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ドラゴンの庭

氷のドラゴン

作者: 笹月美鶴

 この世界はドラゴンの庭ほどしかない。

 はるかな山々、広大な草原、巨大な街。

 そのどれもがドラゴンの庭に散らばったおもちゃたち。

 世界は、ドラゴンの庭なのだ。


 これはここではない、どこかの世界に伝わる、ドラゴンのお伽噺。

 真っ白な雪が積もる雪山に、氷でできているかのような、美しいドラゴンが住んでおりました。


 氷のドラゴンは芸術家。

 山に近付く人間をつめたい息で凍らせます。

 一瞬で凍った人間は、芸術的な、彼の作品。


 配置にこだわり、雪の斜面に並べていく。

 小道具にもこだわって、まるでそこに人が住んでいるかのよう。


 氷のドラゴンは芸術家。

 今日もせっせと作品作り。




 あるときふと、気配を感じて目をやると、一匹のドラゴンがおりました。

 この雪山には珍しい、緑の鱗を持った女の子。

 緑の鱗のドラゴンは、雪と同化している氷のドラゴンに気付いていないようでした。


 緑の鱗のドラゴンはおもむろに、彼の作品のひとつである人間をつかんで口に運びます。

 驚いた氷のドラゴンは翼を広げ、緑の鱗のドラゴンのもとへひと飛びすると、その手をひっぱたきました。


 緑の鱗のドラゴンの手から、凍った人間がぽろりと落ちます。

 それを大事そうに受け止めて、氷のドラゴンは彼女を睨みました。


 それ、あなたのごはんだったの?


 緑の鱗のドラゴンは申し訳なさそうにあやまります。

 この山で迷っていたというので、氷のドラゴンは山から出られる方角を緑の鱗のドラゴンに教えました。

 緑の鱗のドラゴンはすごく喜んで、何度もお礼を言って去っていきました。


 やれやれと、氷のドラゴンは奪い返した人間の氷の像をもとの位置に戻します。


 でも、氷のドラゴンの心はもやもやしていました。

 彼女に教えた道は、たしかにこの山を出るルートの最短距離だったのですが、彼女は翼を持っていませんでした。

 出るまでに、ずいぶん日数がかかるでしょう。

 彼女はお腹がペコペコな様子でした。


 どうして、彼女に食べ物をあげなかったのだろう。


 何日も過ぎますが、氷のドラゴンはもやもやしっぱなしです。

 そのもやもやに耐えきれなくなって、氷のドラゴンは彼女の後を追いました。


 緑の鱗のドラゴンを見つけた時、彼女は雪に埋もれて丸くなり、まるで死んでいるようでした。

 急いで彼女のまわりに雪を積んで、ドームを作ります。

 冷たい風の入らないドームの中は、外よりずいぶん暖かでした。


 ほどなく、緑の鱗のドラゴンが目を覚まします。

 氷のドラゴンは彼女のために持ってきた、凍った人間を彼女にあげました。

 緑の鱗のドラゴンは、カリリ、カリリ、とそれを食べました。


 まあ、血までしっかり凍ってて、カリカリしてとってもおいしい!


 彼女の言葉を聞いて、氷のドラゴンは悟りました。

 芸術とは、誰かに賞賛されて、誰かに喜んでもらえて、はじめて成り立つものなのだと。


 自分が芸術だと思っていたものは、ただのひとりよがりだったのだ。

 誰かが喜んでくれるもの。それこそが、芸術なのだと。




 真っ白な雪が積もる雪山に、氷でできているかのような美しいドラゴンと、緑の鱗を持つかわいらしいドラゴンが住んでおりました。


 氷のドラゴンはコックさん。

 人間をカリカリに凍らせて、氷の皿に盛りつける。


 喜んでくれるかな。

 味わってくれるかな。


 さあ、トッピングは何にしよう。


 氷のドラゴンはコックさん。

 彼の芸術的な料理は、愛するドラゴンをたいそう満足させました。

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