倒せる強い英雄が王様だったなら、勇猛な戦士が多そうだよね」


 竜すら殺してのけた英雄だ。きっと誰もが称賛し、憧れを抱く者も多い。国王が務まるくらいなのだから、人柄も悪くはなかったのだろう。


 そんな人物が建国するとなれば、強い人間や、強さに憧れる人間たちが集まってきたに違いない。


「えぇ、そう聞いてるわ。ハイエルドは、行き場のない多種族の者たちを集めて興した国で、国内にはいろんな種族の猛者がいたそうよ」


 とはいえ、特になんのメリットもなさそうなうえ、天然の要害に囲まれたこの国をわさわざ襲うような国はないだろうし、少なくとも地上の魔物による襲撃の心配もしなくていい。


 けれど、飛行能力を持つ魔物もいるし、一度ここで大暴れした竜がいるのなら、また別の個体がやってくる可能性だってある。

 最悪を想定して戦力を整えておくことは必要だ。


 しかし、そういうことならなおのこと、城から出てくる魔導機兵に対し、相当に抗ったことだろう。何千、何万と戦ったはず。それほどの魔導機兵を倒せば、さすがに挑戦権を引き当てられたはずだ。


 もし邪竜殺しの英雄が、強い臣下らとともに封罪宮に挑み、ボスに負け、そのまま国が滅んでしまったということなら、ボスは竜よりも強いということにならないだろうか。


 私、シカたちに勝てるビジョンなんて浮かばないんだけど……。


『いヤ。一概にソウとも言い切れンゾ』


 存在進化をして一段上の生命体となった以上、ドラゴンより竜が強いのは間違いないが、それでも個体によって強さはピンキリなのだそう。


 その英雄が倒した邪竜が、存在進化したばかりだったのなら、シカはおろか、村に派遣されている竜たちの足元にも及ばないほどの力しかなかったはずだと、邪神はそう説明した。


『ソノあたりの比較ハ難しイのダ』

(ふぅん)


 まぁ、勝機が完全に失せたのでなければいい。



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